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日常

撃たなかった砲台で手を鳴らす

剧透范围 无剧透 『サマータイムレンダ』は、東京で暮らす17歳の慎平が、幼なじみの葬儀のために2年ぶりに故郷の島へ戻るという第1話の始まりの設定と、島のモデルについての設定まで。島で起きていることの正体と、物語の展開・結末には触れません

『サマータイムレンダ』の島のモデル、和歌山市の友ヶ島へ。同じバンドのベースとギターなのに、ふだんはほとんど話さないレンとジン。寝坊したジンが港に着いたとき、レンはまだ桟橋にいた。

适合这样的人
同じ場所にいるのに、ふだんはほとんど話さない相手がいる人へ。言葉より先に手が鳴ってしまう人にも。
发言的人
Ren × Jin
圣地巡礼 和歌山県和歌山市(南海加太線の加太駅から加太港へ。友ヶ島汽船で友ヶ島の沖ノ島へ渡る) 十月の終わりの日曜、朝から夕方まで

加太港の待合で、レンは方眼ノートを開いていた。手には、今朝並んで受け取った乗船の整理券がある。友ヶ島へ渡る船は、前の日には予約できない。当日、港で整理券を受け取る決まりだ。

前の晩、二人のバンドは大阪でライブをした。打ち上げの帰り道、レンが「明日は友ヶ島に行く」と誰にともなく言った。ジンが振り向いた。「要塞の島だろ。俺も行く」。二人がライブの外で同じ予定を立てたのは、たぶん初めてだった。

始発の船が出た。ジンは来なかった。レンは桟橋の端まで行って、船が見えなくなるまで見送り、待合に戻った。ノートの今日の欄に、出発時刻を一つ書き足して、線で消した。

次の船の時刻が近づいたころ。港へ続く道を、黒い上着が全力で走ってきた。加太駅から港までは八百メートルほどある。ジンは待合の入口で膝に手をつき、肩で息をした。

Jin

……目覚まし、三つかけた。三つとも、俺より先に寝やがった。

Ren

おはよう。整理券、受け取ってきなよ。次の船、まだ間に合うから。

Jin

……お前、なんで乗ってねえんだよ。先に行けばよかっただろ。

Ren

二人で渡るって、昨日言ったから。

ジンは少し黙った。それから、真顔になった。

Jin

……それは契約だろ。守られたら、こっちも守るしかねえ。次は俺が先に並ぶ。……別に、礼を言ってるわけじゃねえからな。

友ヶ島へ渡るフェリーは、この一航路だけだ。三月から十二月までは通常運航で、水曜日は運休になる。祝日や繁忙期は出る。荒れた日は全便が欠航する。レンはそれを三回確かめてから、日曜を選んでいた。

船が港を離れた。二人は甲板の手すりに並んで立ち、何も話さなかった。レンは海を、ジンは空を見ていた。島までは二十分ほどだった。

島が近づくと、レンがノートを閉じた。説明を始めるときの癖だった。

Ren

『サマータイムレンダ』は田中靖規さんの漫画。ジャンルはSFサスペンスで、舞台は和歌山市に属する離島。アニメは四年前、春から秋の入り口まで、半年かけて放送してた。[1]

2022年4月〜9月放送、全25話

Ren

主人公の慎平は十七歳。中学を卒業して東京に出ていたけど、幼なじみの潮の葬儀のために、二年ぶりに故郷の日都ヶ島へ帰ってくる。もとは方言で話していたのに、東京の暮らしで標準語になってる。[1]

Ren

日都ヶ島のモデルが、いまから降りる友ヶ島。本物は無人島なんだ。もし人が暮らす島だったらどんな島だったか、と想像をふくらませて舞台を作ったとされてる。作中では人口七百人くらいの島で、集落はこの加太の町と、香川の男木島がもとになってる。[1]

Jin

で。

Ren

……で?

