This article has not been translated into this language yet. Showing the original Japanese.

Everyday

赤い風船の犬とビンゴの順番

Spoiler range No spoilers 『ブルーイ』の始まりの設定(主人公と妹)と、風船で遊ぶ回の題名まで。各回の中身には触れません

休日の昼の公園。叔父のルカーノに連れられて来たソウタに、道化のユウリが赤い風船の犬を手渡しました。ソウタはその犬に『ブルーイ』の妹の名前をつけ、ルカーノは結び目の手さばきから目を離しません。

For people who
休日の公園で、風船の動物ができあがるのを待ったことがある人へ。『ブルーイ』の姉妹が好きな子どもと大人にも。
Who's talking
Yuuri × Souta × Lucano
Walk home 川沿いの公園の芝生広場 十月の土曜、昼

十月の土曜、昼。川沿いの公園の芝生広場に、赤と黒の衣装の道化が立っていた。白い手袋の指先で、細長い風船をきゅっきゅっとひねるたびに、並んだ子どもたちが息をのむ。ひとつ前の女の子は、黄色い風船の花を受け取って、母親の手を引きながら何度もふり返っていった。

列のうしろから三番目に、ルカーノとソウタがいた。ルカーノはサングラスを少し下げ、上の縁から道化の手もとを見ている。ソウタは叔父の上着の裾をつかんだまま、つま先立ちになっていた。

Souta

ねえ、おじさん。ピエロさんのふく、そでがおっきいね。

ルカーノはひざを折って、ソウタと目の高さをそろえた。

Lucano

よく見てるね。袖ぐりが深くとってある。腕を大きく回しても、肩が引っぱられないようにしてあるんだ。ああいう服を着る人は、手をたくさん使う人だよ。

Souta

ぼくも、そで見る。ドレスも、そでで走れるかきまるから。

Lucano

その見方、僕の工房に貼っておきたいくらいだ。

Yuuri

はい、お次のお客さま! 何色にいたしましょう。

Souta

あか。いぬがいい。

Yuuri

赤い犬、うけたまわりました! まばたきを三回するあいだに、できあがります。

ユウリが風船の口を結び、ひとつ、ふたつとひねっていく。鼻先、耳、首、前足。ソウタは本当にまばたきを数えていたが、二回目で目を開けたまま止まった。最後に、うしろの端をくるりと巻いて、小さなしっぽができた。

Souta

しっぽ、くるんってなってる。

Yuuri

しっぽは、いちばん最後のひとひねりです。ここを忘れると、犬がふり返って、こちらをじっと見るんですよ。

Souta

ありがとうございます。

ソウタが両手で受け取って頭を下げると、ルカーノはサングラスの奥で目を細めた。

Souta

このこ、ビンゴにする。

Souta

ビンゴはブルーイのいもうと。赤いいぬで、4さいなの。[2]

Lucano

ああ、『ブルーイ』のビンゴか。ブルーイは青いほうで、6歳のお姉さんだね。オーストラリアのアニメだったかな。[1]

Souta

そう! おじさん、よくしってるね。

Lucano

ソウタくんが、何度も説明してくれたからね。おかげで僕の頭の中には、毛の色の見本帳ができてる。

Yuuri

お恥ずかしいことに、僕はまだ『ブルーイ』を観たことがありません。ソウタさんは、どんな所が好きですか。

Souta

ふたりとも、いぬなのに、ちょっとぼくみたいなとこ。

Yuuri

ソウタさんに似た犬たち。それは観てみなくてはいけません。では、この赤いビンゴには、ソウタさんに似た、遊びの得意そうな顔をつけておきましょう。

ユウリは犬の鼻先を、指で少しだけ上に向けた。ソウタは「にこってなった」と小さな声で言って、ルカーノの顔を見上げた。ルカーノは黙ってうなずき、ポケットの手帳に、鼻先の角度を一本の線で描きとめた。

Souta

ねえ、青いのもできる? おねえちゃんのぶん。

Yuuri

もちろんです。青い風船なら、ここに一本、出番を待っております。

Souta

でも、ブルーイがおねえちゃんだから、ほんとはブルーイがさきなの。

Yuuri

おや。では、いまからでも順番を入れ替えましょうか。赤い犬には、少しのあいだ、うしろで待ってもらって。

Souta

いい。ビンゴがさきにできちゃったから、きょうはビンゴがさき。そういうルール。

Yuuri

できた順に、お姉さんと妹が決まる日。すてきな決まりです。

道化の声に、ほんの一瞬だけ、別の低い声がまじったように聞こえた。ユウリは咳払いをひとつして、青い風船をふくらませはじめた。

Lucano

ねえ、道化さん。さっきの赤い子、最初に結んだのはどこ? 鼻からじゃなくて、首のあたりから組み立ててたよね。

Yuuri

……少し、順番を整理させてください。口を結んで、まず鼻先の分を残します。そのあと首を先に決めておくと、耳と前足をあとから足しても、全体がゆがみません。順番を一つ入れ替えるだけで、最後の一ひねりで足が三本になってしまうんです。

