物語には、組織のやり方に反対しながら、その組織のために誰よりも働く人がよく出てきます。今日は三人で、その人たちをどう見るかを話しました。問いは一つ。反対している人は、辞めるべきか、残るべきか。
三つの言葉
考えるための道具を一つ持ってきました。ハーシュマンという人の本です。日本語訳は『離脱・発言・忠誠』という題で、ミネルヴァ書房から出ています。目次に「離脱(Exit)」「発言(Voice)」「忠誠(Loyalty)の理論」という章が並んでいます。事實[1]
組織が悪くなっていくとき、中にいる人ができることは、出ていくか、声を上げるか。そして、どちらを選ぶかを左右するのが、組織への忠誠心だ、という整理だと私は理解しています。解讀
三択って言われると、四つ目を探したくなるけど。……で、誰の話をするの。
不敗の魔術師はなぜ辞めないのか
彼は自分の国の政治のやり方に、かなり辛口なんだ。それでも軍人として働き続ける。僕は長いこと、あれを「内側から発言し続ける人」の理想形だと思ってた。辞めたら、もっと下手な人がその席に座るだけだからね。解讀
その「自分が降りれば、もっと下手な人がやるだけだ」という理屈は、歴史の中でも何度も出てきます。……温故知新アトラスという歴史の法則集に、ちょうどこれを扱った項目があって、反対しながら実行する有能な人間が、最悪の結果をいちばん効率よく実現してしまう、という見立てなんです。反対は議事録に残るが、成果は現実に残る、と。解讀
制度論でいえば、それは異議申し立ての回路が形だけになってる状態だね。発言は記録されるけど、予算も人員も一つも動かない。町内会でいうと、反対意見を議事録に丁寧に書き残したうえで、その反対した人にお祭りの実行委員長を頼む、みたいな。解讀
まさにそれです。さらに言えば、古い時代の宮廷でも……
いや、待って。二人とも、いま何百年前の話しようとしてた? 私、まだ一人目の話しか聞いてない。
……失礼しました。また歴史の話にしてしまいましたね。
残った人の横で誰が払うのか
私が気になるのは、残った人の有能さで、誰が助かって誰が払ったか。反対しながら残る人って、たいてい本人は「自分はまだましなほう」って思ってる。でも現場で命令を受け取る側からすると、反対してる上司も、賛成してる上司も、届く命令は同じなんだよ。解讀
……それは、僕が抜かしてた視点だ。僕は、残った人の心の中の葛藤ばかり読んでた。
葛藤してるのは偉い。そこは認める。でも、葛藤は受け取る側には届かない。届くのは結果だけ。解讀
耳が痛いです。会社をやっていたころ、私は「反対ですが、引き受けます」と言ってくれる部下を、いちばん頼りにしていました。正直に言うと、便利だったんです。反対の声を聞いたという記録が残って、仕事は前に進む。私は、その人に反対の重さを全部持たせたまま、自分は決めた側の顔をしていたのかもしれない。喜好
それでも中に残る意味
じゃあ、残ることに意味はないのか、というと、僕はそうも思わない。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の公安9課は、Production I.Gの紹介では、内務省直属の独立部隊だとされてる。大きな組織の中にいながら、ある程度の独立を持たされた部署なんだ。事實[3]
ああいう、組織の中に「止める権限」や「動かない自由」を持った場所があるなら、残ることは発言以上の意味を持つ。記録じゃなくて、予算や人を止められるかどうか。そこが分かれ目だと思う。解讀
アトラスの項目にも、残るなら残留の条件、つまり「この線を越えたら辞める」を先に決めておけ、という打ち手が書かれていました。決めていない撤退線は必ず動く、と。解讀
それなら分かる。線を先に決めて、越えたら本当に出ていく人。私はそういう人なら信用する。物語でも、その線がどこにあるかを見てれば、その人が忠誠なのか、ただ居心地がいいだけなのか、だんだん見えてくる。解讀
三人の持ち帰り
僕は今日、反対しながら残る人を「理想の発言者」として読むのをやめる。その人の命令を受け取る側の顔も、同じページに書くよ。喜好
私は、反対しながら働く人物を見たら、その人に「止める権限」があるかどうかを確かめます。なければ、その人の有能さは、誰か別の人の決定を早めているだけかもしれない。喜好
私は、その人がどこに線を引いてるかを探す。線が見えない人は、まだ判断保留。喜好
反対しながら引き受ける人物を見たら、その人が止められるものと、越えたら辞める線を探す。葛藤より先に、受け取る側に何が届いたかを見る。