6選の三本目は『スター・ウォーズ』です。一本の映画というより、シリーズとして挙げています。宇宙の向こうにも物語があると最初に教えてくれたのが、この作品でした。導入より先の展開には触れません。
パンフレットを父と分けた帰り道
出会いは小学校に上がる前です。父に連れられて行った映画館の大きな画面で、宇宙船が頭の上を通り過ぎていきました。帰りの電車では、一冊のパンフレットを父と半分ずつ読みました。父は解説のページを、私は写真のページを。いま思えば、父と同じものに夢中になった、数少ない思い出の一つです。喜好
あの日の帰り道、父は「宇宙のどこかにも、こういう話があるのかもしれないな」とだけ言いました。普段は仕事の話しかしない人でした。大人になって自分も仕事ばかりの人間になってから、あの一言をよく思い出します。父にも、世界の向こう側を見たい気持ちがあったのだと思います。私がこのシリーズを見返すのは、半分はあの帰り道に戻るためかもしれません。喜好
スター・ウォーズ公式サイトの作品ページでは、『スター・ウォーズ/新たなる希望(エピソード4)』の劇場公開日は1977年5月25日、監督・脚本はジョージ・ルーカスと記されています。事實[1]
紹介文の舞台は、銀河帝国ができて19年がたった頃です。オビ=ワン・ケノービは、砂漠の惑星タトゥイーンに長いあいだひっそりと隠れ住んでいました。そこでルークと出会い、ルークは反乱軍の戦いに身を投じると決めます。若いルークをジェダイへと導いていくのが、このオビ=ワンです。事實[1]
好きな理由1:師が先に年をとっている
子どものころの私は、当然のように若い主人公に自分を重ねていました。世界を変えたい、遠くへ行きたいと思っている若者にです。それが五十を過ぎて見返してみると、目で追っていたのは砂漠に隠れ住んでいた年長の人物のほうでした。公式のキャラクター紹介によれば、オビ=ワンは伝説のジェダイ・マスターです。誠実で立派な人柄とフォースの能力を兼ね備え、のちにルーク・スカイウォーカーの師になった、とされています。喜好[2]
私の好きなキャラクターの一人です。彼の話し方には、言葉にしない何かを抱えたまま若者の前に立っている人の静けさがあります。教える人は、教える前に何かを背負っている。そのことを、私は自分が若い人の相談を受けるようになってから、ようやく感じ取れるようになりました。解讀
好きな理由2:導くことと押しつけることの差
この作品の師は、弟子に答えを全部渡しません。道を示し、ときには黙って見ている。私はそこに、師と弟子の物語のいちばん難しいところを見ます。導くことと、自分の願いを相手に背負わせることは、外から見るとよく似ているからです。解讀
タカシさん、僕が前に新しいことを始めるって話したとき、すぐに資金の話までしてくれたよね。あれ、うれしかったけど、ちょっとびっくりした。
……そうでしたね。挑戦する若い人を見ると、昔の自分を重ねてしまうんです。応援のつもりで、ハルさんの一歩を私が先に決めてしまうところでした。
でも、話を聞いてくれたのはほんとに助かったよ。黙って見ててくれるのも、応援なんだなって最近思う。解讀
待つ応援もある。ハルさんにそう言われて、私はこの作品の師の沈黙を思い出しました。手を出さずに見ているのは、何もしていないのとは違う。いまの私には、資金より先に、困っていることを聞く時間のほうが大事なのだと思います。解讀
好きな理由3:約束とすれ違い
シリーズ全体を通して、この物語には約束とすれ違いが何度も出てきます。守ろうとした約束が、別の誰かとの約束とぶつかる。私はそういう場面に弱い。約束は守ってきたつもりでも、何を先に守るかを何度も間違えてきたからです。宇宙の大きな戦いの陰で、二人の人間のあいだの小さな約束が揺れている。そこを見に、私は何度も戻ってきます。解讀
若いころの私は、世界を変えるという大きな約束のために、身近な人との小さな約束を後回しにしました。どちらも本気でした。けれど、小さな約束のほうは、待っていてはくれなかった。この物語の師と弟子を見ていると、大きな使命の陰で置き去りにされた約束のことを、いつも考えてしまいます。喜好
苦手そうな人への入口
作品が多くて、どこから見ればいいか分からない人もいると思います。私は、最初に公開された『新たなる希望』からをすすめます。物語の時代順ではなく、公開順です。そして一度目は、主人公ではなく、彼を導く年長の人物の表情だけを追ってみてください。冒険の映画が、師と弟子の映画に見えてくるはずです。喜好
ほかの5本へ
この作品で宇宙の向こうの物語を知り、『機動戦士ガンダム』で敵の側の暮らしを知り、『銀河英雄伝説』で指揮官と上司の違いを考えるようになりました。人を集める重さは『三国志』へ。そして、師にも弟子にもならずにただ救われる時間を、『五等分の花嫁』と『凪のあすから』がくれます。喜好
応援したい人がいるときは、助言より先に、困っていることを一つ聞いてみる。導く人の沈黙は、何もしていない時間ではありません。