Lucano

首から決める。服でいえば、衿ぐりを先に決めてから袖を付けるのと同じだ。そこがずれると、どんなにいい布でも肩が泣く。

Souta

いま、ピエロさんのこえ、かわった。

Yuuri

おっと! 風船を持つと、たまに中から別の人が出てくるのです。どうか、内緒にしておいてください。

Lucano

いまの答え、礼儀じゃなくて仕事の顔で言うよ。いい手だ。あれは、一回や二回でできる手じゃない。

Yuuri

おそれいります! ……道化はほめられると照れて、風船を一本割ってしまう決まりなのですが、今日は我慢しておきます。

ソウタが、割れるのを待つように両手で耳をふさぎかけて、それから笑ってその手をおろした。

Souta

いま、ひねったの、かぞえてた。さっきとおなじかず。

Yuuri

数えてくださっていたのですか! ……ええ、同じ数です。犬はみんな、同じ数のひねりから生まれます。色がちがっても、それは変わりません。

Souta

じゃあ、ビンゴとブルーイ、きょうだいだね。

青い犬ができあがると、ソウタは赤い犬と青い犬を両手に一匹ずつ持ち、芝生の上で二匹の鼻先をちょんとくっつけた。それから少し考えて、二匹を見比べた。

Souta

青いほうが、ちょっとおっきい。おねえちゃんだから?

Yuuri

そう見えたのなら、きっとそうです。風船は、作った人より、もらった人の言うとおりになるので。

Souta

ブルーイにね、ふうせんラリーっていう回があるの。ふうせんを、ずっとぽんぽんってするの。[1]

Lucano

風船の回か。道化さんの前で話すのに、ぴったりだ。

Souta

でも、ビンゴでぽんぽんしたら、われちゃうかも。

Yuuri

それは困ります。ビンゴとブルーイには休んでいてもらって、こちらで遊びましょう。

ユウリは腰の袋から、丸い黄色の風船を一つ取り出してふくらませた。ソウタは二匹の犬を、ルカーノの上着の上にそっと寝かせた。

Souta

それだったら、ルールきめる。おとした人は、つぎのふうせんをふくらませるかかり。

Lucano

いいルールだ。落とした人にも、ちゃんと仕事がある。

三人で輪になって、黄色い風船を手のひらで打ち上げる。ソウタは真上に、ユウリは手首だけで、ルカーノはやけに真剣な顔で、上着の袖をまくってから打った。七回目で、風船はルカーノの指の先をすり抜け、芝生に落ちた。

Souta

あと、あたまでうってもいい。

Lucano

頭は困るな。今朝、髪を整えるのに時間がかかったんだ。

Yuuri

では、頭を使ったら一点おまけ、ということにしましょう。使うかどうかは、それぞれの髪型と相談で。

ソウタはさっそく頭で一回打ち上げて、得意そうに鼻をこすった。ルカーノは最後まで、手のひらしか使わなかった。

Souta

おじさん、おとした。かかり!

Lucano

了解。……ほら、ごらん。ふくらまない。僕の肺は、どうやら型紙を見る専門らしい。

Yuuri

風船は、吹く前に一度、指で伸ばしておくと楽になります。最初の一息が、いちばん重たいので。

ルカーノは言われたとおりに風船を伸ばし、頬をいっぱいにふくらませた。ようやく半分ほどの大きさになったところで、ソウタが手を叩いて笑った。ユウリもつられて、道化の顔のまま、平日にはめったに出ない声で笑った。

Souta

ちいさい。でも、まるい。

Lucano

小さくても、丸ければ合格だそうだ。はは、それなら僕も合格だね。

そろそろお昼ごはんの時間だった。ルカーノが上着を拾い上げ、寝かせてあった二匹の犬をソウタに渡す。ソウタは赤いほうを右手に、青いほうを左手に持ちかえた。

ソウタが二匹を抱えて、芝生の端の水飲み場まで駆けていく。ルカーノはそのうしろ姿から目を離さないまま、声だけをユウリのほうへ向けた。

Lucano

きみ、平日は何をしてる人? ……いや、やめておこう。いい手は、どこから来たかより、どこへ行くかのほうが大事だ。

Yuuri

ありがとうございます。平日の僕は、この手を、もっと静かな物に使っています。

Lucano

静かな物か。じゃあ、その静かな手が今日みたいに跳ねる日を、また見に来るよ。

ソウタが水飲み場から戻ってきた。赤い犬のしっぽの先に、水の粒がひとつ光っていた。

Souta

ねえ、ピエロさんは、どこにすんでるの?

Yuuri

この公園の、土曜日の中です。雨の土曜日は、お休みをいただいています。

Lucano

じゃあ、晴れた土曜にまた来よう。次は、裾の長いドレスの犬でも頼もうかな。

Yuuri

ドレスの犬は、まだ一度も作ったことがありません。それまでに、首から決める順番を考えておきます。

Yuuri

風船の犬は、何日かすると少しずつ小さくなります。小さくなったら、それはたくさん遊んでもらった印です。

Souta

じゃあ、ちいさくなっても、すてない。

Souta

こんども、ビンゴとブルーイ、つれてくる。ちいさくなってても、おこらないでね。

Works in this article

Bluey
Anime 2018 · TV series #Slice of life #Comedy
Told by Yuuri A quiet mathematician on weekdays, a cheerful clown on weekends More from Yuuri →

Read next

All articles

Back to top