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日常

ベースが二本しかないバンドの映画

剧透范围 无剧透 アニメ映画『音楽』の始まり(楽器を知らない不良高校生三人がバンドを始め、同じ学校のフォークのバンド『古美術』と演奏を聴かせ合い、森田が古武術の音に衝撃を受ける)と、制作の基本情報まで。研二のその後と町のフェスの行方、結末には触れません

シリーズ『わたしだけの推し』。練習のあとのスタジオのロビーで、ジンがめずらしく自分から話しはじめた。楽器も知らない不良の三人が、思いつきでバンドを始めるアニメの映画。ベース担当のレンに、どうしても言っておきたいことがあった。

适合这样的人
楽器を初めて鳴らした日の音を覚えている人へ。上手い下手より、最初の一音に胸が騒ぐ人にも。
发言的人
Jin × Ren
某一天 貸しスタジオのロビー 十月の平日、夜の練習のあと

練習が終わって、ドラムはもう先に帰った。ロビーの自販機の前で、ジンはギターケースを背負ったまま、レンはベースのケースを足もとに立てて、それぞれ缶コーヒーを開ける。二人は音の上では誰よりも通じるが、ふだんはほとんど話さない。今夜はめずらしく、ジンのほうから口を開いた。

Jin

……レン。お前、『音楽』って映画、観たか。

Ren

題名が?

Jin

題名が『音楽』だ。二文字。アニメの映画。

Ren

知らない。

Jin

だろうな。俺のまわりで観たやつ、一人もいねえ。ツアー先のホテルで、配信の一覧を流してたら、題名が短すぎて逆に止まった。

Ren

どういう話。

Jin

不良の高校生が三人。楽器なんか触ったこともねえ連中が、思いつきでバンドを始める。[1]

Jin

きっかけがいい。主人公の研二が、ひったくりを追いかけてるバンドマンから、ベースを押しつけられる。で、そのまま家に持って帰る。[1]

Ren

持って帰るんだ。

Jin

持って帰る。返さねえ。……真似すんなよ。

レンは缶を口に運びかけて、止めた。笑ったのか、むせたのか、ジンには分からなかった。

Jin

で、ここからがお前の話だ。そのバンド、ベースが二本ある。あとは太鼓が二つ。シンバルもねえ。[1]

Ren

ベースが、二本。

Jin

ギターなし、ベース二本。お前、それで曲になると思うか。

Ren

低音しかない。帯域がぶつかる。

Jin

ぶつかる。それでいい。そいつらが最初に鳴らした一音で、三人とも、ぶっ飛ぶ。曲になってねえ。ただの音だ。でも、そこから全部が始まる。[1]

Jin

バンドの名前が決まるのも、仲間の亜矢って女子に、その音を聴かせたあとだ。客は一人。[1]

Ren

一人。

Jin

一人で十分だろ。最初に人前で鳴らした日のことは、誰がどこに立ってたかまで覚えてる。お前もだろ。

Ren

覚えてる。

Ren

コードは?

Jin

知らねえよ、あいつら。……俺も最初はそうだった。コードを一個も知らねえで、開放弦だけ、ずっと鳴らしてた。それで十分、腹の底まで来た。

ジンは空いた手の指で、缶の縁を四回、同じ速さで叩いた。レンの目がそこに落ちた。

Ren

……今の、走ってない。

Jin

知ってる。

Jin

主人公の研二がまたいい。ほとんど顔が動かねえ。口数も少ねえ。何考えてんのか分かんねえ顔で、ベースを鳴らす。[1]

Ren

そういう人、知ってる。

Jin

誰の話だ。

Ren

答えは言わない。

ジンは舌打ちを一つして、缶を一気にあおった。

Jin

不良の映画なのに、ケンカの場面が一個も映らねえ。そこも気に入ってる。殴る話じゃねえんだ。鳴らす話だ。[1]

