五本目は『ハヤテのごとく!』。オレの6選の中では、いちばん笑える一本だ。そして、いちばん自分の話をされてるみたいで、ちょっと照れくさい一本でもある。
勝てなくなったころの夜
高校に上がるころから、オレはカードでもゲームの対戦でも勝てなくなった。自分より速くて強い人が次々に出てきて、大会の帰り道は、だれとも話さずに歩いた。その時期に家でよく観てたのがこのアニメだ。勝ち負けの話を一回忘れたくて、とにかく笑えるものを探してた。喜好
家は相変わらず広くて、静かだった。共働きの両親が帰ってくるのは夜遅く。廊下の電気をつけるのは、いつもオレだった。だから、広いお屋敷で暮らすお嬢様の話は、笑いながらも他人事じゃない。画面の中のお屋敷がにぎやかになるたびに、オレの家の廊下も少しだけ明るくなる気がした。喜好
原作は畑健二郎さんの漫画。主人公の綾崎ハヤテは、親に大きな借金を押しつけられた少年だ。追いつめられた末のある出来事を、お金持ちのお嬢様の三千院ナギが勘違いして、ハヤテはナギのお屋敷に住みこんで、執事の仕事をすることになる。事實[1]
お屋敷には、ナギ専属のメイドのマリアさんもいる。事實[5]
借金の額の話は、ここではしない。オレはそういう数字の話になると、すぐ絵の話がしたくなるんだ。このアニメで言えば、執事のきちっとした服と、お屋敷のきらきらした景色の取り合わせが好きだ。喜好
ネタの多さ
このアニメは、ほかのアニメや漫画やゲームのネタが、とにかくたくさん入ってる。事實[1]
オレみたいに、アニメとゲームばかりで育った人間には、これがたまらない。分かるネタが来ると、ソファで一人で声を出して笑ってた。分からないネタも、それはそれで面白い。あとで元ネタを探しに行く楽しみが増えるからな。キャラクターの知識だけはだれにも負けないつもりだったオレが、いくつ拾えるか毎回試されてるような気分だった。一度、旅先で知り合った友だちと観たら、オレが拾えなかったネタをその人が拾って、その人が拾えなかったネタをオレが拾った。二人で一話分を全部埋めたときは、ちょっとしたデュエルに勝った気分だったぜ。喜好
三千院ナギ
好きなキャラクターの一人が、三千院ナギだ。ナギは13歳。アニメやゲームや漫画が大好きで、自分でも漫画を描いてる。人見知りで、家にこもりがち。事實[3]
ちょっと、いや、かなり自分に似てる。お金はあるのに、外に出たがらない。好きなものの話になると止まらない。人に会うのは苦手なのに、だれかがそばにいてくれないと寂しい。家にこもってた子どものころ、もし家の中にだれか話し相手がいたらどうだったんだろう。ナギと執事のハヤテのやりとりを観ていると、ついそんなことを考えてしまう。解讀
それでもナギは、いつも元気に言い返す。わがままで、意地っ張りで、すぐ怒る。その元気さに、オレは何度も救われた。寂しい子どもが、寂しそうな顔ばかりしてるわけじゃない。それをちゃんと笑いにしてくれるのが、このアニメのやさしさだと思う。解讀
運の悪い執事の踏んばり
執事のハヤテは、とにかく運が悪い。始まりからして、背負わなくていいものを背負わされてる。それなのに、文句を言いながらも手を止めない。執事の仕事をこなして、お嬢様を守って、またひどい目にあう。解讀
オレは勝てなくなったころ、自分のことを運が悪いと思ってた。でも、ハヤテを観てると、運が悪いことと、あきらめることは別なんだと分かる。運の悪さを笑いに変えて、次の朝もちゃんと起きる。あのころのオレに一番効いたのは、たぶんその踏んばり方だった。カードを一度手放したあと、質屋の親戚の手伝いを引き受けられたのも、少しはこのアニメのおかげかもしれない。解讀
一人じゃない屋敷
オレがこの作品で一番好きなのは、広いお屋敷が、だんだん一人の場所じゃなくなっていくところだ。執事が来て、メイドさんがいて、友だちが遊びに来る。ドタバタのたびに、お屋敷の空気が少しずつにぎやかになる。お金があっても一人だと寂しい。でも、だれかと一緒にいると、同じ部屋がまったく違う場所になる。解讀
メイドさんが好きになったのは、たぶんこれがきっかけだ。いまオレはバリ島の家で、家のことをメイドの人たちに頼んで暮らしてる。夕方になると、遊びに来た友だちと大きな画面の前に並んで、このアニメを流すこともある。ギアドラは「ボクも執事のようなものですね」と胸を張るけど、オレの好きな回を勝手に先送りするのは、執事としてはどうかと思うぜ。喜好
とっつきにくそうな人へ
お嬢様と執事の話なんて、自分とは関係ないと思う人もいると思う。オレは最初の数話を「ネタ探しのゲーム」のつもりで観てた。どれだけ元ネタが分かるか数えてるうちに、気づいたらナギのことが気になってた。それと、オープニングの曲はテンポが速すぎて、オレはカラオケで歌うと毎回置いていかれる。それでも入れてしまうのは、追いかけてる自分がいちばん楽しいからだ。喜好
描く人の話へ
自分でも漫画を描くナギを観ていたから、6選の最後の『バクマン。』に出会ったとき、すっと入っていけた。描く人がいて、それを読みたい人がいる。お屋敷の中で一人で描いていた女の子と、本気で漫画家を目指す少年たちは、オレの中で一本の線でつながってる。いつか、ナギの描く漫画を最初から最後まで読んでみたい。それくらい、オレはあのお嬢様の描く手を応援してる。喜好
広い部屋ほど、一人だと寂しい。でも、だれかが笑えば、その部屋はもう違う場所だぜ。
