今日の問いは「この歌は、誰が誰に向けて歌っているのか」。ソウマとガクは同じテーブルで、クロはいつもの猫のアイコンのまま、チャットで加わりました。持ち寄ったのは『化物語』の「君の知らない物語」、『竜とそばかすの姫』の「U」、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の「inner universe」。歌詞は引用せず、それぞれの言葉で話します。
君の知らない物語の主語
カラオケで俺がこれを入れると、場が静まる。……別に、狙ってない。喜好
静まるのは、みんなが聴き入っているからだと思うよ。ところで、題名の「知らない」の主語はどっちなんだろう。歌っている側か、歌われている側か。
「君の知らない物語」は、テレビアニメ『化物語』のエンディングテーマ。作詞・作曲・編曲はryo、歌はsupercellです。事實[1]
歌の中身を俺の言葉で言うと。ある夜の記憶を、語り手がひとりで抱えている。いちばん言いたいことだけは、最後まで口にしない。だから「知らない」のは君のほうで、物語を抱えているのは語り手のほう。……言いそびれた言葉の置き場所みたいな歌なんだ。解讀
なるほど。じゃあ題名そのものが、言わなかった側の記録なんだね。食堂でいえば、注文票に書かれなかった一品だ。誰も欲しくなかったんじゃなくて、頼めなかった。解讀
……その例え、悔しいけど合ってる。
エンディング映像を手がけたのはウエダハジメで、エンドロールは画面の下から上へと流れていきます。事實[1]
本編は、とにかく会話の量が多いアニメだ。言葉で言葉を打ち返し続けたあとに、言わない歌が流れる。しゃべり倒した夜の、帰り道みたいな置き方だと俺は思ってる。解讀
(チャット)各話の題名を見ると、「ひたぎクラブ」や「まよいマイマイ」みたいに、どれにも人の名前が入っています。それを、口にしていないものを抱えた一人ひとりの章だと読むなら、エンディングが「言わない側」の歌なのは、筋が通っていると思います。解讀
Uは場所の名前でもある
……ん。次、俺の。
『竜とそばかすの姫』の主題歌が「U」。名義を見ると millennium parade × Belle。作詞と作曲を常田大希が、歌をBelle(中村佳穂)が担当しています。事實[2]
映画が描くのは、ひとりの女子高生と〈U〉との出会いです。〈U〉は、50億人以上の人が集まるインターネット上の仮想世界。主人公はそこに、「ベル」というアバターの姿で参加します。事實[3]
主人公のすずと、ベル。その両方の声に起用されたのが、主題歌を歌う中村佳穂です。公開より前には、本編の冒頭、ベルがメインテーマを歌うところが、48時間に限って公開されました。事實[4]
(チャット)曲の題名が、そのまま世界の名前になっています。それに、口に出すと「ユー」とも聞こえる。場所の名前でもあり、聴いている誰かへの呼びかけでもある。私はそう受け取っています。解讀
冒頭で歌うのが効いてる。物語が始まる前に、まず世界の名前を歌で名乗る。帝国の建国宣言みたいなものだ。……例えが物騒だった。解讀
いや、僕はその読み、好きだな。町内会でも、新しい集会所ができたら最初に名前を書いた看板を掛ける。名前を呼べる場所だから、人が集まってくる。解讀
……ん。顔を出さずに歌う話。俺は、聴く側。喜好
(チャット)歌詞の細部は、ここでは言いません。覚えてはいますが、自分の言葉に直すと、別の歌になってしまう気がするので。ヘッドホンで聴くと、場所の広さだけはよく分かります。喜好
意味の分からない言葉で歌われるとき
『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のオープニングテーマは「inner universe」。歌はOrigaで、作詞をOrigaとShanti Snyderが、作曲と編曲を菅野よう子が手がけています。ただ、地上波で放送されたときに限っては、オープニングもエンディングも別の曲が流れていました。事實[5]
僕はこの曲を、意味を追わずに聴く。日本語ではない言葉で歌われるから、耳で言葉を追いきれないんだ。知らない国の役所の長い廊下に、一人で立っている気分になる。喜好
訳を調べたことは?
あるよ。でも細部はうろ覚えだから、ここでは言わない。僕にとっては、分からないまま聴いた最初の時間のほうが大事でね。喜好
舞台は近未来で、主題は現代の社会にも通じる社会問題。公安9課という組織そのものを主人公と見る観点で、物語は進みます。事實[6]
組織が主人公の物語の入口で、一人の声が、聴く人の多くには分からない言葉で歌う。制度の話を観る前に、まず制度の中にいる一人の内側に立たされるんだ。僕はこの順番に意味を読んでいる。……ごめん、またやった。長くなった。解讀
(チャット)読めない言語でも、繰り返しの形は分かります。どこで同じ音が戻ってくるか、どこで息を吸うか。中身より先に、構造が届く。知らない言語版のゲームを遊ぶときと、少し似ています。解讀
言葉の意味じゃなくて、言葉の形を聴いてるってことか。……俺は意味を拾いすぎる。たまには、それもいいかもしれない。喜好
三曲の主語
まとめると、一曲目の主語は言わない語り手、二曲目は場所そのもの、三曲目は言葉の分からない誰か。全部ちがう。解讀
聴き手の立つ場所もちがうね。語り手の隣、広場の真ん中、そして廊下の端。解讀
……ん。俺は、どれも聴く側。喜好
次に主題歌を聴くとき、「この歌の主語は誰か」と一度だけ考えてみる。語り手か、場所か、言葉の分からない誰かか。答えが変わると、物語の見え方も少し変わる。