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Second viewing

『銀河鉄道999』二周目は渡す人を見る

100円コーナーで見つけた昔の漫画を、仕事の合間に一駅ずつ読みました。終着駅まで乗ってから最初の雪の夜に戻ると、同じ駅が別の顔をしていました。二周目は、少年ではなく、隣の席の人を見る旅です。結末に触れるので、読み終えた人向けです。

This article spoils the ending

Covers『銀河鉄道999』原作漫画(少年誌で連載された最初の旅)の結末まで。テレビアニメ版・劇場版は、題名と放送・公開の時期だけ触れます

Written for people who have finished it and want more from a second viewing. Midway developments and the details of the ending are folded away until you tap them.

For people who
原作漫画の『銀河鉄道999』を終着駅まで読んで、もう一度最初の雪の夜から乗り直したい人へ。
Spoiler range
Touches on the ending 『銀河鉄道999』原作漫画(少年誌で連載された最初の旅)の結末まで。テレビアニメ版・劇場版は、題名と放送・公開の時期だけ触れます
Who's talking
Itsuki
Types of claims: Fact Observation from the work Grounded inference Interpretation Preference
Contents 10 sections, ~17 min
  1. 100円コーナーから来たひと揃い
  2. 雪の夜の暖炉
  3. 一駅に一つの話
  4. ガラスのウェイトレス
  5. 列車で働く人たち
  6. トランクと途中の大人たち
  7. どこからか届く声
  8. 終着駅の先
  9. 二周目の速さと四つの目印
  10. 二周目の切符

店の100円コーナーに、昔の少年漫画がひと揃い入ってきたのは去年のことでした。値札を付ける前に一冊だけ、のつもりが、仕事の合間に一駅ずつ、終着駅まで乗ってしまいました。この記事は、その二周目の、帳場での話です。一周目、僕は鉄郎の目で読みました。二周目は、鉄郎の隣の席に座っている人の目で読み直しています。展開にかかわるところは畳んであります。

100円コーナーから来たひと揃い

『銀河鉄道999』は松本零士さんの漫画です。少年誌での連載は、僕が生まれるずっと前に始まって、何年も続きました。Fact[1]

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』が、書きはじめるときのヒントの一つになったと言われています。宇宙を走る銀河鉄道に、蒸気機関車が客車を引いて乗り入れる。Fact[1]

僕にとっては、当時の評判も、アニメの主題歌が流れていた空気も知らないまま開いた、去年の新刊です。だからこの記事は、昔から読んでいる人の読み方とは、たぶんどこかがずれています。ずれたまま書きます。入ってきた揃いには、前の持ち主の跡がいくつか残っていました。背の色がそろっていなくて、何冊かだけ日に焼けている。そして一冊にだけ、古い乗車券の半券が、しおり代わりに挟まっていました。どの駅のページに挟まっていたかは、二周目の最後に書きます。

雪の夜の暖炉

物語の舞台は、人が心を機械の体に移して、永遠に生きられるようになった未来です。けれど機械の体は、貧しい人には手の届かないもの。主人公の星野鉄郎は、機械化人に母を殺された貧しい少年です。機械の体をただでもらえる星へ行くために、メーテルという謎めいた美しい人と二人で、999号に乗りこみます。Fact[1]

一周目に読んだとき、僕の目に残ったのは雪の冷たさでした。母を失って、吹雪のなかで倒れた少年が、目を覚ますと暖炉の前にいる。そこにいた女の人は、亡くなった母によく似ている。Observation from the work

二周目は、暖炉の前で彼女が何を差し出すかを見ました。メーテルは鉄郎に999号のパスを渡します。ただし条件がついている。旅の連れになること。少年が自分で決めて動いたように見える最初の一歩が、隣の人の差し出したものでずいぶん整えられている。一周目の僕はそこを、親切としてしか読んでいませんでした。Fact[4]

Ending and revealsメーテルの役目について(結末にふれます)Tap to open

終着駅に着いて、メーテルが機械帝国の女王の娘であり、旅の始まりから、若者を終着駅へ連れていく役目を負っていたことが分かります。

それを知ってから雪の夜に戻ると、パスを渡す手つきの意味が変わります。差し出しているのは切符でもあり、役目でもある。それでも僕は、あの暖炉の場面を、だましの場面とだけは読めませんでした。母に似た人が、母を失ったばかりの少年に、暖かい場所と、次へ行く道を同時に渡している。どちらか片方だけなら、こんなに長い旅にはならなかったはずです。Observation from the work

