余の6選、一本目は『ダンジョン飯』である。迷宮の奥で魔物を捌き、鍋にして、仲間に食わせながら先へ進む。笑いながら観ていたはずが、気づけば兵站の手引きを読んでいる心持ちになっていた。余が配信の沼に沈んだ、その入口の一本だ。
土産話を確かめた夜
始まりは、家臣が人間界から持ち帰った土産話だった。迷宮で魔物を料理して食うアニメがある、と。余は、聞いた話をそのままにしておけぬ性分だ。タブレットを一台取り寄せ、城に回線を張った。余の網である。……皆は信じぬ。信じぬでよい。最初の一台は、熱が入って画面を叩きすぎ、二日で割った。説明書は、いまだに読めておらぬ。喜好
その夜、余は大声で笑った。笑い終えると、腹の虫が黙っておらぬ。料理番を叩き起こし、画面の鍋と同じものを作らせた。魔物の代わりに、厨房にあった肉でな。料理番は寝ぼけ眼のまま、文句ひとつ言わずに火を起こした。良い臣を持ったと、あの晩ほど思ったことはない。扉の向こうでじいやが咳払いをしたが、余は聞こえぬふりをした。喜好
負け戦から始まる冒険
アニメの原作は九井諒子の漫画で、制作はTRIGGER、監督は宮島善博が務めた。事實[1]
物語は負け戦から幕を開ける。冒険者ライオスの一行は、迷宮で赤い竜に挑んで退けられ、ライオスの妹ファリンが竜に食われてしまう。すぐに潜り直したいが、荷の大半は迷宮に置いてきたうえ、懐にも余裕がない。そこでライオスが持ち出すのが、魔物を料理して食いながら進む、という策だ。事實[2]
そこへ、迷宮に長く暮らし、魔物を料理して生き延びてきたドワーフのセンシが加わる。こうして、腹ごしらえを抱えた奇妙な遠征が始まる。事實[3]
第一に剣より先に献立
戦に明け暮れた若いころ、余は何度も思い知らされた。兵は、腹が減っては戦えぬ。運ばれぬ兵糧は、無いのと同じである。この物語は、それを冒険の真ん中に据えている。次の階へ降りる前に、何を食うか。どこで火を使い、誰が見張りに立つか。剣を抜く場面より先に、献立の相談がある。迷宮ものは数あれど、補給がこれほど堂々と画面の中央に座っているのを観たとき、余は思わず膝を打った。解讀
第二に魔物に詳しすぎる将
ライオスは筋金入りの魔物好きで、迷宮の生き物の暮らしぶりや能力にまで目を輝かせる男である。魔物を食おうという策に、仲間は渋々付き合わされる。事實[2]
敵を食うには、敵を知らねばならぬ。どこに毒があり、どこが食えるか。戦に置きかえれば、斥候の報告を誰より熱心に聞く将である。仲間が呆れ顔をするたび、余は画面のこちらで深くうなずいておる。知りたがりの将は、たいてい兵を飢えさせぬ。将が好きなものを語りだすと、兵は呆れながらも付いてくる。好きで詳しい者の言葉には、命令より強い引力がある。余の家臣も、余が作品の話を始めると呆れ顔をするが、近ごろは黙って最後まで聞く。……聞き流しておるだけかもしれぬがな。解讀
第三に皿に残る魔物の顔
アニメでは、料理の絵を、料理のイラストを専門に描いてきた人に任せたという。魔物らしさを残したまま、うまそうに見せるためだ。事實[1]
だから皿の上の料理は、ちゃんと元の魔物の姿をとどめている。それでいて湯気が立ち、こちらの腹まで鳴る。食うとは、命をもらうことだ。戦場で鍋を囲んだ者なら誰でも知っている理屈を、この絵は一皿ずつ思い出させる。余の城の宴に出る料理は、たいてい元の姿が分からぬほど飾り立てられておる。この作品の皿を観てから、余は料理番に、少しは元の形を残せと申しつけた。料理番は困っておった。解讀
帰り道の分まで数える
戦記を観るとき、余は必ず帰り道の分の兵糧を数える。行きの分だけ積んで出た軍は、勝っても戻れぬ。この一行は、そもそも荷をろくに持たずに潜り直している。だから現地で食う。食えるものを探しながら進むことが、そのまま戻る力を蓄えることになっている。妹を取り戻すという大きな目的と、今日の一食とが、一本の綱でつながっておるのだ。余はこの綱の張り方に、作り手の確かな目を感じた。解讀
クロ殿、昨夜も同じ刻に起きておったな。そなたはこの迷宮の話を、どう観る。
……ん。ゲームでいうと、回復アイテムを現地で作ってる感じです。持ち込みの枠が空くから、理にかなってる。解讀
うむ。持ちこみを減らし、現地で賄う。遠征の鉄則であるぞ。
了解。で、昨日の鍋は何を作らせたんですか。
料理番の名誉のため、言わぬ。
魔物を食う話に身構える者へ
魔物を食う、と聞いて箸が止まる者もおろう。余が入りやすかったのは、料理の場面を作戦会議として観ることだった。この魔物の何が危なく、何が使えるか。それを確かめてから鍋に入れる。戦の段取りと同じ手順を踏むので、気味の悪さより先に感心が来る。それに、命がけの迷宮で、食うか食わぬかを仲間うちで真剣に言い合う。その呑気さに、こちらの肩までほどけてくる。それでも腰が引けるなら、湯気だけ眺めておればよい。腹が減ってきたら、もうこちら側の者である。喜好
北の海の船でも気になること
6選のうち、仲間を食わせながら進む話はこの一本だけだ。ただ、これを観てから、余の目はどの作品でも補給に向くようになった。城の兵糧蔵の帳簿まで、近ごろは余が自ら確かめておる。家臣たちは、なぜか怯えておる。北の海の戦士たちを描く『ヴァイキング~海の覇者たち~』を観ていても、つい画面に向かって問うてしまう。その船の上で、兵は何を食うておる、と。……返事はない。今宵も厨房の灯りを横目に、もう一話。喜好
腹を満たす段取りの話は、仲間を連れて帰る話でもある。迷宮の鍋を観るたび、余はそこに戻ってくる。