アニメ『タッチ』を最後まで観た人向けの、二周目の話です。展開に触れるところは畳んであるから、まだの人は開かんといて。聞き手はゲンさん。高校野球を観ると九回を待たずに泣き出す人やから、今回はティッシュを先に置いてから始めます。
観直す前に知っとくと効く話
テレビアニメは1985年3月24日から1987年3月22日までフジテレビ系列で放送された、全101話。総監督は杉井ギサブローさん。Fact[1]
題名の『タッチ』は、作者のあだち充さんの前の作品『ナイン』『みゆき』にならった3文字の言葉で、しかも野球用語であることから思いついた、とされている。Fact[1]
一周目の私は、だらしない兄ちゃんと出来のええ弟の、よくある兄弟もんやと思て観てた。題名も、野球の「タッチ」くらいにしか思てへんかった。Preference
Ending and reveals題名にこめられた意味(作品全体)Tap to open
題名には、弟の夢を兄が受け継いでいくテーマとして「バトンタッチ」の意味が込められた。あだちさんは、連載のごく初期に、担当編集者との打ち合わせで和也の死を描く展開をもう決めていた、とされている。
これを知ってから第1話に戻ると、もうあかん。最初のほうの、のんきな三角関係のやりとりが、全部「渡す前」の時間に見えてくる。Fact[1]
俺もだ。一周目は達也の昼寝ばっかり覚えてる。二周目は、昼寝してる横で誰が何してるかが目に入るんだよな。Observation from the work
サブタイトルを先に読む
第3話のサブタイトルは「思わず初登板! 和也の名前でお騒がせ!?」、第5話は「熱血バトンタッチ! ゴールは正確にネ!?」。Fact[1]
一周目は軽いノリの題やなあと思って流してた。二周目は、題を読んだだけでどきっとする。序盤のドタバタ回の題に、あとで効いてくる言葉がもう混ざってる。ふざけた顔で本題を先に言うてしまう、あの感じ。私はこういう仕込みがほんまに好きやねん。Interpretation
Ending and reveals第一部の結末(第27話まで)Tap to open
和也は、南を甲子園に連れていくと誓ったあと、地区予選の決勝に向かう途中で交通事故で亡くなる。第26話の題は「試合終了! 君がいなければ…」、第27話は「短かすぎた夏…カッちゃんにさよなら!」、そして第28話は「第2部開始 エースのいない野球部なんて…」。
一周目、私は第27話で兄の録画を止めてもろて、しばらく黙ってた。二周目は第26話の前に一回深呼吸してから観た。分かってても、来る。分かってるから、そこまでの和也の何気ない台詞が全部重たい。Fact[1]
……泣けるじゃねぇか……! 分かってんのに毎回だよ。うちの坊主どもにも観せたけど、あいつら俺の顔ばっかり見てやがった。Preference
そらそうやわ。画面より先にゲンさんが泣いてるんやもん。
言わずに態度で見せる
あだちさんは、登場人物の秘めた思いを「言葉ではなく態度で伝える」、いわゆる「粋」な形で表すために模索したと語っていて、こうした「野暮」や「粋」の感覚は落語から学んだものだった、とされている。原作には、疲れ切った達也が心の中では愚痴をこぼしながら、仲間に声をかけられると軽口を叩いて見せる場面がある。Fact[1]
落語から来てる、て聞いて膝を打った。笑いの人間からすると、達也の軽口は全部「間」やねん。しんどいときほど冗談を言う。言うたら、まわりの肩の力が抜ける。一周目の私は、達也をただのいい加減な兄ちゃんやと思ってた。二周目は、ふざける回数を数えてみてほしい。しんどい場面ほど増えてる気がする。Interpretation
ただ、アニメ版は原作の内輪受けの話題や軽いギャグをほぼ削って、シリアス寄りの作りになっている。Fact[1]
せやから、アニメで残ってる軽口は、残すと決めて残した軽口や。二周目はそこを拾うのが楽しい。笑わせるために言うてるんやない、照れ隠しで言うてる冗談。私はそういう冗談がいちばん好きやし、いちばん難しいと思ってる。Interpretation
マウンドでの体の使い方
二周目でいちばん追いかけてほしいのが、達也がマウンドで投げるときの体の使い方。元ピッチャーの目で言うと、投球フォームは名刺みたいなもんや。誰に教わったか、誰を見て育ったか、全部出る。Preference
Ending and reveals結末(最終盤の試合)Tap to open
アニメ版の最終盤、須見工との決勝で新田と最後に対決する場面。原作では和也のものと思しい残像が現れて達也に力を貸すが、アニメ版では、それまで和也の投球フォームを模倣していた達也がフォームを切り替え、自分の力で打ち取るように変えられている。
これを知ってから第2部に戻ると、達也のフォームがずっと借り物に見えてくる。和也の代わりを務めようとして、和也の投げ方をなぞってる。最後に自分の投げ方に戻るのは、バトンを受け取った人が、ようやく自分の足で走り出す瞬間や。私はここで、子どものころ監督に「人のまねはもうええ、自分の球を投げえ」と言われた日を思い出した。Fact[1]
借り物のフォームか。漁でもよ、親父の網の投げ方をまねしてるうちは、魚がちょっとずつ逃げるんだ。自分の投げ方になった年に、急に獲れるようになった。Interpretation
もう一組の兄弟
この作品は双子の話やけど、二周目は「兄と弟」という組み合わせが、上杉家のほかにも出てくることに気づいてほしい。Interpretation
Up to midway後半の展開Tap to open
終盤には、監督代行の柏葉英二郎と兄・柏葉英一郎との確執がほのめかされ、上杉兄弟との対比を通じて、英二郎と達也の気持ちの交錯も描かれた、とされている。
一周目は、厳しすぎる監督が出てきたな、くらいやった。二周目は、この人も兄弟の話を背負ってる人として観てしまう。上杉家の双子と、もう一組の兄弟。同じ「兄と弟」でも、結び方が違うとこうなる。並べて観ると、達也の受け取り方の健やかさが、よけいに沁みる。Fact[1]
最終話の題が途中で切れている
一周目は最終話の題を読まずに再生してた。二周目は、再生する前に題を最後まで読んでほしい。どこで切れてるかに、この作品の照れ方が出てる。Interpretation
Ending and reveals結末(第101話)Tap to open
最終話の第101話のサブタイトルは「新しいスタートライン・上杉達也は浅倉南を…」。アニメ版は、明青の一行が兵庫県に着いた直後、達也が南に電話で愛を告白するところで終わる。この最終回は、あだちさんが当初予定していた原作最終回のアイデアに基づいたもの、とされている。
題が途中で切れてて、言葉の続きは本編にある。一周目は告白そのものに胸がいっぱいやった。二周目は、それが電話越しやということが効いた。顔を見ずに言う。照れ屋の達也らしい、ぎりぎりの粋や。第1話からずっと言わんかったことを、最後の最後に一回だけ言う。間を溜めて溜めて、一発で落とす。笑いでも勝負でも、いちばん効く形やと思う。Fact[1]
二周目の見方メモ
私のおすすめは三つ。サブタイトルを先に読んでから観ること。達也が冗談を言うたびに、そのとき何がしんどいのかを考えること。達也がマウンドに立つ場面では体の使い方を追うこと。全部やらんでも、一つで十分変わるよ。私は二周目を観終わって、久しぶりに壁当てがしたなった。Preference
二周目は第3話と第5話の題を声に出して読んでから再生する。軽口の顔で、この物語はいちばん大事な言葉を最初に言うてる。