土曜の午後、原宿のルカーノのアトリエ。カノンはライブ衣装のフリルを縫いつける練習の合間に、作業台の端に漫画を一冊立てかけていました。表紙には、背の高い女の子と、きりっとした顔の女の子。ルカーノがのぞきこむと、カノンは待っていたように題名を指さしました。
カノンちゃん、その針の運び、先週よりずっといい線だ。……で、今日の先生はその漫画かな?
えへへ、ありがとうございます! 『かげきしょうじょ!!』です。歌劇団の音楽学校のお話で、アニメから入って、いまは漫画で追いかけてます。Preference
びっくりマークが一つ増えた
『かげきしょうじょ!!』は斉木久美子の漫画です。始まりは2012年、『ジャンプ改』での連載で、このときの題名は「!」が一つの『かげきしょうじょ!』でした。2015年からは掲載誌を『MELODY』に移し、「!」が二つの『かげきしょうじょ!!』として続いています。最初の連載ぶんは、2019年に『かげきしょうじょ!! シーズンゼロ』として一冊にまとめ直されました。Fact[1]
私、本屋さんで二冊並んでるのを見て、印刷のまちがいかと思いました。一つ目の「!」が始まりで、二つ目が続きの合図なんですね。Interpretation
服でいえば、同じ型紙で、ボタンを一つ足して仕立て直したようなものだね。シルエットは変わらないのに、前を開けたときの表情が変わる。Interpretation
百期目の四十人
物語の中心にあるのは「紅華歌劇団」。創立は大正の時代までさかのぼります。未婚の女性だけで舞台をつくる劇団です。団員を育てる「紅華歌劇音楽学校」には、狭き門をくぐった生徒が毎年入学してきます。主人公たちは、その第100期生の40人です。Fact[1]
四十人って、うちの事務所の全員より多いです。しかも百期目。百回ぶん、同じ門の前で礼をした人たちがいるって考えると、背中がまっすぐになります。Preference
百期という数字ひとつで、劇団の歴史がまるごと見える。架空の劇団なのに、廊下の床が古びているのまで想像できるよ。Interpretation
紅華歌劇団のモデルは、実在の宝塚歌劇団です。Fact[3]
紅華は春・夏・秋・冬の4つの組に分かれていて、男性の役を演じる「男役」と、女性の役を演じる「娘役」があります。Fact[3]
衣装の目で見ると、男役は肩の線と、ズボンの裾の落ち方の仕事だ。娘役はスカートの広がりと、相手の隣に立ったときの色の引き算。同じ舞台に、正反対の仕立てが並ぶ。作る側はそこが楽しいんだ。Interpretation
引き算! 私、自分の衣装ではまだ足し算しかできてないです。Preference
背の高い子と元アイドル
主人公の渡辺さらさは身長178cm。『ベルサイユのばら』のオスカルを演じるのが夢です。寮で同じ部屋になるのは、アイドルグループの元メンバー、奈良田愛。性格のまるで違う二人が、同じ学年で歩きはじめます。Fact[1]
私はどうしても、愛ちゃんのほうを見ちゃいます。アイドルの舞台から、歌劇の舞台へ。同じ「舞台」でも、礼の深さも、立ち方も、たぶん全部ちがう。それでも、もう一回いちばん下の学年から始めるって決めた子なので。Interpretation
さらさのほうは?
さらさは幼いころ、歌舞伎役者になることに憧れていました。けれど、その夢はあきらめています。Fact[1]
歌劇の学校に、歌舞伎に憧れていた子が入ってくる。並べると、鏡みたいだなって思いました。一回あきらめた夢の先で、もう一回、別の舞台に立とうとしてる。……あ、痛っ。針、刺しました。Interpretation
指、見せてごらん。うん、浅い。……針は急がなくていいよ。さらさたちだって、四十人で一歩ずつだ。
はいっ。私、作中の演目の衣装も、ルカーノさんの目でいつか見てほしいです。アニメのほうも、一緒に観ませんか。
Esatto、いい提案だ。ただし、観るのはこのフリルを三つ縫い終えてからね。四つ目は、たぶん要らないから。
三つですね。数えます。縫い終わったら、礼をしてから再生します!
『かげきしょうじょ!!』は、最初の雑誌では「!」が一つの『かげきしょうじょ!』だった。宝塚をモデルにした架空の歌劇団は、百期目の四十人から描かれる。