原宿のアトリエ。仮縫いの衣装を着たカノンが、鏡の前で羽織を肩にかけてポーズを取っていました。そこから、和と洋を一人の体に重ねる話になりました。
先生! 詰め襟の上から羽織をかけたら、かっこよくないですか?
その思いつき、Bellissimo! 着てみたい形が先にあるのは、いい作り手の始まりだよ。……で、それには有名なお手本があるね。
「大正らしさ」から生まれた
吾峠呼世晴さんの漫画が原作で、連載誌は『週刊少年ジャンプ』。2016年11号で始まり、2020年24号まで載りました。舞台は大正時代の日本で、和風の剣戟奇譚です。事實[1]
連載の準備をしていたころ、ある人物が和装だったのを見て、担当編集の片山さんが出した提案は「大正らしさがほしい」というものでした。そこで吾峠さんが考え出したのが、「詰め襟に羽織り」といういまのデザインだ、と紹介されています。主人公の炭治郎は、隊服の上から市松模様の羽織をはおっています。事實[1]
詰め襟は洋服の形、羽織は和服の形。その二つを一人の体に重ねると、それだけで服が「時代の境目」を語りだす。言葉で説明しなくても、立っているだけで、いつの時代の話か伝わるんだ。解讀
時代の境目……! よかろう、わらわも境目を着こなして……じゃなくて、着こなしてみせます!
ふふ。じゃあ引き算を一つ。柄は一枚だけ。詰め襟は無地のまま。柄どうしがけんかすると、境目がぼやけるからね。喜好
市松は動くと変わる
市松模様は、正方形を互い違いに並べただけの柄。止まっていると整然としているけど、布が揺れると四角がゆがんで、波のように見える。羽織の裾が翻るたびに、柄の見え方が変わるんだ。動く場面では、顔より、裾の四角がどう崩れるかを見てごらん。解讀
アニメは黒を足した
ufotableが制作したテレビアニメは、外崎春雄さんが監督、松島晃さんがキャラクターデザインと総作画監督を務めました。全体が締まって見える画にしたいので黒を強調したい、と外崎さんに頼まれた松島さんは、顎に黒い影を入れ、輪郭線を太くし、線の中にも黒を濃く塗り込む部分を設けたそうです。事實[2]
服でいえば、縁に入れる黒のパイピングだね。一本黒を入れると、どんな色の服でも引き締まる。羽織の柄が派手でも画面がうるさくならないのは、たぶんこの黒のおかげだ。顎の下の影の濃さ、意識して見てみて。解讀
神楽の衣装は本当に作られた
作中で神楽を舞う場面には、ロトスコープの方法が使われました。実際に衣装をこしらえ、振付師のNAOKIさんが踊った映像を用意。それを、衣装の複雑な動きまで含めてなぞり、すべて作画で描いています。事實[2]
本物の衣装を作って、踊って、それを絵にしたんですか!
布は、着て動かさないと分からないことだらけだからね。袖の重さ、裾の遅れ。描く人が本物の布の遅れを見てから描いている。だからその場面では、袖が体より少し遅れてついてくるところを探してごらん。僕はそこを何度も止めて見たよ。解讀
見つけ方を三つ
一つ目、止まっている場面で、詰め襟の「洋」と羽織の「和」が、襟元・肩・袖口のどこで重なっているかを見る。二つ目、動く場面で、市松の四角がどう崩れるかを見る。三つ目、神楽の場面で、袖が体より遅れて動くかを見る。それから、顎の下の黒い影も。喜好
先生、私の衣装にも、黒を一本入れていいですか?
もちろん。ただし一本だけ。一本なら、黒はいちばん効く。
詰め襟に羽織。洋と和を一人の体に重ねると、服が時代の境目を語りだす。