TVアニメ『四畳半神話大系』を最後まで観た人向けの、二周目の案内です。まだの人はここで閉じてください。早口の語りに振り回されながら、同じような一年が何度も始まる不思議さは、知らずに浴びるのがいちばんです。終盤の仕掛けに触れるところは、押さないと開かない箱に入れました。
早口に追いつけなかった一周目
一周目の僕は、語りの速さに完全に置いていかれました。字幕を出して、ときどき巻き戻して、やっと追いつく。笑ってはいたけれど、どの回で何が起きたかは混ざっていました。毎回、大学1回生のはじめの選択から始まるので、記憶の中で全部が一つの回になってしまったんです。喜好
私は混ざったままでも楽しかったよ。毎回なにかしら食べたり飲んだりしてる気がして。何だったかは覚えてないけど。喜好
混ざるのが正しい観方なのかもしれない。でも二周目は、あえて分けてみたい。分けると、混ざっていた理由が見えると思うから。
11の題名を表にする
Wikipediaの記事によると、原作は森見登美彦さんの小説。TVアニメは監督が湯浅政明さん、シリーズ構成が上田誠さん、アニメーション制作がマッドハウスで、2010年4月23日から7月2日まで放送された全11話です。事實[1]
「私」が選んだ入口の名前が、そのまま各話の題名になっています。第一話は「テニスサークル「キューピット」」、第二話は「映画サークル「みそぎ」」、第三話は「サイクリング同好会「ソレイユ」」。さらに第四話の「弟子求ム」から、第九話の「秘密機関「福猫飯店」」まで同じ並びが続きます。ただ、第十話の題は「四畳半主義者」、第十一話は「四畳半紀の終わり」です。事實[1]
二周目の一つ目の見どころは、この題名の例外です。九つの回は「どの入口を選んだか」が題名になっている。なのに、最後の二つだけ入口の名前ではない。一周目の僕は気づきませんでした。表にすると、作品の構造がここで一度折れ曲がっているのが見えます。解讀
どこにでもいる小津
小津はたくさんのサークルや組織に顔を出しています。だから「私」がどこを選んでも、結局は小津に出会い、悪友になってしまう。小津に言わせれば、二人は「運命の黒い糸」でつながった運命共同体です。アニメ版の小津は、「私」を踏み台に使って組織の中でのし上がる面が、ことさら強く描かれているそうです。事實[1]
二つ目の見どころは、小津の初登場の場面を回ごとに並べることです。入口が違うのに、小津は必ず現れる。一周目には「またこいつか」という笑いでした。二周目は、小津が現れる瞬間に「私」がどんな顔をしているかを観てください。毎回うんざりしているようで、どこか待っていたようにも見える。これは僕の読みです。解讀
どこに行っても会っちゃう友だち、いるよね。嫌そうにしてても、いないとさみしいやつ。解讀
中段為止中盤で分かる小津の一面點擊展開
小津は、恋愛となると意外なほど一途です。じつは付き合っている相手もいて、それが小日向さんです。
二周目は、小津がふっと姿を消す場面や、「私」の知らないところで誰かと会っている気配のある場面に印をつけてみてください。悪行ばかりの天邪鬼に見えた一周目の小津に、「私」の視点の外で別の生活があったことが、二周目には少しずつ見えてきます。僕の研究テーマ「視点の外で起きた出来事」の、とても楽しい教材でした。解讀[1]
小津くん、ちゃんと自分の生活があったんだ。なんかうれしいね。「私」は知らないのに、観てる私たちは知ってるの。解讀
明石さんの居場所
明石さんは、「私」や小津より1年下の後輩です。理知的でクールな人として紹介されていますが、蛾だけは唯一の弱点で、「もちぐま」が好きです。アニメ版の明石さんは、話ごとに入っているサークルが変わる、と書かれています。事實[1]
三つ目の見どころは、明石さんが毎回どこにいて、「私」とどのくらいの距離にいるかです。小津が毎回同じ距離で現れるのに対して、明石さんの立ち位置は回によって動く。二周目に表の欄を一つ増やして、明石さんとの距離を書いてみてください。「私」の一年がうまくいったかどうかより、明石さんが近くにいたかどうかのほうが、回の手ざわりを決めているように見えます。解讀
明石さんがいる回といない回で、ごはんの場面の空気もちがう気がする。近くにいるだけで、ちょっとおいしそうに見えるの。解讀
馬に乗ったもう一人
人物紹介によると、「私」にはジョニーというもう一人の「私」がいます。アニメの中では比喩として表現されていて、カウボーイの姿にデフォルメされ、馬に乗って現れる、とあります。事實[1]
四つ目の見どころは、ジョニーが出てくる場面です。一周目には、ただの下品な笑いどころでした。二周目は、ジョニーが出るたびに、その直前に「私」が何を言いそびれたかを確かめてください。語り手の「私」がひたすら言葉で武装しているあいだ、言葉にできない部分が、馬に乗って画面を走っている。語りの外側にあるものを、絵が引き受けている構造に見えます。解讀
最後の二話の題名
結局·真相終盤の構成(第十話から最終話)點擊展開
最後の二話の題名は、入口の名前ではありません。第十話「四畳半主義者」と第十一話「四畳半紀の終わり」。入口を選び直す話が、入口を選ばない話へ移る、と僕は題名から読みました。
二周目は、第十話に入る前に、それまでの九話の表をいったん見返してください。どの回にも共通していた部屋の景色が、最後の二話で別の意味を帯びます。一周目には「やっと終わった」だった最終話が、二周目には、第一話からずっと準備されていた場所に見えてきます。解讀
表を作ったら、最後の二話だけ欄が空くんだね。それ、ちょっとかっこいい。喜好
空いた欄に何を書くかが、二周目の宿題かもしれない。僕はまだ決めきれてない。決めきれないまま三周目を観たくなるのが、この作品の困ったところ。喜好
最後に、二周目の表の作り方を置いておきます。縦に11話、横に「題名」「小津が出てきた場面」「明石さんとの距離」「ジョニーが出た場面」。全部埋めなくてかまいません。埋めようとして巻き戻すうちに、早口の語りの中に、一周目には聞き流していた言葉が何度も引っかかります。一周目に笑って流した一言が、二周目には別の回の伏線として聞こえてくるはずです。喜好
二周目は、11話の題名を紙に書き出してから再生を。入口の名前ではなくなる第十話の題名で、一度だけ立ち止まってみてください。