三本目は『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』。カードで勝負して、カードで気持ちを通わせるアニメだ。オレがいまも腕にデュエルディスクを着けて旅してるのは、まあ、このアニメの名残だぜ。
カードを持つと言葉が出た
教室に戻れずにいたころ、カウンセラーの先生に勧められて、カードゲームの大会に出た。人と話すのは苦手だったのに、カードを並べた瞬間、口が勝手に動いた。「このカードを出すぜ」「ここで伏せる」。対戦のあいだだけは、言葉に詰まらなかったんだ。Preference
家に帰ると、このアニメを観て、また次の大会の作戦を考える。画面の中の決闘者たちは、カードを出すたびに胸を張ってた。オレも、あんなふうにカードを出したい。そう思いながら、勝った日も負けた日も録画を巻き戻して、決闘者たちがカードを引く前の一瞬の顔を何度も観た。引く前に、もう勝つと決めてる顔。オレはあれを、大会の前の晩に鏡の前でまねしてた。Preference
原作は高橋和希さんの漫画『遊☆戯☆王』。このデュエルモンスターズは、その漫画をもとにした二本目のテレビアニメだ。カードゲームの勝負が、物語の真ん中にある。Fact[1]
一話目から本気の取り合い
一話目がいきなり濃い。
主人公の遊戯のじいちゃんは、世界に四枚しかないと言われるレアカードを持っている。それを知った海馬瀬人が、その一枚を手に入れようとする。遊戯は、じいちゃんのデッキを受け取って、海馬との勝負に挑む。Fact[1]
オレは昔、レアカードの真贋を見る仕事をしてた。だから「世界に四枚」って言葉を聞くと、体が勝手に反応する。でも、そこから先の話はしない。値段の話になりそうになったら、オレは絵柄の話をすることにしてる。Preference
このカードの絵柄は、名前のとおり、白い体に青い目のドラゴンだ。翼の広げ方がいい。強さを見せびらかしてるんじゃなくて、ただそこに立ってるだけで場の空気が変わる。このアニメで子どものオレが最初に覚えたのは、カードは紙一枚でも、だれの手にあるかで顔つきが変わるってことだった。Interpretation
海馬瀬人の本気
好きなキャラクターを一人選べと言われたら、オレは海馬瀬人を挙げる。Preference
海馬は遊戯のライバルで、若くしてゲーム会社のトップに立っている男だ。Fact[4]
キャラクターのもとになったのは、作者が友だちから聞いたエピソードだったそうだ。オレはその話を知ったとき、少しうれしかった。ああいう、ゲームに本気すぎる人って、本当にどこかにいるんだよな。Fact[4]
海馬の本気は、観ていて少し怖い。でも、怖いくらい本気の人がいるから、勝負は面白くなる。海馬は、勝つことに一切手を抜かない。相手がだれでも、目の前のデュエルに全部を賭ける。正直に言うと、オレも勝負になると本気になりすぎる。旅先で子ども相手でも手加減が下手で、それでふつうに負けて、本気で悔しがる。そのたびに、オレの中の海馬が「まだだ」って言うんだ。Preference
海馬ってのは、一人でてっぺんまで登る側のやつだろ。……嫌いじゃねぇ。Preference
だろ! ジンなら分かってくれると思ってた。あいつの本気は、カードへの誇りなんだぜ。負けても、カードのせいにはしないんだ。Interpretation
アニメだけの寄り道
アニメは、原作の漫画をそのままなぞるだけじゃなくて、話を変えたり、アニメだけの展開を足したりしている。Fact[1]
原作を読んでた友だちには「そこ違うぞ」と言われたこともある。でもオレにとっては、それだけデュエルが多く観られるってことだった。知らない相手、知らないデッキ、知らない勝ち筋。毎週、新しい対戦相手が来るのが、ただうれしかった。いま思えば、旅先で知らない相手に「デュエル!」と叫ぶ癖は、あのころの毎週の待ち遠しさから来てるのかもしれない。Preference
旅先の一枚
いまオレは、ゲームやアニメに触れる機会の少ない町を訪ねて歩いてる。そういう町で、言葉が通じない子と目が合ったら、まずデッキを出す。高いカードは一枚も入れてない。貸したまま戻ってこなくても、笑って手を振れるやつだけだ。Preference
最初の一戦は、だいたいオレが説明しすぎて相手がぽかんとする。そこで止まって、カードを一枚ずつ指でさして、身ぶりで伝える。二戦目になると、相手の子がもう自分からカードを伏せはじめる。三戦目には、オレがふつうに負けてる。悔しい。でも、その子がカードを掲げてこっちを見る顔が、画面の中の決闘者たちの顔とそっくりなんだ。あのアニメが子どものオレに見せてくれたのは、たぶんこの顔だったんだと思う。Preference
別れるとき、デッキごとその子に渡すこともある。次にその町を通ったとき、そのデッキで別の子とデュエルしてる姿を見かけたら、オレの旅は大成功だ。Interpretation
オレが入りやすかった観方
カードのルールが分からなくて手が出ない人もいると思う。オレが子どものころにやってたのは、好きなモンスターを一体だけ決めて、そいつが画面に出てくるのを待つ観方だった。出てきたら勝ち、くらいの気持ちで観てると、出てこない回の勝負まで気になってくる。ルールはあとから勝手についてきた。つまり、楽しいってことだぜ。Preference
誇りの話はほかの作品にも
海馬の、自分の好きなものに誇りを持ってる感じは、『爆転シュートベイブレード』でベイを回す子どもたちにも通じてる。それと、ゲームを作る側に立つ海馬を観てたから、ずっと後で『バクマン。』を読んだとき、作る人の本気に、あんなに素直に打たれたんだと思う。Preference
カードは紙一枚。でも、本気の人の手にあると顔つきが変わる。その顔が見たくて、オレはいまもデッキを持ち歩いてる。