昼のカラオケの部屋で、マイクを持っているのはミコだけでした。ジンとハヤテは聴く専門。最初は、それぞれの好きな主題歌を一言ずつ紹介するだけのはずが……。歌詞は書かずに、熱の上がり方だけを残します。
平熱 マイクは一本でいい
最初に言っとく。今日歌うのは私だけ。二人は聴く係。
歌うのはボーカルの仕事だ。俺はギターだからな。……別に、歌えねえわけじゃない。喜好
僕も聴くだけで。ミコさん、よろしくお願いします。
ミコが選んだのは、『おそ松さん』第1期第1クールのオープニング「はなまるぴっぴはよいこだけ」。作詞はあさき、作曲と編曲は96で、歌っているのはA応Pです。事實[1]
作曲の黒沢ダイスケは、歌詞のひとつひとつに意味があるのだと作詞のあさきから教わった、と語っています。不思議な歌詞と、昭和を感じさせる作風が特徴とされる曲で、第1期と第2期、どちらも第25話で挿入歌としても流れました。事實[2]
一人カラオケなら銀魂の「Pray」。でも人がいるなら、こっち。よいこじゃない六人の曲を全力で歌うと、昔の自分の迷惑まで、少しだけ笑えるから。喜好
『銀魂』の第1話から第24話までのオープニングが「Pray」です。Tommy heavenly6が作詞と歌を、Chris Walkerが作曲と編曲を担当しました。事實[3]
ジンが推すのは、『デジモンアドベンチャー』のオープニング「Butter-Fly」。和田光司が歌い、千綿偉功が作詞と作曲を、渡部チェルが編曲をしています。テレビシリーズは全54話で、1999年3月から2000年3月まで放送されました。事實[4]
ハヤテの推しは『頭文字D』のエンディング曲「Rage your dream」で、歌っているのはm.o.v.e。テレビシリーズは全26話あり、そのうち第1話から第14話までのエンディングでした。事實[7]
微熱 イントロで勝負が決まる
はなまるはさ、イントロの時点でもう悪ふざけが始まってるんだよ。まじめな顔して入って、すぐ崩す。喜好
Butter-Flyはな、ギターで弾いてみたら思ったよりずっと難しかった。簡単そうに聞こえる曲ほど、指は嘘をつけねえ。喜好
Rage your dreamは、イントロで速度が決まる曲だと思うんです。最初の数小節で、体の中のメーターがすっと上がって、そこから……あ、すみません。まだ平熱の時間でした。喜好
いや、もう上がってるでしょ。
38度 作中で流れる瞬間
「Rage your dream」はエンディングだけでなく、作中の挿入歌としても使われています。テレビシリーズの「決着!ドッグファイト!」の回の使用曲にも、その名前があります。事實[8]
そうなんです! 走りの場面でこの曲が鳴ると、コーナーへの入り方まで見えてくるんです。ブレーキで荷重を前に乗せて、向きを変えて、こう、ステアリングを……!喜好
師匠、手、手! コップ倒れる!
……あ、手が勝手に。でも一つだけ。あれは峠の物語ですけど、真似をするなら、場所はサーキットです。喜好
分かってる。公道は法定速度。師匠に言われてから守ってる。……別に、褒められたくてやってるんじゃねえ。
54話では、「Butter-Fly」が挿入歌としても流れました。日本の外でも、放送された国ごとにその国の言葉に訳されて使われています。事實[5]
……そこは言うな。別に、思い出して胸が熱くなったとかじゃない。喜好
いや、声、震えてるけど。
39度 映像と初めて聴いた日
2020年2月21日公開の映画『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』でも、オープニング曲には「Butter-Fly」が使われました。事實[6]
ライブの映像はさ、部屋で一人で観るのがいちばん。人混みは無理だから。でも客席がいっせいに跳ねる映像を観ると、行けないのに体だけ跳ねる。それは違う、って自分で思いながら跳ねてる。喜好
僕が初めて聴いたのは、子どものころのカート場です。整備している大人のラジオから流れてきて、タイヤの匂いと一緒に覚えました。いまも、夜にカートのタイヤを磨きながら聴いています。喜好
私は、部屋からあんまり出なかった時期。テレビつけっぱなしで、あのオープニングだけは毎週ちゃんと観てた。よいこじゃない六人が、なんか許されてる感じがして。喜好
……俺は覚えてねえ。いつ聴いたかなんか。……別に。
沸点 そしてマイクは誰の手に
ミコさん、あの、もしよければ……Butter-Flyも入れていただけたら……すみません、聴く専門なのに。
師匠が言うなら仕方ねえ。……俺は歌わねえぞ。弾くだけだ。エアで。
待って。三曲ぜんぶ私が歌うの? ……それは違う。私が歌うのは、はなまるだけ。あとの二曲は、全員で黙って聴く。
結局、スピーカーから「Butter-Fly」と「Rage your dream」が流れているあいだ、誰も何も言いませんでした。ジンの指だけが、膝の上でギターのコードの形をつくっていました。
歌う人と聴く人では、熱の上がり方がちがう。でも最後に黙って同じ曲を聴くとき、部屋の温度はちゃんとそろう。