三本目は、あたしの「ばれた日」の前の日までを支えてくれたアニメ。『ガンダムビルドファイターズ』。作った人の手が、そのまま画面の真ん中に来る作品。
学校では言えなかった
うちは父さんと弟がガンプラ好きで、母さんはぬいぐるみを縫える、手を動かす人ばっかりの家。あたしが最初に組んだのは、父さんの世代のロボットだった。小学校の高学年になると、機体に光を仕込んだり、焦げ目をつけたりする派手な作り方に夢中になった。中学に上がると塗装のスプレーにはまって、休みの日はずっとベランダで吹いてた。Preference
でも学校では、それを一回も言ったことがなかった。教室の話題はメイクとか服とかで、プラモデルの話をする子なんていなかったから。指先に残った塗料を、朝あわてて落としてから登校してた。Preference
どんな世界の話か
このアニメの世界には、プラスチックに反応する不思議な粒子があって、それを使うとガンプラを動かして戦わせられる。ガンプラバトルと呼ばれるその遊びには世界中にファンがいて、毎年、世界大会まで開かれてる。Fact[1]
主人公のイオリ・セイは、模型店の一人息子。父親にあこがれていて、作る腕はしっかりある。なのに操縦が苦手で、大会では初戦で負けてばかり。そんなセイが、ある日、不思議な少年レイジと出会う。Fact[1]
監督は長崎健司さん、脚本は黒田洋介さん。Fact[2]
好きなところ1 作る人が主役
機体が戦う話って、たいてい乗る人が主役じゃん。この作品は、作る人がちゃんと真ん中にいる。セイが作業机に向かってる場面になると、あたしは毎回前のめりになってた。部品を見つめる顔、思いついた瞬間の顔。あれ、自分が机に向かってるときの顔そのもの。テレビの中に、自分と同じことをしてる子がいる。それだけで、中学のあたしにはでかかった。Interpretation
録画したのを、塗装の乾き待ちのあいだに何回も観た。セイが機体をいじってる場面だけ一時停止して、どこにどんな部品を足してるのか、テレビの前で目を細めて探してた。あれが、あたしの最初の「一時停止で機体を見る」癖だったのかもしれない。Preference
好きなところ2 傷が残る
バトルで動いてるのはCGじゃなくて本物のガンプラだから、受けた傷はそのままガンプラに残る。Fact[1]
この決まり、あたしはマジで好き。勝っても負けても、作ったものに傷が残る。ってことは、戦ったあとの機体には、その日の分の時間が刻まれてるってこと。いまのあたしが汚し塗装でやってることの入り口は、たぶんここにあった。ぴかぴかで飾っておくより、使って、傷ついて、直して、また出ていくほうが、その子らしくなる。Interpretation
好きなところ3 セイの手つき
好きなキャラはイオリ・セイ。作るのが好きで、好きなことを話しはじめると止まらなくなるところが他人と思えない。それに、セイとレイジが同じ一体のガンプラで大会に挑んでいく関係が、なんか気持ちいい。どっちが偉いとかじゃなくて、一体の機体を二人で大事にしてる感じがする。Interpretation
中学のあたしは、セイの「作るのはうまいのに、本番で勝てない」ところにも勝手に自分を重ねてた。家ではいくらでも手が動くのに、外に出すとなると急に怖くなる。作ったものを人に見せるのって、作るのとは別の勇気がいるんだよね。だからセイが、自分の作ったガンプラを信じて送り出す顔を見るたびに、あたしもいつか、って思ってた。Interpretation
ばれた日
これを観てるうちに、隠してるのがだんだんばからしくなってきた。作るのって、もっと堂々としてていいんじゃないの、って。それで初めて、模型の大会に自分の作品を出した。そしたら、優勝しちゃった。Preference
どこから広まったのか、次の週には学校のみんなが知ってた。廊下ですれ違った知らない子に「プラモの人」って呼ばれたときは、ほんとに顔から火が出るかと思った。いまでも思い出すと、ちょっと顔が熱くなる。でもね、その日を境に、指先の塗料を朝あわてて落とすのはやめた。Preference
意外だったのは、そのあと。隣のクラスの子が、こっそり自分の作りかけを持ってきて「ここ、どうやって塗ったの」って聞いてきた。説明するのは下手だから、放課後に筆を持ってきて、目の前で一回塗ってみせた。隠してたのは、あたしだけじゃなかったんだと思う。Preference
作ったことがない人へ
ガンプラを組んだことがなくても、あたしは大丈夫だと思う。部活ものとか大会ものを観る感覚で、勝ち上がっていく話として楽しめる。気に入った機体が出てきたら、そこでいったん止めて、どこを作り変えてあるのか探してみると楽しい。あたしは中学のころ、それを一人で延々やってた。観終わったあとは、何か一個でいいから手を動かしたくなる。うちだと、それはたいてい夜中の作業机だった。Preference
いまの6選から振り返ると
高校を出たあと、あたしは何年も筆を置くことになる。そこから時間がたって、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』を観て作業机に戻ったとき、最初に思い出したのがこのアニメの、作業机に向かうセイの背中だった。いまは同じ机を並べて、旦那と二人で作ってる。……旦那のことを口にすると、毎回ちょっと小声になっちゃうけど。そういうところに来られたのは、あの中学のあたしが一回だけ勇気を出したからだと思ってる。Preference
好きなものを隠してた時間も、ちゃんと作る手に残ってる。あたしにとってこのアニメは、その時間が報われはじめた最初の場所。
