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Everyday

土曜の古本屋でマインを熱弁する

Spoiler range Touches on the ending 小説『本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』(TOブックスの単行本)本編・第一部から第五部の結末まで。病気のこと、神殿に入るまで、家族との別れ、貴族院の図書館、最終巻の結末を畳んでいます。番外編・漫画・アニメの中身には触れません

十月の土曜の昼前。図書館の帰りに古本屋へ寄ったリリィが探していたのは、紙の作り方の古い本だった。わけを聞いたイツキに、リリィは『本好きの下剋上』のマインのことを話しはじめる。最終巻の結末までネタバレありです。

This article spoils the ending

Covers小説『本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』(TOブックスの単行本)本編・第一部から第五部の結末まで。病気のこと、神殿に入るまで、家族との別れ、貴族院の図書館、最終巻の結末を畳んでいます。番外編・漫画・アニメの中身には触れません

Written for people who have finished it and want more from a second viewing. Midway developments and the details of the ending are folded away until you tap them.

For people who
『本好きの下剋上』を読み終えて、マインのどこが好きなのかを誰かと話したい人へ。途中の部の人は、畳んだところを開かずに読めます。
Who's talking
Lily × Itsuki
One day 古本屋の店頭のカウンター 十月の土曜、昼前

十月の第一土曜、昼前。古本屋の軒先の100円コーナーの前では、年配の客が二人、背表紙を指でたどっていた。奥の帳場では店主のおじいさんが新聞を広げている。カウンターの内側には、深緑のエプロンの胸ポケットに鉛筆を差したイツキが、本を三冊抱えて立っていた。

リリィは図書館の帰りだった。茶色の鞄には返却を済ませたあとの空きが一冊ぶんあって、そこに入れる本を、来る電車の中でずっと考えてきた。

Lily

こんにちは、イツキさん。今日は、探している本があって来ました。

Itsuki

いらっしゃい。何系の本ですか。

Lily

紙の作り方の本です。手で漉く紙の。できれば古い本がいいです。写真より、道具が絵で描いてあるような。

Itsuki

あ、ちょっと待っててください。工芸の棚に、一冊あった気がします。

イツキは抱えていた三冊をカウンターに置き、店の奥の低い棚の前にしゃがみこんだ。戻ってきたとき、手には日に焼けた薄い函入りの本が一冊あった。函から出すと、木の枠や、細い竹を編んだすだれのような道具の図が、ていねいな線で何ページも続いていた。

Lily

ねえ、ここ……あ、すみません。ここ、見てください。道具の向きまで描いてあります。これです、探してたの。

Itsuki

最初の図のページだけ、そこで立ち読みしてってください。椅子、出しますね。

奥の帳場から、店主が黙って丸椅子を押し出した。リリィは小さく頭を下げて座り、本を膝に置いた。

Lily

……あの、紙の本を探してるわけを、話してもいいですか。少し長くなるかもしれません。

Itsuki

どうぞ。今日は100円コーナーの入れ替えも、もう終わりました。

Lily

『本好きの下剋上』っていう小説があって。イツキさんは、読みましたか。

Itsuki

題名だけ知ってます。うちの棚には、まだ一冊も来てないです。

Lily

私、自分では結末を知るのをすごく避けるほうで。だから人に話すときも、先に聞くことにしてます。最後まで話しても、いいですか。

Itsuki

いいですよ。僕は、先に知ってても読めるほうです。人に本を渡すときは、言わないようにしてますけど。

Lily

じゃあ、最初から。主人公は、本が大好きな女の人です。図書館で働けることがやっと決まった、その日に亡くなってしまうところから始まります。[1]

単行本の本編は全33巻(第一部〜第五部)。原作はウェブ小説で全5部677話

Lily

気がつくと、別の世界の小さな女の子、マインになっていて。その世界には紙がなくて、羊皮紙の本はとても手が届かない。だからマインは、自分で本を作ろうって決めます。[1]

Itsuki

読む前に、作るところから。

Lily

はい。それで、最初に試すのがパピルス。だめで、次が粘土の板。でもその粘土板は、男の子に壊されてしまって。名前は、えっと……ちょっと待ってください、確かめます。[1]

リリィは鞄からノートを出して、後ろのほうの頁をめくった。黒いペンの字が並んでいる。

Lily

フェイっていう子でした。そのあと木の札も竹の札も試して、やっぱりうまくいかなくて。最後に、植物から紙を作ることに成功します。作り方は、和紙に近いそうです。[1]

Itsuki

それで、和紙の本。

Lily

マインが何日もかけてやったことを、図で見てみたくて。本の中だと、手の感じまでは分からないので。

Itsuki

一回目で当たりに行かない話、いいですね。棚に並んでる本も、たいてい誰かが何回か外したあとの一冊だと思います。

Lily

失敗した順番が、全部書いてあるのがうれしくて。私のノート、魔法陣の練習でいっぱいなのに、一度も光ったことがなくて。でも粘土板が割れる場面を読むと、光らない円も、順番の途中なんだって思えます。

Lily

それに、マインには最初、魔法も何もありません。前の世界で読んだ本の記憶と、手伝ってくれる友だちと、自分の手だけ。足りないから、工夫が生まれる。私、そういうところに弱くて。

Itsuki

作った人のことも、何か知ってます?