メーテルがなぜ鉄郎の母にそっくりなのかは、原作の中ではっきり説明されないまま、旅が続きます。一周目の僕は、そのうち答えが出るものとして、ページの端に小さな疑問を置いたまま読み進めていました。Observation from the work

一周目の僕は、これを最後に明かされる謎の一つだと思って読んでいました。いつか種明かしがある、と。二周目は、説明されないこと自体を、この漫画の大事な部品として読んでいます。母に似た人の隣で、少年は母を失った悲しみを、ずっと手放しきれないまま旅をする。似ている理由が分からないから、鉄郎は彼女を母として見ることも、他人として見ることも、最後まで決めきれない。Interpretation

古本屋をやっていると、表紙が前の持ち主の誰かによく似ている本、というのはありませんが、読みかけのしおりの位置が、自分がやめたところとそっくり同じ本に出会うことはあります。理由は分からない。でも、その一冊は、ほかの本より少しだけ手放しにくくなる。鉄郎にとってのメーテルの顔は、たぶんそういうものだと思います。Interpretation

一駅に一つの話

この漫画は、999号が停まる星ひとつにつき、話がひとつ。短い話をつないでいく形で進みます。Observation from the work

一駅ずつ読めるので、仕事の合間に読むのにちょうどよかった。休憩のたびに一つの星に降りて、発車のベルで本を閉じる。一周目はそういう、停車駅の多い普通列車みたいな読み方でした。

二周目に気づいたのは、多くの星に、機械の体を選んだ人や、選ばされた人がいることです。降りるたびに、鉄郎は誰かの『その後』を見せられている。そして読み進めるうちに、彼が出会う機械化人の多くは、人間の体を手放したことを悔やんでいる。Observation from the work

それから、懐かしい、という言葉がよく出てきます。未来の話なのに、下町や、昔の自然そのままの星がある。車掌さんは、帽子と制服の下に目しか見えない。蒸気機関車の煙と、目だけの車掌。未来と昔が、同じ車両に乗っています。Observation from the work

日本の下町のような景色が再現された星もあります。僕は一周目、そういう星に降りるたびに、仕事場の商店街を思い出して少し気が緩みました。二周目は、緩んだぶんだけ用心して読みます。懐かしい景色の星ほど、そこに住む人が何を手放したのかが、あとになって効いてくる。宇宙のいちばん遠いところで、いちばん見慣れた町並みを見せられる少年の気持ちを、僕は二周目でようやく少し想像できた気がします。Interpretation

二周目は、星の順番を、鉄郎の体験の順番として読むのをやめてみました。代わりに、隣の席の人が、少年に何をどの順番で見せたかったのか、として読む。そうすると、星の並びが、一冊の見本帳みたいに見えてきます。試しに、各駅の最後のコマで、メーテルがどこに立っているかだけを追ってみてください。少年が次の駅のことを考えているとき、彼女はたいてい、もう少し先を見ています。Interpretation

Ending and reveals見本帳という読み方(終盤の駅にふれます)Tap to open

終着駅の近くに、『予約カタログ』という名前の通過駅が出てきます。機械の体のカタログを届ける者が、鉄郎の前に現れる。終着駅のひとつ前には『最後の晩餐』という臨時の停車駅があって、そこでは若い娘の姿をした者が、鉄郎のふるまいをじっと見ている。

一周目は、ここを終盤の不気味な駅として読みました。二周目は、旅全体がずっと見本帳だったのだと思いました。終着駅で体を選ばせる前に、何十もの星で、選んだ人の顔を先に見せておく。見せた側の意図がどうであれ、見せられた少年は、そのぶん選べるようになっていく。僕は、ここがこの漫画の二周目でいちばん怖くて、いちばん好きなところです。Observation from the work

ガラスのウェイトレス

999号の食堂車で働くクレアは、透き通ったガラスの体をしています。自分で選んだのではなく、母親にそうされた。生身の体を買い戻すお金をためるために、列車で働いている。Fact[1]

一周目の僕は、クレアを、旅のなかの短い明るい時間として読んでいました。食堂車の灯りと、ガラスの体の光り方。二周目は、彼女が『体を買い戻す』ために働いていることのほうが、ずっと重く見えます。体を手に入れるために旅をする少年の隣で、体を取り戻すために働く人が、毎日料理を運んでいる。Interpretation

Ending and revealsクレアのこと(序盤の出来事・強いネタバレ)Tap to open

小惑星帯のトンネルで、母の姿をした幻が鉄郎を列車の外へ引きずり出そうとします。クレアは鉄郎を助けるために、自分の体を砕いて死んでしまう。鉄郎の手には、ガラスのかけらが残ります。

