土曜の昼、原宿のルカーノの店の奥にある工房。お母さんにあずけられたソウタは、作業台のはしで、しましまの生地のきれはしを並べていました。ルカーノは型紙を置いて、ひざを折ってソウタの目の高さにしゃがみました。「それ、なにの柄?」と聞かれる前に、ソウタのほうが先に口を開きました。
はんぶんだけのしま
ねえ、ルカーノおじさん。このしましま、シマウマみたい。
Bellissimo! ソウタくんは、シマウマが好きなのかい?
このまえ、うちでシマウマの映画みたの。カンバっていうの。カンバはね、からだのはんぶんしか、しまがないの。
『Khumba』は、2013年の南アフリカのアニメーション映画です。監督はアンソニー・シルバーストン(Anthony Silverston)さん。トリガーフィッシュ・アニメーション・スタジオ(Triggerfish Animation Studios)が作った2本目の映画です。事實[1]
カンバ(Khumba)が生まれたのは、縞のそろったシマウマの群れ。なのにカンバの縞は、クアッガのように体の半分にしかありません。舞台はグレート・カルー。群れの多くは、土地に雨が降らないのをカンバのせいにします。そこでカンバは、足りない縞を手に入れる旅に出ることになります。事實[1]
なんで? 雨がふらないのは、カンバのせいじゃないでしょ。解讀
そうだね。おじさんも、そこは同じ気持ちだよ。みんなとちがうところがあると、困ったことのわけにされてしまうことがある。それは、とてもさびしいことだね。解讀
カンバは、しまをさがしにいくの。ぼくも、いっしょについていきたい。とおくまであるくの、ぼくとくいだから。喜好
ソウタくんがついていくなら、おじさんは荷物もちだね。旅に出る前の、決めるところ。ソウタくんは、そういうところが好きだったね。解讀
うん。へんしんのまえに「やる」ってきめるとこと、おなじ。喜好
クアッガってだれ?
ねえ、クアッガってなに? ぼく、図鑑でみたことない。
下半身には縞がなく、一面の茶色。脚と、その付け根あたりは白です。見た目でいちばん目立つのが、この体の模様でした。分類ではサバンナシマウマの亜種にあたり、かつては南部アフリカの草原で暮らしていました。いまは絶滅しています。鳴き声は「クーアッハクーアッハ」。名前はその声を写したものです。事實[2]
うしろのほうが、ちゃいろなの? カンバみたい!
上は縞、下は無地。服でいうと、ブラウスは柄で、スカートは一色。……ソウタくん、これはおしゃれな組み合わせだよ。柄と無地の切りかえは、仕立て屋がいちばん悩むところなんだ。喜好
クアッガの最後の1頭は、1883年8月12日にアムステルダムの動物園で死にました。事實[2]
……もう、いないんだ。
ぼく、図鑑で、まけた生きもののページもさいごまでよむの。クアッガのページがあったら、ふせんはる。喜好
映画をささげた人
もう絶滅してしまったクアッガ。サバンナシマウマに近いなかまです。そのクアッガを交配でよみがえらせようとしたことで知られるのが、ラインホルト・ラウ(Reinhold Rau)さん。クアッガ繁殖プロジェクトをはじめた人です。この映画は、ラウさんにささげられています。ラウさんが亡くなったのは、2006年2月11日でした。事實[1]
1988年12月9日に生まれたのは、クアッガに似た模様をもつ子でした。2005年1月20日に生まれた子には、「ヘンリー」という名前がついています。どちらも「クアッガプロジェクト」から生まれた子です。交配によってクアッガを取り戻そうと、1986年に始まった試みで、事務局は南アフリカのケープタウン。こうした模様のシマウマたちには、「Rau quagga」という呼び名がついています。事實[2]
ヘンリー! それ、ほんとのシマウマ?
本当のシマウマだよ。クアッガに似た模様の子が、少しずつふえているんだって。いなくなった模様を、もう一度見たいと思った人がいたんだね。解讀
それだったら、カンバの映画は、ラウさんへのおてがみみたいだね。解讀
……おてがみ。そうかもしれない。おじさんは、いまの言い方が好きだよ。喜好
カルーはかわいた土地
羊の放牧がさかんな、わりと乾いた土地。それがカルーです。広がりは南アフリカ共和国の南のほうから、ナミビアまで。内陸側はナマ・カルーと呼ばれ、それがさらに北の大カルー、南の小カルーに分けられます。事實[3]
かわいてるところなんだ。だから雨がだいじなんだね。有依據的推測
そうだね。雨がだいじな土地で、雨が降らないと、だれかのせいにしたくなる。こわいときほど、人も動物も、ちがうものを見つけてしまうのかもしれないね。解讀
ぼくだったら、ルールをひとつたすよ。しまがあってもなくても、いっしょに水をさがしにいけるルール。喜好
観るときのひとつだけ
はじめてみる人は、カンバのうしろのほうをみて。しまがないとこ。そこがカンバのいいとこだから。喜好
おじさんからも、ひとつだけ。観る前に、クアッガという名前を覚えておいてね。それだけで、カンバの縞の見え方が少し変わるはずだよ。喜好
ねえ、おじさん。カンバのふく、つくれる? うえがしましまで、したがちゃいろの。
もちろん。ソウタくん、どこで縞が終わるか、指でさしてごらん。そこが、いちばん大事な縫い目になるからね。
『Khumba』の主人公は、体の半分にしか縞のないシマウマ。その姿は、下半身が茶色一色だった、もういない動物クアッガに重ねられている。