6選の六本目は、テレビアニメの『SK∞ エスケーエイト』。言葉より先に板が答える作品です。公式のイントロダクションにある導入より先には触れません。
衣装の合間に観た一話
観始めたのは、衣装を縫っている週末でした。ミシンの手を止めるための休憩に一話だけ、のつもりだった。気づいたら型紙の上に何も進んでいないまま、夜が明けていました。いつものことです。喜好
公式サイトのイントロダクションによると、主人公は高校二年生の暦(レキ)で、スケートボードが大好き。いま夢中になっているのが「S」です。コースは閉鎖された鉱山。そこをスケートボードで駆け下りる、ルールなど無い、危険で極秘のレースです。ランガはカナダから帰ってきた帰国子女で、転校生。暦はそのランガを「S」に誘います。ランガは、スケートボードに乗ったことがない。事實[1]
監督は内海紘子さん、シリーズ構成・脚本は大河内一楼さん、キャラクターデザインは千葉道徳さん、アニメーション制作はボンズ。音楽は高橋諒さん。原作の欄には、ボンズ・内海紘子さんとあります。事實[2]
好きな理由1:教える側と教わる側から始まる
最初の二人は対等ではありません。滑れる人と、乗ったことのない人。教える側と教わる側。私が関係を見るとき、いちばん気になるのは非対称から始まる二人です。どちらかが少しだけ先にいる。その「少しだけ」が、時間とともにどう動くのか。解讀
暦役の畠中祐さんは公式サイトのコメントで、二人のことを凸凹コンビと呼んでいます。スケボーを心から楽しむレキとランガ、その2人の姿が本当に最高だ、とも。演じる側も、まず「楽しむ二人」として見ている。ここは公式です。事實[2]
好きな理由2:並んで滑る構図
この作品を観ていると、二人が並んで滑るカットが目に残る。横に並ぶ、片方が半歩前に出る、追いつく、また並ぶ。会話がなくても、どちらが前にいるかで、その場の気持ちが分かる。作品中的觀察
この作品の関係は、台詞ではなく前後の位置で書かれていると思っています。半歩前に出るのは、引っぱりたいから。半歩下がるのは、見ていたいから。同じ半歩でも意味が違う。だから私は、並走の場面は一時停止して、二人の足元の位置を確かめます。秒単位で。解讀
レイ、一時停止のスクショ、何枚あんの。
数えてない。……数えたくない。
好きな理由3:板が答える
スケートボードは、乗っている人の体の向きがそのまま板に出ます。迷っていると、板も迷う。決めた瞬間に、板が走る。この作品は、その瞬間をていねいに描いています。言葉で「行く」と言う前に、板がもう向きを変えている。作品中的觀察
私はネットワークの仕事をしていて、障害対応の夜は、言葉より手順のほうが速く往復します。説明を待たずに、相手の手の動きで次が分かる。この作品で二人の板が同じ方向を向く瞬間を見ると、あの夜の感覚を思い出します。信頼は、言う前に動けることなのかもしれない。解讀
衣装の目で見ると
暦たちが「S」で出会う相手について、イントロダクションは、個性豊かで、裏の顔を持つスケーターたち、と書いています。事實[1]
裏の顔があるなら、そのための装いもある。私はつい、「S」での服を型紙に起こしたくなる。滑るための服なので、袖の動きや裾の重さが、走りの印象を決めている。衣装を作る人間としても、見どころの多い作品です。解讀
坂を下る音
この作品は、音でも走ります。ウィールが路面を転がる音、板が段差を越える音、風を切る音。速度の上がり方が、耳でも分かる気がするので、私はヘッドホンで観ることがあります。作品中的觀察
はじめての人への入口
スケートボードを知らなくても大丈夫です。ランガ役の小林千晃さんも公式サイトのコメントで、スケートの経験がない人にも関係のない話だ、と言い切っています。事實[2]
私のおすすめは、一話目を「関係の話」ではなく「スピードの話」として観ること。坂を下る速さに慣れてから、二話目以降で二人の立ち位置を見ると、同じ場面がちがって見えます。喜好
私は普通に、坂下る回のスピード感で観てたけど。関係のほうは、レイの話を聞いてから二周目で見る。喜好
ほかの5本とのつながり
『ふたりはプリキュア』で、性格の違う二人が手をつなぐまでの距離を見ました。『ハイキュー!!』で、言葉より立ち位置で信頼が分かると知りました。『ギヴン』では、言葉より先に音が届いた。この作品では、言葉より先に板が答える。全部、気持ちが言葉以外の経路で相手に届く話です。好きなゲームの『VALORANT』で声が大きくなる私も、走っている二人を観ているときだけは、静かになります。……今の、長かった?喜好
並んで滑る場面で一度止めて、どちらが半歩前にいるかを見る。それだけで、台詞のない会話が聞こえてくる。