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日常

風立ちぬの帰り道は法定速度で

剧透范围 无剧透 『風立ちぬ』は、作品紹介と冒頭の設定まで。『紅の豚』は、物語の前半で機体を修理に出すところまで。展開と結末には触れません

名画座で『風立ちぬ』を観た帰り、タカシは会社の軽バンの鍵を、隣の家のハヤテに預けた。荷台の花桶が一度も鳴らない運転で、話は飛行機を作る人と、直す人のことへ。十一回目のスポンサーの申し出は、今日もていねいに断られた。

适合这样的人
映画の帰り道に、感想より先に黙ってしまう人へ。隣の家の誰かを、ずっと応援している人にも。
发言的人
Hayate × Takashi
看完电影 駅から少し離れた名画座、帰りの軽バンの中 日曜の夕方

五時十分。名画座の古い扉を押して外へ出ると、空はまだ少し明るかった。今日の上映は『風立ちぬ』。前から五列目に、作業着の男の人と、黒髪の高校生が並んで座っていた。

駐車場には、荷台に空の花桶を積んだ白い軽バンが一台。タカシの会社の車だ。タカシは鍵を出して、少し迷ってから、ハヤテに差し出した。

Takashi

ハヤテくん。帰りの運転を、お願いしてもよろしいですか。

Hayate

……いいんですか。

Takashi

ええ。今日は助手席で、考えごとをしたいので。

Hayate

では、お預かりします。

ハヤテは運転席に座ると、シートの位置を二回、ミラーを三か所直した。エンジンをかける前に、両手でハンドルを一度だけ握って、目を閉じた。

Takashi

それは、お祈りですか。

Hayate

いえ。頭の中で、帰り道を一回走りました。

Takashi

……一回で、全部ですか。

Hayate

信号の数まで。十七個です。

軽バンは、駐車場を出るところから、驚くほど静かだった。発進も、曲がるのも、止まるのも、荷台の花桶が一度も鳴らない。

Takashi

……カートの大会で見るハヤテくんとは、別人ですね。

Hayate

道は、みんなのものですから。速さを競うのは、サーキットでやることです。

Takashi

そうでした。何度も聞いていたのに。

Takashi

風立ちぬは、何度目でしたか。

Hayate

三回目です。……でも、大きい画面は初めてでした。

Takashi

私は二回目です。前に観たのは、公開された年の夏でした。もう十年以上前になります。

『風立ちぬ』は2013年公開

Hayate

僕、六歳です。

Takashi

……そうなりますね。

Hayate

最初に観たときは、飛行機がたくさん出てくる映画だと思ってました。

Takashi

違いましたか。

Hayate

空に憧れてる男の子の話から始まるんです。夢の中に飛行機の設計家が出てきて、その人に励まされて、自分も設計家になると決める。だから、飛ばす人じゃなくて、飛行機を作る人の話でした。[1]

Hayate

僕は飛ばすほうになりたいので、最初は、ちょっとだけ遠い話に見えました。

Takashi

今日は、どうでしたか。

Hayate

今日は、近かったです。設計の机に向かってる場面で、ずっと手元ばっかり見てました。整備してるときの自分と、手の動かし方が似てる気がして。

Takashi

ハヤテくんは、乗るのと同じくらい、直すのが好きですからね。

Hayate

……好きです。速さの話ばかりしてると思われるんですけど。

Takashi

航空技術者だった堀越二郎さんの半生と、作家の堀辰雄さんの小説。あの映画は、その二つを題材にしていると聞いています。[1]

Takashi

舞台は大正から昭和の前半の、東京や名古屋や軽井沢。私はつい、あの時代の工場や会社が、どういう順番で若い技術者を育てていたのかを考えてしまって……[1]

Takashi

……また歴史の話にしてしまいましたね。

Hayate

いえ。僕、そこは聞きたいです。工場の話なら。

Takashi

では、一つだけ。

タカシは、新しい技術を組織が受け入れるときの話を、一つだけした。ハヤテは前を見たまま、うなずきながら聞いていた。信号が黄色に変わると、ハヤテは手前の停止線で、ぴたりと止まった。荷台の花桶は、やはり鳴らなかった。

Hayate

紅の豚も、少し似てますよね。

Takashi

ええ。

Hayate

壊れた飛行艇をミラノの工房に持ちこんだら、十七歳の女の子が、ボディの設計と修理を受け持つことになるところ。……僕、あそこを何回も観ました。[2]

Takashi

主人公より、その子のほうですか。

Hayate

乗り手を黙って支える人に、弱いんです。整備してる人が出てくる場面だけ巻き戻して、エンジンの音を聞き比べたりして、それで、ボルトを締める順番が——

Hayate

……あ、すみません。しゃべりすぎました。

Takashi

いいえ。運転は、まったくぶれていませんでした。

Hayate

それは、別の回路なので。

しばらく、車の中は静かだった。国道に出ると、前を走るトラックのテールランプが、夕焼けの残りと混ざって並んでいた。

Takashi

ハヤテくん。来年の遠征のことですが。

Hayate

はい。

Takashi

もし、費用の面で、私に何かできることがあれば……

Hayate

自分で走りたいので。

Takashi

……はい。

Hayate

これで、十一回目です。

Takashi

数えていましたか。

Hayate

すみません。断るたびに、ありがたいと思うので、覚えちゃって。

タカシは助手席で、少しだけ笑った。それ以上、遠征の話はしなかった。かわりに、窓の外の、もう暗くなりかけた田んぼを眺めていた。

Hayate

タカシさん。機械が運転する時代になったら、僕の腕って、要らなくなりますか。

タカシはすぐには答えなかった。考えるとき、いつも少し間が空く。

Takashi

……歴史のたとえを一つ、と思いましたが、やめておきます。私には、分かりません。

Hayate

分からない。

Takashi

ええ。ただ、今日の映画を観ていて、一つだけ思いました。あの主人公は、飛ばす人としてではなく、作る人として、ずっと空のことを考え続けていましたね。

Takashi

操縦する手が要らなくなる日が来ても、空や道のことを考える人は、いなくならないのかもしれない。……これは、答えではありませんが。

Hayate

……速さは、ブレーキの手前で決まるんです。

Takashi

はい?

Hayate

どこで止まるかを決めてるのは、いまはまだ、人なので。それがいつまでそうなのかは、僕にも分かりません。

Takashi

では、二人とも分からない、ということで。

Hayate

はい。二人とも。

Hayate

主題歌の、ひこうき雲。[1]

Takashi

荒井由実さんの。[1]

Hayate

あれが流れてるあいだ、僕の手、ずっとハンドルの形になってました。

Takashi

知っています。隣で見ていましたから。

Hayate

……見ないでください。

Takashi

すみません。年を取ると、隣の手もとがよく見えるようになるもので。

六時ちょうど。軽バンは、隣りあう二軒の家の前に止まった。ハヤテが数えていた信号は、本当に十七個だった。タカシの家の庭では、夕方の水やりを待つ鉢が並んでいる。ハヤテの家の窓は、まだ暗い。

Hayate

鍵、お返しします。ありがとうございました。

Takashi

こちらこそ。いちばん静かな帰り道でした。

Hayate

それ、ほめてますか。

Takashi

最大限に。

ハヤテは自分の家の玄関で一度振り返り、軽く頭を下げた。少しして、ハヤテの家の窓に明かりがついた。タカシは庭の鉢に水をやりながら、その明かりを見ていた。

本文中的作品

紅の豚
动画 1992 · 电影 #冒险 #剧情

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讲述者 Hayate 梦想天空的温柔赛车手高中生 阅读更多 Hayate 的文章 →

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