雨で、昼の野球中継が中止になりました。ゲンさんの家の居間で、テレビの前に座ったまま肩を落とすゲンさんに、カオルは「ほな、代わりにこれ観よ」と、30分ほどの短いアニメを差し出しました。
しゃべらない相方
『ウォレスとグルミット』は、アードマン・アニメーションズ(イギリス)が手がけるシリーズです。人形を少しずつ動かして1コマずつ撮る、ストップモーションの手法で作られています。主人公は、とぼけた発明家のウォレスと、しっかり者の犬グルミット。事实[1]
犬が主人公か! いいじゃん、それ! うちの港にも、漁師より偉そうな顔した犬がいるぞ。喜好
ウォレスは、チーズに目がない中年男性。自分では天才発明家のつもりです。相棒のグルミットはビーグル犬で、口はきかないかわりに、顔つきで十分にものを言います。事实[1]
しゃべらんのに、口ほどに物を言う。お笑いでいうたら、いちばん難しい役やねん。声も出さんと、顔だけで相方に返すんやから。私はグルミットのこと、そういう相方やと思て観てる。解读
黙って顔で返す、か。……遠洋の船の親方がそうだった。怒鳴らねぇんだ。眉毛一本で、全員が動く。喜好
それそれ。ほんで、ボケのほうはとぼけた発明家。楽天家でお人好しって、もう組み合わせだけで笑えるやん。解读
誕生日のプレゼントから
部屋を貸しに出したウォレスのところへ、借りにきたのは一羽のペンギンでした。わけはグルミットの誕生日。首輪とテクノズボンを贈ったせいで、お金が足りなくなったのです。シリーズのこの一本が『ペンギンに気をつけろ!』(原題 The Wrong Trousers)です。事实[1]
誕生日のプレゼントで金欠か! ……分かるぞ。うちも子どもの誕生日が続く月は、網の修理を一回待ってもらう。喜好
ほんで、すぐ部屋貸すんやもん。発想が軽いねん、この人。……ここから先は言わんとくわ。観てのお楽しみ。
屋根裏の8ミリカメラ
シリーズ2本目の『ペンギンに気をつけろ!』(1993年)と、3本目の『ウォレスとグルミット、危機一髪』(1995年)で、アカデミー短編アニメ賞を二度。そんな監督のニック・パークさんも、出発点は屋根裏部屋でした。13歳のころ、親の8ミリフィルムカメラでアニメを作っていたのです。生まれはイギリス、ランカシャーのプレストン。最初の『チーズ・ホリデー』は国立映画テレビ学校の学生時代に手をつけ、1985年にアードマンに入ってから仕上げました。事实[2]
13歳で屋根裏か! 根性あるなあ、その坊主!
人形を少しずつ動かして、一コマずつ撮る。それで30分やで。私、フレアの技を一つ覚えるのに、ボトルを何百回落としたか分からへん。毎日ちょっとずつしか進まん仕事の、気の遠くなる感じは分かるつもり。喜好
網も一目ずつだ。飛ばしたら、そこから魚が逃げる。解读
まだ泣くとこちゃうで。私も子どもの頃、負けた日は家の前の壁にボール投げ続けてた。一人で、毎日、同じことを。好きなことって、だいたい最初は一人で始まるねん。喜好
呼び名はクレイアニメでも、キャラクターの素材はプラスティシンで、粘土とは別物です。固まらない素材なので、何度でも使い回しがききます。事实[1]
乾かねぇ粘土か。漁網と同じだな。破れたら繕って、また海に出す。解读
人形に実写の光を
アニメーターたちは、セットに実写のスリラー映画のような光を当てようとしました。コマ撮りアニメの照明はたいてい平板だ、と感じていたからです。制作の始まりは1990年。BBC Two(イギリス)での初放送は1993年12月26日で、長さは29〜30分です。事实[3]
照明の話、好きやねん。夜の店も、照明ひとつで同じグラスが違う顔になる。人形に、実写の映画みたいに光を当てる。それを、こんな短い一本で本気でやってるの、ええなあって思う。喜好
30分の短編
店の話になると、カオルの声が急に落ち着くな。
昼はええねん、昼は。今日は野球も無いし、のんびりさせて。
聞いている側の顔を見る
観るときは、グルミットの顔を追ってみて。ウォレスがしゃべってる間、グルミットは何してるか。しゃべる方やなくて、聞いてる方を見る。野球でいうたら、ピッチャーやなくてキャッチャーを見るんと同じ。喜好
一回目は普通に笑って観たらええ。二回目は音を小さくして、グルミットの顔だけでどこまで話が分かるか、試してみて。私はそれやって、もう一回笑た。喜好
キャッチャーを見る、か。……分かった、やってみる。泣いたら教えてくれ。
コメディで泣く人、ゲンさんくらいやで。ティッシュ、そこ置いとくわ。
置いとくってことは、泣く前提じゃねぇか!
グルミットは言葉を話さない。けれど顔つきと身ぶりが、ことばより雄弁。ウォレスがしゃべっている間、聞いている側の顔を見てみてください。