Lily

作者さんは、お子さんが幼稚園に通いはじめて、時間ができたころに書きはじめたそうです。いくつか考えていたお話を、本と図書館っていう一つのテーマでまとめたら、この物語になったって。[1]

Itsuki

テーマで束ねる。……棚を作るときと、少し似てる気がします。ばらばらに入ってきた本でも、どこかで一本の筋が通ると、急に棚になります。

Lily

あと、マインの性格。最初は引っ込み思案で、自分からは動けない子として考えられていたそうです。でもそれだとお話が進まないから、いまのマインになったって。[1]

Lily

引っ込み思案のマインも、ちょっと読んでみたかったです。私はたぶん、そっち側なので。準備ばかりして、一頁目が始められないほう。

Itsuki

リリィさんは、ここまで電車で来てますよ。一頁目は、もう始まってると思います。

リリィは本を胸の前に立てて、顔の下半分を隠した。それから、ノートの頁を一枚めくった。

Lily

……ここから先は、第一部の後ろのほうです。話しますね。

Up to midway中盤の展開(第一部の後半)Tap to open

リリィ「マインはずっと体が弱くて、熱を出してばかりいます。それが、身食いっていう病気だと分かります。紙ができた、そのあとに」

リリィ「一度、本当に死にかけて、商人のベンノさんが手配してくれたフリーダっていう子の、壊れかけの魔術具で、なんとか命をつなぎます。でも、もう譲ってもらえる道具はない。このままだと、あと一年くらい」

リリィ「残る道は二つ。貴族に従わされて生きのびるか、家族と暮らしたまま死ぬか。……マインの家族は話し合って、一緒に暮らすほうを選びます」

リリィ「家族で決めた、っていうところで、私、本を抱えたまま動けなくなりました」

リリィ「それと、ルッツのこと。同い年の幼なじみで、マインと一緒に紙作りをした男の子です。マインの中に別の世界の人の記憶があるって、最初に気づいたのも、ルッツでした」

イツキ「最初に気づいた人が、黙って隣に残ってる。……僕は、そっちの人の話のほうが気になります」[1]

Itsuki

畳んだとこの最後、僕の好みが出ました。すみません。

Lily

いえ。ルッツのことを最初に言う人、私の周りにはあんまりいないので、うれしかったです。

Lily

それで、第一部の終わりです。

Up to midway中盤の展開(第一部の結末)Tap to open

リリィ「洗礼式の日に、マインは神殿の中に図書室があると知ります。それで、本が読みたくて巫女見習いを目指すって決めます。もちろん家族は反対します」

リリィ「神殿に断りに行ったら、身食いのことを知られてしまって。両親が神殿に呼び出されて、神殿長にマインを取り上げられそうになる」

リリィ「そこで、マインの家族が命がけで抗議します。それでマインは、貴族と同じ扱いの青色巫女見習いとして迎えられて、自由の身のままでいられることになります」

リリィ「図書室があるっていう理由だけで、知らない場所に飛びこもうとするの、私には少し分かるんです。図書委員に手を挙げたときの私、たぶん同じ顔をしてました。……マインほどの度胸は、ないですけど」[1]

Itsuki

一つだけ、いいですか。マインさん、本のためなら、まわりをけっこう巻き込みますよね。

Lily

お話の中でもトラブルメーカーって書かれてて、本のことになると、あとのことを考えずに動いて、しょっちゅう騒ぎを起こします。[1]

Itsuki

僕は、巻き込まれる側の人のほうが気になります。夢を追う人の隣で、段取りを全部持たされる人。

Lily

それは、違う読みだと思います。……でも、間違ってるとも思いません。マインの「読みたい」がまっすぐすぎて、周りの大人がいつも頭を抱えてるのは本当なので。

Lily

私が好きなのは、それでも周りの人が、マインの読みたい気持ちごと守ろうとするところです。迷惑を数えるより先に、手を貸してしまう人たち。……ノートに書きます。イツキさんの読み、黒い字で。