二周目は、この場面の前に、クレアと鉄郎が交わす何気ない会話を、一つずつ拾うようにしています。一周目には通りすぎた言葉が、ずいぶん違う重さで聞こえます。Fact[1]

Ending and revealsガラスのかけらの行方(結末にふれます)Tap to open

クレアのかけらは、終着駅で、もう一度姿を見せて、鉄郎の危機を救うことになります。

僕はこれを知ってから、かけらがいつ、誰の手にあったのかを気にしながら読むようになりました。物語は、かけらのことをいちいち思い出させてはくれません。それでも終着駅で、ちゃんともう一度出てくる。古本に挟まっていた前の持ち主のしおりと同じで、誰も気にしていないあいだに、思っていない場所から出てきます。Observation from the work

Ending and revealsクレアの母(終盤の駅にふれます)Tap to open

クレアを透き通ったガラスの体にしたのは、見栄っ張りな母親でした。その母親は、終盤の駅で、機械の体のカタログを届ける者として鉄郎の前に現れ、女王のそばに仕えている。

娘を体ごと作りかえた人が、これから体を選ぶ少年を見に来る。一周目の僕は、つながりに気づかないまま読み飛ばしていました。二周目は、食堂車のクレアの明るさを覚えたまま、この人の顔のない姿を見ると、母と娘の遠さが分かります。同じ旅の上で、二人はまったく違う場所に座っています。Observation from the work

列車で働く人たち

999号の車掌さんは、規則にとても厳しい人として出てきます。連載のはじめのほうには、鉄郎とメーテルに化けてパスなしで乗りこもうとした親子を、列車から放り出す場面まである。Observation from the work

一周目の僕は、この厳しさを、宇宙の鉄道の冷たさとして読みました。切符のない人は乗れない。どんな事情があっても。だからこそ、車掌さんがメーテルにだけ見せるていねいさが、二周目にはずいぶん目立って見えます。Interpretation

Ending and reveals車掌さんの態度について(結末にふれます)Tap to open

車掌さんは、メーテルを『特別なお客様』として扱います。時刻表を何より守るはずの999号が、彼女ひとりを待って、出発の時刻をずらすことさえある。そして、太陽系を離れて、機械の帝国の力が強い星に近づくほど、彼女の言葉が通るようになっていく。

終着駅で彼女の素性を知ってから読み返すと、車掌さんの一礼の深さが、ずっと前から答えを言っていたように見えます。二周目の僕は、発車の時刻が近づく場面で、列車が誰を待っているのかを見ています。待たされているのは、たいてい少年のほうではありません。Observation from the work

999号の客車を引くのは、蒸気機関車です。この機関車は、ただの乗り物ではなく、人格を持ったコンピューターとして描かれていて、気位が高い。Observation from the work

一周目の僕は、機関車を背景の一部として見ていました。煙と汽笛と、窓の外を流れる星。二周目は、この列車そのものも、毎回、誰かを次の駅まで運び届けている乗務員の一人だと思って読んでいます。少年を運ぶ機関車、少年に付き添う女の人、少年の切符を確かめる車掌。この漫画には、運ぶ側の人がずいぶん多い。切符を確かめる人と、運転する機械と、付き添う人。三人とも、自分の行き先のために乗っているわけではありません。一周目の僕は少年の行き先ばかり気にしていて、運ぶ側の人たちが、毎回どんな顔で駅に着いているのかを、ほとんど見ていませんでした。Interpretation

運ぶ側は、運ばれる側の旅が終わっても、仕事が終わりません。終着駅に着けば、また折り返して、次の誰かを乗せる。僕が店で100円コーナーを入れ替えるたびに思うのも、たぶん同じことです。本は渡せば終わりでも、棚は、次の本を待っています。Interpretation

トランクと途中の大人たち

メーテルは、トランクを一つ持ち歩いています。開けるときも、中が見えないように布をかぶせる。中をよく見たことのない鉄郎に、彼女は、旅の終わりには中を見せる、と約束します。Observation from the work

僕は店で本を人に渡すとき、あらすじを言わずにおきます。結末を知っていても、言わない。だから一周目から、このトランクには妙に親しみがありました。中身を言わずに、一緒に旅だけはする人。Interpretation