Ren

拳の話が好きなのに。

Jin

拳の話も悪くねえ。……でも、拳を握ってたやつが、手をひらいて弦をはじく。俺はそっちのほうに、腕がざわっとくる。

Jin

バンドの名前も、仲間の朝倉の思いつきで『古武術』。で、同じ学校に『古美術』ってバンドがいた。一字違い。[1]

Ren

一字違い。

Jin

向こうは、森田ってやつのフォークのバンドだ。ケンカになるかと思うだろ。ならねえ。お互いに、自分らの演奏を聴かせ合う。森田は、古武術の音を聴いて、ぶっ飛ぶ。[1]

Ren

上手いほうが、下手なほうに。

Jin

上手い下手の話はしてねえ。……初めて鳴らした音にしかねえもんがある。お前も知ってるだろ。

Ren

知ってる。

Ren

僕は、森田のほうだと思う。

Jin

知ってる。お前は譜面どおりに弾いて、一個もずらさねえ。

Ren

ずらさないのは、仕事だから。

Jin

だから言ってんだ。森田がその音を聴いたあと、どうなるかは言わねえ。お前が自分で観て、自分の耳で確かめりゃいい。

Ren

言わなくていい。

レンは缶を床に置いて、ケースの留め金を一度だけ外し、また留めた。考えるときの癖だと、ジンは知っている。

Jin

作ったのは岩井澤健治って監督だ。原作は大橋裕之の漫画。監督が、脚本も、絵を動かすほうも、自分でやってる。[2]

Jin

監督が、自分で絵を動かしてる。だから動きが人間くせえ。ちょっとずれる。そのずれが、ライブの音に聞こえる。

Ren

全部、一人で?

Jin

そこまでは知らねえ。……名簿と数字は、お前の担当だ。

Jin

研二の声は坂本慎太郎。俺には、あの声があの顔にぴったりはまって聞こえた。[1]

Ren

長さは。

Jin

短い。一本の夜で、余裕で観終わる。[2]

上映時間71分

Jin

それと、外国のアニメの映画祭で、長編のいちばん上の賞を取ってる。俺のまわりで誰も観てねえのが、逆に不思議なくらいだ。[2]

オタワ国際アニメーションフェスティバルの長編部門でグランプリ。日本公開は2020年1月11日

Ren

賞の話は、いらない。

Jin

だろうな。お前はそういうやつだ。

ジンは背中のギターケースを下ろして、ロビーの長椅子に立てかけた。しばらく黙ってから、珍しく長く話した。

Jin

……俺は、腕一本でのし上がる話ばかり読んできた。この映画は違う。うまくなる前の、最初の一歩のとこだけを、ずっと見せてくる。のし上がる手前の音だ。そこで腹の底が熱くなる。

Ren

のし上がる手前。

Jin

ああ。……それだけだ。

Ren

どこで観られる。

Jin

俺は配信で観た。いまもあるかは知らねえ。題名が二文字だから、探すときは監督の名前も一緒に入れたほうが早え。

レンは缶を両手で包んだまま、しばらくスタジオの防音扉のほうを見ていた。扉の向こうでは、次のバンドの音がくぐもって聞こえる。

Ren

……ジン。一つだけ。

Jin

おう。

Ren

ベースが二本のところ。どっちが下を弾いてるか、聴き分けられる?

Jin

……知らねえ。考えたこともねえ。

Ren

じゃあ、そこは僕が聴く。

Jin

いいじゃねえか。……観たら言え。どっちが下だったか。

Ren

うん。

レンは鞄から方眼ノートを出して、新しいページの隅に二文字だけ書いた。ジンはそれを横目で見て、何も言わずにギターケースを背負い直した。

Jin

……別に、お前に観てほしいわけじゃねえ。ベースが二本の話だから、言っただけだ。

本文中的作品

音楽
动画 2020 · 电影
讲述者 Jin 以音乐与拳头活在故事里的恶魔 阅读更多 Jin 的文章 →

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