Jin

お前は、その話の何が好きなんだよ。設定は分かった。お前の顔が分かんねえ。

レンは口を開けて、閉じた。前にも、同じところで止まったことがある。仕組みを話すと、面白さを伝えた気になってしまう。そう言われたのは、たしか別の旅でだった。

Ren

……二年ぶりに帰ってきた島が、知ってるはずなのに、少しだけ違って見える感じ。その少しの違いを、主人公と一緒に探すのが好きなんだと思う。たぶん。

Jin

最初からそう言え。

船を降りると、島の道は思っていたより広かった。この島には明治時代、陸軍が砲台を築いている。外国の艦隊を大阪湾に入れないためだ。遊歩道に道幅の広い場所が目立つのも、もとは砲台へ向かう軍用の道として切り開かれたからだそうだ。

Jin

要塞の島。悪くねえ。……ついて来れんのか?

ジンは坂を大股で登りはじめ、五歩目で石の段差につまずいた。レンは何も言わずに、ジンが体勢を立て直すのを待った。ジンは「……別に」とだけ言った。

第3砲台の跡では、木々の間に暗い通路が口を開けていた。友ヶ島は戦後、島全体が国立公園になった。終戦のときに爆破された第2砲台を別にすれば、軍の施設の跡はわりあい傷まずに残っているのだという。

Ren

このあたりの砲台は、一度も使われないまま終戦を迎えたんだって。第二次世界大戦は、空の戦いが中心になったから。[3]

Jin

一発も撃たねえで、終わったのか。……撃たなかったから、残ってんだな。

通路の奥に、上へ続く階段があった。手前に柵が立っている。ジンがその柵に手をかけ、片足を乗せた。

Ren

ジン、そこは通れない。古い階段で、安全のために柵で閉じてあるんだ。[3]

Jin

……登れるぞ、これくらい。

Ren

登れるのは知ってる。ライブで機材の上に乗るのも見てる。でもここは、来た人がみんな同じように柵の手前で止まってるから、これだけ残ってる。一人が越えたら、次の人も越える。撮るのも、柵の手前から。

ジンは足を下ろした。柵から手を離して、上着のポケットに突っこんだ。

Jin

……別に。登りたかったわけじゃねえ。上から来る景色を、見てみたかっただけだ。

通路は、声がよく響いた。レンが何気なく手を一度打つと、音が壁を伝って、少し遅れて返ってきた。もう一度。今度は二拍。返ってくる。レンは数えるように、短いリズムを打った。

通路の反対側で、ジンが手を打った。レンのリズムの、裏に。響きが重なって、通路の奥で一つの音になった。レンは手を止めずに、少しだけ速くした。ジンもついてきた。ついてきて、最後の一拍だけ、わざと先に打った。

Jin

遅えんだよ、ベース。

Ren

走ってるのはギターのほう。……でも、今の終わり方はよかった。次の練習で、試していい?

Jin

……勝手にしろ。

島の西の端には、明治の初めに建てられた灯台がある。日本の標準時の子午線、東経百三十五度の線は、いまの測り方だとその西の広場を通っていて、それを示す標識が立っているのだと、レンは来る前に調べていた。

Ren

作中では、この島の地名がそのまま使われていて、「虎島」も出てくる。[1]

Ren

本物の虎島は、渡るための堤防が崩れていて、陸から行くのは難しいんだって。[3]

Jin

行けねえ島が、話の中には出てくるのか。いいじゃねえか。

海の向こうに、淡路島が見えた。友ヶ島は、紀伊半島と淡路島のあいだの海峡をふさぐように浮かんでいる。ジンはしばらく黙って、それを見ていた。

帰りの船を待つあいだ、レンはノートを開いた。今日の欄に、表を作りかけて、やめた。代わりに一行だけ書いた。島に、音の返る場所がある。答えの欄は空けておいた。

加太の港に戻ると、日が傾いていた。この町の淡嶋神社は、島の一つの神島が発祥の地とされているのだと、レンは言いかけて、やめた。今日はもう、設定の話は十分だった。

Jin

おい。……観てやる。その、二年ぶりに帰ってくる話。

Ren

うん。何も言わないでおく。最初は、知らないまま観たほうが面白いから。

Jin

当たり前だ。言ったら、お前の機材の上に乗る。

次の練習の日、曲の終わりで、ジンは最後の一音だけ、わざと先に鳴らした。レンは何も言わずに、その裏を弾いた。砲台跡で鳴らしたリズムだと、二人とも口にしなかった。帰りぎわ、ジンが「……観たぞ」とだけ言った。

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讲述者 Ren 拆解故事结构的探究者 阅读更多 Ren 的文章 →

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