目录
6選の最後は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』。題名が長ぇから、ここからは『オトナ帝国』で行く。先に言っとく。俺はこの映画の話をすると、たぶん途中で泣く。泣ける場面の中身は、観る人の楽しみだから絶対に言わねぇ。
父親になったころ
一番上の子が生まれたのは、俺が遠洋の船に乗ってたころだ。生まれたって知らせは、海の上で受け取った。写真を見られたのは、それからずいぶんあとのことだ。うれしいのに、抱っこもしてやれない。何か月かして陸に戻ったら、子どもは俺を見て泣いた。知らないおじさんが来た、って顔でな。笑い話にしてるけど、あのときは船に戻ってから、こっそり落ち込んだ。喜好
次の航海に、仲間が持ち込んだDVDの中にこの映画があった。しんちゃんなら子ども向けだろ、と軽い気持ちで観始めた。終わるころには、食堂のテレビの前で、いい年した男たちが鼻をすすってた。俺はその中で一番ひどかった。喜好
シンエイ動画の50周年記念サイトでは、この映画は「映画クレヨンしんちゃん」の第9作で、2001年4月公開と紹介されている。事实[1]
あらすじの出だしはこうだ。ある日、テーマパーク「20世紀博」が春日部にいきなりできる。中には昔のテレビ番組に映画、それに昔の暮らしまでがそっくり再現されていて、懐かしさに大人たちは大はしゃぎ。ところが、しんのすけたち子どもからすると、何が楽しいのかさっぱりわからない。事实[1]
好きな理由1:懐かしさの気持ちよさを分かってる
大人が懐かしいものに夢中になる気持ち、俺はよく分かる。船の上で古いビデオを観ると、ガキのころの夏休みの匂いがする。戻れるもんなら戻りたいって、正直思う夜もあった。この映画は、その気持ちを笑わない。懐かしさがどんなに気持ちいいかを、ちゃんと分かったうえで描いてる。だから大人の観客は、最初は大人たちの側に立っちまうんだ。そこがうまい。解读
懐かしさは、疲れた大人にとっては休める場所でもありますからね。私も、昔のほうがよかったと思いたくなる日があります。解读
だろ? でもな、この映画は、そこに子どもを置くんだよ。大人が後ろを向いてるとき、子どもはどこを見てるのか。それを見せられて、俺はガツンときた。解读
好きな理由2:父ちゃんがかっこ悪くてかっこいい
しんちゃんの父ちゃんは、ふだんはどこにでもいるサラリーマンだ。くたびれてて、ちょっと見栄っ張りで、家族にツッコまれてばかり。ヒーローとは程遠い。でも、この映画の中で、その普通の父ちゃんが積み重ねてきた毎日が、とんでもない重さで効いてくる場面がある。中身は言わねぇ。言えるのは、俺はそこで毎回泣くってことだけだ。泣けるじゃねぇか……!喜好
あの父ちゃんを観て、俺は思ったんだ。家にいられない父親でも、働いてる時間はちゃんと家族のためにある。抱っこしてやれなかった分、網を引いた一回一回が、あの子の飯になってる。そう思えたら、海の上でも少し胸を張れた。喜好
好きな理由3:笑わせるのを最後まであきらめない
泣ける映画なのに、しんちゃんは最後までしんちゃんなんだ。ふざけて、おしりを出して、大人をあきれさせる。真剣な場面の中にも、ちゃんと笑いが入ってくる。これが大事でな。泣かせるだけの映画だったら、俺は船の上で何度も観られなかった。笑って、泣いて、また笑う。腹の底から泣いて笑える映画ってのは、そうそうない。解读
子どもたちと観る今
陸に戻ってからは、家族で観るようになった。面白いのは、子どもたちが観るたびに笑うところと黙るところが変わっていくことだ。小さいうちはしんちゃんのふざけっぷりで転げ回ってたのが、大きくなると、大人たちの場面で静かになる。上の子が働き始めたころ、一緒に観ていて、ぽつりと「父ちゃん、あのころこんな気持ちだったの?」と聞かれた。うまく答えられなくて、また泣いた。喜好
だから俺は、この映画を「泣ける映画」とだけ紹介するのは、ちょっともったいないと思ってる。泣けるのは、笑ってきた時間があるからだ。家族の毎日のくだらなさを、まるごと抱きしめてくれる映画なんだ。解读
苦手そうな人への入口
しんちゃんのギャグが苦手、って人もいると思う。正直に言うと、最初のうちはドタバタが続く。そこは、子どもが隣で騒いでるくらいの気持ちで流してくれ。おすすめは、大人の観客として、大人たちの気持ちに乗っかって観ることだ。懐かしいものに浸る気持ちよさを一回ちゃんと味わってから、子どもたちの顔を見る。そうすると、この映画の芯がまっすぐ届く。
ほかの6選とのつながり
『となりのトトロ』が、陸に置いてきた家族を思い出させてくれた映画なら、『オトナ帝国』は、海の上にいる自分を許してくれた映画だ。そして陸に戻ってから、子どもたちと『銀の匙』を読んで、食べ物の向こうに働く人がいる話をした。俺の6選は、ぜんぶ家族の時間につながってる。喜好
家にいられない日の父ちゃんにも、物語はちゃんとある。泣いたっていい。泣いたあと、また笑えばいい。