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6選の一本目は『遊☆戯☆王』です。いちばん長く手元にある物語で、土曜の夕方になると、いまも店の机にこの漫画から生まれたカードを並べています。始まりの設定より先のことは書きません。
放課後の机の真ん中
小学生のころ、放課後は友だちとカードを広げるのが毎日の決まりでした。誰が勝ったかは、ほとんど覚えていません。覚えているのは、誰かが新しいカードを袋から出した瞬間に、全員の頭が机の真ん中へ寄っていく、あの感じです。漫画のほうは、カードで遊びはじめてから、友だちと貸し借りして追いかけました。手元のカードの絵が、どんな人の手で出されているのかを見に行くような気持ちでした。喜好
『遊☆戯☆王』は高橋和希さんの漫画で、『週刊少年ジャンプ』で連載されました。主人公は、ゲーム好きの遊戯という少年です。事实[1]
始まりのころは、少し怖い手触りの話です。悪いことをした相手を、遊戯が「闇のゲーム」の勝負で裁いていく。作中に出てくるカードゲームはやがて本物のトレーディングカードになって、世界中に広まりました。僕が放課後に広げていたのも、その札です。事实[2]
好きなところ1 カードを出す手
勝負の場面では、カードを場に出す手が、コマの中で大きく描かれます。出す人は、札の名前を声に出して呼ぶ。僕はそこで、出す人の指先と、受ける側の目を、両方一緒に見てしまいます。カードは紙一枚なのに、場に置かれる瞬間だけ、重さが変わる。その変わり目を、コマの大きさで見せてくれるところが好きです。解读
カードの漫画、ですよね。……魔法は出てきますか?
魔術師の絵のカードなら、何枚か出てきます。あらすじは言わないでおきます。一巻の最初の何ページかだけ、そこで読んでいってください。作品中的观察
……カードを出すとき、名前を声に出すんですね。呪文を唱えてるみたいです。解读
リリィさんにそう言われてから、読み返すと札の名前がどうしても呪文に聞こえてしまいます。声に出して呼ぶから、紙が紙でなくなる。子どものころの僕らも、新しいカードは必ず名前を読み上げてから机に置いていました。喜好
カードそのものが、絵ごとコマの中に描きこまれているのも、子どものころはうれしかった。自分の手元にある札と、漫画の中の札を見比べて、同じ絵を見つけると、それだけで机の上と紙の上がつながった気がしました。いまでも、買い取りの箱からカードの束が出てくると、まず絵のほうを一枚ずつ見てしまいます。喜好
好きなところ2 横で見ている人たち
勝負の机のまわりには、たいてい誰かが立っています。声をかける人もいれば、黙って拳を握っている人もいる。勝負そのものは二人でしていても、話が二人だけのものになっていません。放課後の机も同じで、カードを出している本人より、のぞきこんでいる側のほうが声は大きかった。見ている人の顔があるから、勝ち負けの外側にも話が広がっていく気がします。解读
好きなところ3 少し怖いところ
始まりのころの、暗い罰の話。小学生の僕には怖くて、夜に読むのを避けていた回もあります。いま読み返すと、ルールを守るかどうかが、そのまま人の誠実さとして描かれているように見えます。ずるをした人には、ゲームのほうが返事をする。勝負の話なのに、殴り合いより先に、約束の話をしている漫画だと思っています。解读
好きなところ4 勝負の前のひと言
勝負が始まる前に、向かい合った二人が短く言葉を交わす場面も好きです。相手を挑発するひと言のこともあれば、何かを賭ける約束のこともある。カードを一枚も出していないうちから、勝負はもう始まっている。読んでいると、ここで交わした言葉が、あとで札を出す手の重さを決めているように感じます。店での一戦も、「よろしくお願いします」と頭を下げるところから始めています。あれを抜くと、同じカードでも、ただの紙の並べ合いになってしまう気がするので。解读
土曜の夕方の一戦
店では、初めての人に自分のデッキを貸して、一戦だけ相手をします。勝ち方は言いません。「このカード、引いたら嬉しいやつです」とだけ伝えておく。終わって返してもらったデッキの順番は、たいてい僕が入れたときと少し違っていて、それを一枚ずつ戻しながら、さっきの勝負を頭の中でもう一回やります。喜好
ルールを知らない人へ
カードのルールを知らなくても読めます。僕は一度、数字を追うのをやめて、札の名前を呼ぶ声と、それを受ける顔だけを追って読み返したことがあります。そうすると、勝負が二人の会話みたいに見えてきて、ずいぶん入りやすかった。分からない計算は飛ばして、顔のコマで止まる読み方でも、ちゃんと最後まで連れていってもらえました。喜好
順番どおりに読んだ一冊
6選のほかの五本は、大人になってから、終わりの一本から入ったり、店の在庫で出会ったりした物語です。これだけが、子どものころに友だちと貸し借りして、順番どおりに読んだ一冊。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で物語を後ろから読む癖がつく前の、僕のいちばん最初の読み方が、ここに残っています。喜好
カードは紙一枚でも、名前を呼んで場に置く瞬間だけ重くなる。勝負のコマでは、出す手と、横でのぞきこむ顔を一緒に読みたい。