Itsuki

黒は、何の色ですか。

Lily

人から聞いたことの色です。自分で決めたことと、混ざらないように。

Lily

次が、第二部の終わりです。ここは、ノートがいちばん書けなかったところなので、先に言っておきます。

Ending and reveals終盤の展開(第二部の結末)Tap to open

リリィ「神殿に入ったマインは、インクを作ったり、型を使って刷ったり、職人さんたちを巻き込みながら、印刷のやり方を作っていきます。本が、やっと本になりはじめる」

リリィ「でも、マインの力と知識をほしがる貴族に狙われて、その悪意は家族にまで向きます」

リリィ「マインは、前の世界で、お母さんとあまり向き合わなかったことを悔やんでいます。本ばかり読む娘に、お母さんはいろんな趣味を一緒にやらせてくれてた。その経験が、こっちの世界で全部役に立ってる。だから、いまの家族を本当に大事にしてる」

リリィ「家族を守るために、領主がマインに作りものの身分を与えて、自分の養女にする。そのかわり、マインは家族との縁を切らなきゃいけない。表向きは、死んだことにされます」

リリィ「本を作るために始めたことの先で、本を一緒に喜んでくれた家族と、もう家族と呼び合えなくなる。……私、この巻を読んだ日、ノートを開いたまま、一行も書けませんでした」[1]

イツキは何も言わずに、一度だけ奥の帳場を振り返った。店主は新聞の同じ面を、まだ読んでいた。

Itsuki

……畳んだとこ、僕が読む番が来たら、その巻だけは閉店後に読むことにします。

Lily

それがいいと思います。……でも、ここから先は、明るい話もあります。

Lily

第三部の終わりにも大きな出来事があって、それは次に畳むところに入れておきます。私にはごほうびみたいな部なので。

Up to midway中盤の展開(第三部の終わりと第四部)Tap to open

リリィ「その前に、第三部の終わり。マインは魔力を固める薬を飲まされて、二年も眠ってしまいます。起きたら、義理のお兄さんと妹のほうが、先に大きくなってて」

イツキ「二年。本だと、一行で飛ばせますけどね」

リリィ「飛ばせないんです、マインにとっては」

リリィ「第四部で、マインは貴族の子が通う学校の、貴族院に入ります。図書館に早く行きたくて、一年生みんなで初日に全部の講義に合格しようって決めて、本当にやり遂げます」

リリィ「それで図書館に入れた日、うれしすぎて、まわりに祝福を山ほど振りまいてしまう。その日、主のいなくなっていた図書館の魔術具の主になります」

リリィ「そこから、マインは自分のことを図書委員だって名乗りはじめます。自称です」

リリィ「私、ここで声を出して笑いました。私はちゃんと手を挙げてなった図書委員なので、自称のマインに、ちょっとだけ勝ってます。……本の量では、ぜんぜん負けてますけど」[1]

Itsuki

畳んだとこの最後の一行で、僕も笑いました。

Lily

図書委員って、カウンターの内側から、借りられていく本の背中を見送れる係なんです。

Itsuki

それ、古本屋の帳場と同じだと思います。

Lily

最後の巻は、中一の冬休みに読み終えました。読み終わった次の日、図書館まで、少し遠回りして歩きました。[1]

第五部「女神の化身XII」で本編完結。単行本の刊行は2023年12月まで

Ending and reveals結末(第五部)Tap to open

リリィ「そのあと、マインはアーレンスバッハという領地の正式な領主になります。そして領地の名前をアレキサンドリアに変えて、図書館の町を作りはじめます。前の世界の知識から取った名前で」

リリィ「それから、下町の家族を自分の領地に呼び寄せます。そうすると、昔、家族との縁を切らされた契約の魔術が、そこでは効かなくなる。マインは、休みの日には家族のところへ行けるようになって、マインだったころの毎日を取り戻します」

リリィ「神官長だったフェルディナンドさんと婚約もするんですけど……そこは、まだ仮説です。私は、休みの日に家族の家へ行けるようになったところで、いちばん泣きました」

リリィ「もう一つ、作者さんの言葉があって。お話の中では、マインも自分のことを、麗乃がマインになったんだと思ってる。でも作者さんによると、マインのほうが麗乃の記憶を手に入れて、自分を麗乃だと思うようになったんだそうです」

リリィ「それを読んだ日、ノートに何色で書けばいいのか、決められませんでした。だから、鉛筆で書いてあります。まだ決めないことの色です」[1]

Itsuki

……鉛筆のとこ、いつか読ませてもらえますか。いまじゃなくていいんで。

Lily

はい。……書き終わったら、いえ、書き終わらなくても。

リリィは膝の上の和紙の本を閉じた。函の角が、何人もの手を通ったように丸くなっていた。

Lily

この本、いただいてもいいですか。

Itsuki

値段は、じいちゃんに聞いてください。

奥の帳場から、店主が指を一本立てた。リリィは財布を開けて、少し考えてから、うなずいた。

Itsuki

僕、いつもは終わりのほうの巻から入るんです。でも、その話は、頭から読みます。紙ができるとこまでは、順番に読みたいんで。

Lily

じゃあ、紙ができるところまで読んだら、どこが好きだったか、聞かせてもらえますか?

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