夕飯の片づけが終わった台所。ゲンさんが、テレビの中の大きなサソリを指さして「これ、うまいのか?」と言いました。シズカは布巾をたたむ手を、少しだけ止めました。
魔物を、知っている料理に
九井諒子さんの漫画『ダンジョン飯』は、KADOKAWAの『ハルタ』で連載されました。始まりはvolume11、終わりはvolume107です。登場人物たちは、古典的なファンタジー作品に出てくるモンスターを、現実にある調理法でその場で料理しつつ、ダンジョンを進んでいきます。Fact[1]
作中の料理にはレシピも付いていて、ファンタジーでありながら、それがリアリティと説得力につながっている、と紹介されています。2016年には、第1話の「大サソリと歩き茸の水炊き」などが食品サンプルになり、東京、大阪、徳島のイベントの会場で展示されました。Fact[1]
水炊きか! サソリはともかく、鍋にしちまえば何でもうまそうに見えるな。
ゲンさん、そこなんですよ。知らない食材を、知っている料理の形に入れる。水炊き、塩茹で。形を知っていると、人は味を想像できます。うちでも、子どもが初めての魚を嫌がるときは、いつものお味噌汁に入れますでしょう。Interpretation
栄養の偏りを許さない料理番
ドワーフのセンシは料理の担当です。ダンジョンの中にいても、食べることと健康がどれだけ大事かを説き、栄養の偏った食事はよしとしない。そういう人物として紹介されています。Fact[1]
私が感心するのは、そこです。冒険の途中でも、一食のなかに、主食になるものと、たんぱく質と、野菜にあたるものをそろえようとする。食材が魔物でも、献立の組み立ては台所と同じなんですね。観るときは、その一食に何が足りなくて、何で埋めたかを数えてみてください。Interpretation
船の上でも、飯炊きがいちばん偉かったからなあ。腹が減ってると、みんな機嫌が悪くなる。Preference
おなかがすいていると、人は意地悪になりますからね。
下ごしらえを見る
もう一つ。料理の場面では、焼く・煮るより前の時間を見てください。どこを取り除くか、どう洗うか、どこまで火を通すか。魚でも同じで、さばき方で味の半分は決まります。知らない食材ほど、下ごしらえに作り手の考えが出るんです。Interpretation
……さばくのは、お前のほうが速いけどな。
あらあら。それは、言わなくていいことですよ。
アニメで観るなら
テレビアニメを制作したのはTRIGGERで、監督は宮島善博さんです。第1期として2クール分が放送されたのは、2024年1月から6月にかけてでした。Fact[2]
アニメでも、私は料理の場面で一度止めて、まな板の上を見ます。何が切ってあって、何が残っているか。残ったものの行き先まで描いてあると、うれしくなります。Preference
見つけ方を三つ
一つ目、見たことのない食材が、水炊きや塩茹でのような「知っている料理の形」に入る瞬間を見る。二つ目、その一食の栄養の組み立てを数える。三つ目、焼く・煮るより前の下ごしらえを見る。台所に立つ人ほど、同じところでうなずけるはずです。Preference
見たことのない食材でも、知っている料理の形に入れれば、人は味を想像できる。まずは、ごはんにしましょう。