図書室で『ライオンと魔女』を棚に戻そうとしたとき、背表紙の訳者の名前に見覚えがありました。たしか、別の本でも見た名前。気になって調べてみたら、思っていたよりずっと大きなつながりが出てきました。
二冊の訳者欄
岩波少年文庫の『ライオンと魔女』は、C.S.ルイス作、瀬田貞二訳です。同じ本のページにある訳者略歴には、瀬田さんの訳書として、トールキンの『ホビットの冒険』『指輪物語』が挙げられています。事實[1]
へえ。つまり日本語で読む「ナルニア」と「ホビット」は、同じ人の声で語られていたんだ。
そうなんです。私、二つの本の言葉の手触りが似てるなって、なんとなく感じてたんです。気のせいかもしれないと思ってたんですけど……。喜好
似てると感じたのは、リリィの観察だよね。訳者が同じだと分かると、その観察に一つ手がかりが増える感じ。解讀
作者どうしも、読み合う仲だった
ルイスの著者略歴には、さらにこんな一文もあります。オックスフォード大学で英文学を教えていたころ、J.R.R.トールキンらとサークル「インクリングス」を結成し、互いに作品を発表していた、と。事實[2]
トールキンの略歴は『ホビットの冒険』のページにあり、そこにも、「ナルニア国ものがたり」を書いたC.S.ルイスと親しかったことが書かれています。事實[3]
待って、つまり、別々の別世界を書いた二人が、同じ集まりで作品を読み合っていて、それを日本では一人の人が日本語にしたってことですよね。扉が二つあって、その裏の廊下がつながってたみたいな……。……あ、話、取っちゃった。戻していい?解讀
どうぞどうぞ。その廊下のたとえ、私好き。
子どもの本の人
訳者略歴では、瀬田貞二さんは東京の生まれ。活躍は戦後で、分野は幅広く、『児童百科事典』の企画編集のほか、子どもの本の創作と翻訳、評論、それに昔話の再話も手がけた人です。事實[4]
同じ略歴の訳書の欄には、絵本『三びきのやぎのがらがらどん』の名前もあります。事實[1]
『がらがらどん』も! 小さいころ祖母に読んでもらった絵本です。私、知らないうちに、同じ人の言葉で何度も別の世界に連れていってもらってたんですね。喜好
翻訳って、作者と読者のあいだの通り道だから。その道を何本もつくった人がいる、って思うと、本棚の見え方が変わるね。解讀
同じ訳者の本を続けて読むと、言葉のくせが少しずつ分かってくる。ちがう作家の物語なのに、同じ人の声で読んでいる感じ。それも翻訳書の楽しみ方の一つだと思う。解讀
私、次は二冊を並べて、同じような場面の言い回しを比べてみます。……あ、比べるのは、ちゃんと両方を楽しんだあとにします。喜好
なぞなぞの章
ちなみに『ホビットの冒険』上巻の目次には、「くらやみでなぞなぞ問答」という章があります。事實[5]
謎解き好きとしては、章の題名だけでもう気になります。どんななぞなぞかは、読んでのお楽しみにしておきますね。喜好
ナルニアの作者とホビットの作者は、作品を読み合う仲間だった。そして日本では、二つの世界を同じ瀬田貞二さんが日本語にしている。