最初は落ち着いた話のはずでした。エマの十八番「ミックスナッツ」、ルカーノの十八番「Easy Breezy」、聴く専門のイロハが推す「唯一人」。好きなオープニングを一曲ずつ紹介するだけ、という約束で集まった三人の温度が、どこで上がったかをそのまま残します。歌詞は書きません。
平熱 好きな曲の紹介から
エマさん、イロハさん、今日も素敵だ。エマさんの金色の髪は、この照明によく映えるね。
……ありがとうございます、ルカーノさん。では、順番に紹介しましょう。
ありがとう。私は聴く専門だから、二人の紹介を聞いてから話すね。
エマが選んだのは『SPY×FAMILY』のオープニング「ミックスナッツ」。作詞と作曲を藤原聡が手がけた、Official髭男dismの曲です。第1話では使われず、オープニングになったのは第2話から第12話でした。事實[1]
そう、そこが大事なんです。第1話にはオープニングがなかった。だから第2話で初めて聴いたとき……いえ、それはあとで話します。
ルカーノが選んだのは『映像研には手を出すな!』のオープニング「Easy Breezy」。歌うのはchelmicoです。作詞はRachel、Mamikoの二人で、ryo takahashi、Rachel、Mamikoの三人が作曲し、pistachio studioが編曲を担当しています。事實[2]
chelmicoは、女性二人のラップグループ。メンバーはRachel、Mamikoです。事實[3]
イロハの一曲は、2014年に放送された『ピンポン THE ANIMATION』のオープニング「唯一人」。作詞・作曲・編曲・歌のすべてを爆弾ジョニーが手がけています。事實[4]
ねえ、ピンポンのアニメの監督は湯浅政明さんなんだよ。事實[4]
映像研も湯浅監督だ! アニメーション制作はサイエンスSARU。……待って、急に親近感がわいてきた。事實[2]
微熱 イントロの一秒
OK! じゃあイントロから。最初の一音で、もう体が前に出るんです。採点なんて関係なく盛り上がるタイプの曲。喜好
Easy Breezyは、イントロの時点でもう軽い。風が抜けるみたいな軽さなのに、早口のところは型紙を切る手と同じリズムになる。僕の手が勝手に鋏の形になるんだ!喜好
唯一人は、最初の数秒で指が机を叩きはじめる。球を打つ音と揺れる線が、そのまま曲になったみたい。粗さごと好き。喜好
イロハさん、もう叩いてます。
……叩いてるね。
37度台 オープニング映像の話
第1話にオープニングがなかったから、第2話を観る前の晩、私ちょっと緊張してたんです。スパイものには厳しいのに! 家族の話にだけは甘くなる自分を、あのオープニングで認めました。喜好
映像研のオープニングは、絵を描く人間にはたまらないんだ。細かい場面の順番を正確に言える自信はないから言わないけど、観るたびに、手で描いた線がそのまま走り出していく気持ちになる。喜好
ピンポンは、線が揺れたまま止まらない。整えた線じゃなくて、速さで揺れた線。オープニングの細かい順番は覚えてないけど、揺れだけは体が覚えてる。喜好
So good……。ルカーノさん、今の、もう一回言ってください。手で描いた線が走り出す、って。
38度 歌う人と聴く人
私はカラオケで入れます。ミックスナッツは十八番。サビに入る直前、部屋の全員が息を吸うのが分かるんです!喜好
僕はアトリエの徹夜明けに、仲間と歌う。早口のところで、誰かが必ず噛む。噛んだ人がいちばん笑うんだ!喜好
私は歌わない。聴く専門。でも、二人が歌ってるのを聴くのは好き。歌う人の声が乗ると、曲の色が一段変わるから。喜好
ライブの映像は観る?
観ます! ……でも正直、細かいことは何も覚えてないです。覚えてるのは、観ているあいだ自分の心拍数がずっと上がっていたことだけ。喜好
それ、すごく正しい覚え方だと思う。喜好
39度 初めて聴いた日
第2話の夜。イントロの途中で、気づいたら立ち上がってました。部屋で、一人で。喜好
僕は、アトリエで納期に追われていた夜。誰かが流したオープニングで、全員の鋏の速さがそろったんだ。あの夜に縫った服は、いまでも縫い目がまっすぐだよ。喜好
高校のころの、ある夜。揺れる線と球の音が止まらなくて、気づいたら観続けてた。次の朝、消しゴムを机の引き出しにしまったの。あのオープニングを聴くと、まだその朝の机の匂いがする。喜好
……イロハさん、それはずるいです。泣きそう。
ああ、もう……! よし、今から歌おう! エマさんはミックスナッツ、僕はEasy Breezy、同時に!
沸点 そして誰が止めたか
待って。二曲同時は無理。それに私は聴く専門。……だから、一曲ずつ、ちゃんと聴かせて。最後は唯一人を、三人で黙って聴こう。
……分かった、従うよ。聴く専門の人に止めてもらえるのは、贅沢なことだからね。
好きなオープニングの熱は、イントロ、映像、歌った夜、初めて聴いた日の順に上がっていく。上がりきったら、聴く専門の人に止めてもらうのがいちばんいい。