Ending and revealsトランクの約束(結末にふれます)Tap to open

原作では、旅が終わっても、トランクの中身が鉄郎に見せられることはありませんでした。

二周目にこれを知っていると、トランクが出てくるたびに、果たされない約束が一つ車両に積まれているのが見えます。僕は、それを嘘だとは思いません。言わずにおいたことは、言わずにおいたまま、相手の旅の重さになる。本を渡すときに僕が黙っている結末も、たぶん、渡された人の中で同じように重さになっている。そう思うと、少しだけ背筋がのびます。Observation from the work

Up to midway重力の底の家で(中盤の展開)Tap to open

重力の底の家にひとりで暮らす機械化人のリューズは、時間を操る力を持っています。寂しさから鉄郎を家に引き止めようとして、それでも最後には放してくれる。そのとき彼女は鉄郎に、いずれ、メーテルと自由のどちらかを選ばなければならなくなる、と言い残します。

一周目の僕は、この一言を、寂しい人の捨て台詞くらいに読み流しました。Observation from the work

Ending and revealsその一言の重さ(結末にふれます)Tap to open

終着駅で鉄郎が選ぶものを知ってから読み返すと、旅のいちばん奥にある選択を、途中の駅で、ほとんどそのまま先に言われていたことに驚きます。リューズの一言は、予言というより、同じような選択の前で一度つまずいた大人からの、短い申し送りに聞こえてきます。Interpretation

列車強盗のアンタレスも、鉄郎に一つの決まりを渡していきます。体に不発弾をいくつも抱えた生身の男で、宇宙で生き延びるには、撃たれる前に撃て、と言う。Fact[1]

家には子どもが大勢いるのに、長いあいだ帰れていない父親でもある。母を失ったばかりの少年に、生き延びるための決まりを教えるのが、帰れずにいる父親だというところに、二周目の僕は立ち止まりました。Observation from the work

途中の駅の大人たちは、みんな鉄郎に何かを手渡していきます。決まりだったり、予言だったり、ガラスのかけらだったり。二周目の僕は、手渡されたものを一つずつ数えながら乗りました。終着駅に着くころには、少年の手が、最初の雪の夜よりずっといっぱいになっているのが分かります。Interpretation

Up to midway冥王星の駅(中盤の展開)Tap to open

冥王星には、氷の下に、機械の体に乗り換えた人たちが置いていった生身の体が眠っています。墓守のシャドウは、機械の体になったことを悔やんでいる人です。この星で、メーテルは、自分の本当の体らしきものを見て涙を流します。

一周目は、シャドウの悲しさに目を取られて、メーテルの涙は通りすぎてしまいました。二周目の僕は、この駅では、鉄郎ではなくメーテルの顔を見ています。旅の連れが、旅の途中で一度だけ、自分の行き先ではない場所で泣いている。

半券が挟まっていたのを思い出すと、前の持ち主も、この駅で鉄郎ではない誰かの顔を見ていたのかもしれない、と考えてしまいます。確かめようはありません。確かめようがないところまで含めて、古本の二周目です。Observation from the work

どこからか届く声

旅のあいだ、メーテルには、どこからか指示を出す声が届きます。誰の声なのかは、なかなか明かされない。Observation from the work

一周目の僕は、この声を、メーテルを操っている誰か、として読んでいました。隣の席の人も、また誰かに手渡されて旅をしているのかもしれない。そう思った時点で、僕はもう半分、鉄郎ではなくメーテルの側から読みはじめていたのだと思います。二周目は、声が聞こえてくる場面のあとで、メーテルが鉄郎に何を言い、何を言わずにおくかを並べてみてください。声のあとの彼女は、たいてい少し口数が減ります。Interpretation

Ending and reveals声の正体と終着駅(結末にふれます)Tap to open

メーテルは、機械の帝国を治める女王、プロメシュームの娘でした。そして、旅のあいだ彼女に指示を出していた声は、彼女が首にかけたペンダントの中にいる父の魂でした。父は、母とは逆に、機械化の世界を壊そうとしていた。ペンダントには、機械化の星を壊すほどの力がある。終着駅の星は、最後には、光さえ抜け出せない重力の奥へ引き込まれていきます。

二周目の僕は、メーテルが胸もとに手をやる場面を、ぜんぶ数えながら読みました。一周目はただの癖に見えた仕草が、二周目には、相談の合図に見えてきます。母の側の役目と、父の側の計画を、同じ旅の上で同時に背負っている人の手です。Observation from the work

終着駅の先

原作の最初の旅は、少年誌での連載が終わったところで、いったん終わりました。それが何年もたってから、別の雑誌で、続きの旅として再び走りだします。Fact[1]

