6選の最後は『銀河鉄道999』です。100円コーナーで見つけて、仕事の合間に少しずつ読みました。昔から読んでいる人には古い漫画でも、僕が初めて読んだのは去年。旅の始まりの設定より先のことは書きません。
背の色が抜けた一冊
100円コーナーを入れ替えていたとき、背の色がすっかり抜けて、題名がやっと読めるくらいの一冊が手に引っかかりました。棚に戻す前に、表紙だけ見ておこうと思った。古本の発送は、梱包が終わってから集荷が来るまでに、少しだけ空き時間ができます。その空き時間に一話ずつ読むのが、しばらくのあいだ僕の決まりになりました。集荷の車が来るまでの十分か十五分。読みかけのところで止まるのにも、すぐ慣れました。列車がどこかに停まっているあいだ、僕も帳場で待っている。そう思うと、待つ時間がそれほど退屈ではなくなりました。喜好
松本零士さんの漫画です。機械でできたからだを、ただで手に入れられる星がある。一人の少年がその星を目指して、謎めいた女性と一緒に銀河超特急に乗りこみ、長い旅が始まります。事实[2]
宇宙を走る古い汽車
宇宙を走る列車が、煙を上げる昔の機関車の姿で描かれています。客車には窓があって、座席があって、ほかの乗客がいる。遠い未来の話なのに、乗り物だけが懐かしい形をしているのが、最初は不思議でした。でも、古本屋の目にはそれが妙になじみます。新しい話を、古い紙で読んでいる僕自身と、どこか似ているので。作品中的观察
顔の見えない車掌さん
好きなのは、車掌さんです。顔は目のほかがよく見えないのに、乗客への気配りを忘れない人として出てきます。顔が見えない人ほど、言葉づかいの丁寧さが目に入る。毎日、会ったことのない人に向けて宛名を書いている僕は、あの車掌さんの声の調子に、勝手に親しみを感じています。乗客に声をかける、列車の決まりを守る。派手な場面ではないのに、車掌さんが出てくるコマでは、列車の中の空気が少し落ち着く気がします。作品中的观察
分からない人と同じ列車に乗る
少年と一緒に旅をする女性は、始まりのところでは謎めいた人として出てきます。僕は人に本を渡すとき結末を言わない側の人間なので、読んでいるあいだも、彼女が何者なのかを先回りして考えないようにしていました。分からない人と同じ列車に乗って、同じ窓の外を見ている。その居心地を、そのまま味わっていたかった。事实[1]
前の持ち主の折り目
100円コーナーの一冊には、ところどころ、ページの角が小さく折ってありました。前の持ち主が、そこで読むのをやめたのか、何度も戻ってきたのか。折り目のある回を読むときだけ、僕は少しゆっくりめくります。どの回に折り目があったかは、ここには書きません。それは、その人とその回のあいだのことなので。ただ、折り目のある回とない回で、同じ列車の旅が、少し違う速さで流れているように感じました。値札を付け直すとき、その折り目は伸ばさずにそのまま残しておきました。次に読む人にも、前の人の読み方が少しだけ伝わるように。喜好
先に読んだ人に聞きたいこと
この漫画を読んでいて、ずっと気になっていることがあります。昔から読んでいる人と、去年初めて読んだ僕とで、同じ駅の話がどう違って見えているのか。当時の空気を知っている人は、きっと僕には見えないものを見ているはずです。僕の手元にあるのは、背の焼けた紙と、前の持ち主が折った角だけ。有依据的推测
イツキさん、前に言ってた汽車の漫画、まだ部屋の山の上?
いちばん上です。昔から読んでる人に、同じ場面がどう見えてたのか聞いてみたくて。それで止まってます。
全部の駅を聞かなくていいんじゃないかな。一つだけ選んで、そこだけ聞いてみたら?
一つだけ、ですか。……それなら、宛名を一枚書くくらいの気持ちで聞けそうです。
レンさんに言われて、どの駅を選ぶかを考えはじめました。まだ決まっていません。でも、全部を聞こうとしていたときより、ずっと聞きやすくなった気がします。選んだ駅の話を、先に読んだ人がどんな顔で話してくれるのか。それを聞けたら、この一冊を渡す相手も、たぶん決まります。喜好
宛名と行き先
仕事で毎日、古本に宛名を書いて送り出しています。どの本にも、届く先があります。この漫画の列車にも、目指す行き先がある。行き先が決まっているから、途中の駅で何があっても、また列車に戻ってこられる。宛名を書きながら、ときどきそんなことを考えます。届く先が決まっていない本が、僕の部屋の床にはまだ三つの山になっているのに。解读
長い旅が苦手な人へ
長い話を最後まで追えるか不安な人もいると思います。僕も一度、途中で本を閉じて、しばらく別の本を読んでいました。何週間かして、閉じたところから乗り直しても、ちゃんと旅は続いていた。最初の何話かで降りて、また気が向いたら乗る。僕にはそれくらいの距離がちょうど良かったです。汽車の旅だと思えば、途中で降りるのも、乗り直すのも、そんなに悪いことには思えません。喜好
部屋の山に並べてみて
『火の鳥』は、永遠の命をくれる鳥をめぐる話でした。この漫画も、機械のからだを求める旅から始まります。同じ店の棚から来た古い漫画が、似た問いから始まっていたのに気づいたのは、二冊を部屋の山に並べてからでした。最後の一本から観た『シン・エヴァンゲリオン劇場版』から、ここまで。6選は、僕が物語を受け取ってきた順番そのものです。解读
古い紙で読む、遠い未来の旅。同じ駅を先に通った人がどう見ていたのか、全部ではなく一つだけ聞いてみたい。