僕が100円コーナーで見つけたのは、最初の旅の分だけでした。続きはまだ、店に入ってきていません。終わりから入るのが癖の僕にしては珍しく、いまは終わったはずの旅の、続きのほうを待っています。待っているあいだに、最初の旅を、もう一周しておくつもりです。ふだんの僕なら、続きが出ていると知った時点で、そっちの最後のほうから開いてしまうと思います。この旅だけは、そうしたくありませんでした。最初の旅の終着駅で、少年が自分で選んだものを、もう少しのあいだ、そのままにしておきたかったので。続きが入ってきたら、最初の一冊だけ、帳場で先に開いてしまうかもしれません。

Ending and reveals別れの場面(結末にふれます)Tap to open

鉄郎は、機械の体を選びません。旅の終わりに、メーテルは別れぎわ、鉄郎に『本当の自分』の姿を見せようとします。鉄郎は、それを見ることを断る。

一周目の僕は、ここで鉄郎が何かを知りそびれたように感じました。二周目は逆で、知らないままでいることを、鉄郎が自分で選んだ場面に見えます。トランクの中身も、本当の姿も、最後まで見ない。言わずにおかれたものを、言わずにおかれたまま受け取って、少年は帰っていく。

メーテル自身の旅は、鉄郎との旅が終わっても終わらない、とされています。誰かを終着駅まで送り届けて、また次の誰かの隣に座る。僕はこの人を、物語の中でいちばん長く『手渡す』仕事をしている人だと思って読んでいます。

一周目に暖炉の前で受け取った切符は、こうして、片道ではなく往復の切符だったことになります。行きは隣の人が整え、帰りは少年が自分で決めた。二周目の僕は、その折り返しの一点を見るために、もう一度、最初の雪の夜から乗っています。Observation from the work

二周目の速さと四つの目印

連載のころの読者は、この旅を、雑誌が出るたびに一駅ずつ進んでいたはずです。次の駅に着くまで、一週間。僕は100円コーナーの揃いで、休憩のたびに一駅、気が向けば三駅、まとめて乗りました。同じ線路でも、停車時間がまるで違います。Grounded inference

一周目の僕は、星から星へ、わりと急いで乗り継いでいました。終着駅が気になって、駅のことをゆっくり見ていなかった。二周目は、一駅読んだら本を閉じて、一晩おいてから次の駅に行くようにしています。そうすると、駅で会った人の顔が、次の駅まで少しだけ残る。連載で読んでいた人たちは、毎週この残り方をしていたのかもしれません。Preference

一週間かけて一駅を通った人と、一晩で何駅も通った僕とで、同じ駅が同じ重さに見えるはずはない。だから僕の二周目は、昔の読者の速さを少しだけ借りる練習でもあります。Interpretation

僕が二周目に頭に置いておく目印は、四つだけです。一つめ、雪の夜にメーテルが差し出したものを、全部思い浮かべる。二つめ、各駅の最後のコマで、彼女がどこを見ているか。三つめ、トランクが出てくるたびに、約束がまだ果たされていないことを思い出す。四つめ、途中の駅の大人たちが鉄郎に手渡したものを数える。全部やる必要はありません。一つ選んで乗るだけで、同じ線路が別の路線に見えてきます。Preference

それから、アニメから入った人へ。僕は原作だけを読んだので、アニメの終わり方は知りません。原作の二周目をするなら、アニメの記憶をいったん脇に置いて、紙の上の駅だけで乗ってみるのも面白いと思います。

二周目の切符

二周目に乗るなら、僕は最初の雪の夜、暖炉の前の場面から始めます。鉄郎が目を覚ます前に、メーテルがどこに座っていて、どこを見ているか。一周目には背景だった人が、二周目には、この旅のいちばん長い乗客に見えてきます。Preference

最初に書いた半券が挟まっていたのは、冥王星の駅のページでした。前の持ち主が、そこで一度本を閉じたのか、もう一度開くための目印にしたのかは分かりません。この揃いは、まだ部屋の床の山に置いてあります。渡す相手は決まっていません。いつか、雑誌で追いかけていた人に会えたら、聞いてみたい駅はもう決めてあります。冥王星の駅です。あの駅で、隣の席の人がどんな顔をしていたか、当時の読者は一周目で気づいていたのか。それを聞くまでは、たぶん、この山からは動かせません。

二周目は、雪の夜の暖炉の前で、パスを差し出すメーテルの手から読む。少年の旅は、隣の席の人が整えた最初の一歩から始まっていた。

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