今回の問いはシンプルだ。「物語の冒険は、どこで終わるのか」。言い出したのはゲンで、答えは最初から決まっているつもりだった。ところが、リリィとルカに聞いてみると、三人の答えはきれいに三つに割れた。
ゲンの答え:帰ってくるまで
決まってんだろ、帰ってくるまでが冒険だ! 遠洋の船はな、魚を獲った瞬間じゃなくて、港に帰って家族の顔見た瞬間に一航海が終わるんだ。喜好
それ、ナルニアの本の目次にも出てくる気がします。……ちょっと待ってください、確かめます。
岩波書店の紹介文によれば、『ライオンと魔女』の4人きょうだいは、戦争から逃れるために地方の屋敷へ疎開している。ある日、大きな衣装だんすの中に入ってみると、その奥には雪に覆われた別の世界が広がっていた、という物語だ。事實[1]
岩波少年文庫版の目次を見ると、第1章が「ルーシィ、衣装だんすをあけてみる」で、第5章には「ドアのこちらに、まいもどって」という章題がある。事實[2]
ほら、ありました。行って、戻ってくる章が、物語のかなり早いところにあるんです。私、この章題を見るたびに、扉は一回くぐったら終わりじゃなくて、行ったり来たりできるものなんだって思って、うれしくなるの。解讀
リリィの答え:行ったり来たりのあいだ
福音館書店の紹介文によると、『魔女の宅急便』のキキは13歳の魔女で、「ひとり立ち」するために初めての街へやってくる。自立のために彼女が始めた仕事は宅急便屋さんで、ほうきで空を飛び、荷物を届けるのだと書いている。事實[3]
キキは、帰るために出ていくんじゃなくて、ひとり立ちするために出ていくでしょう。だから私の答えは、冒険は「帰るまで」じゃなくて、「行った先で、自分の場所ができるまで」かもしれない、です。……ごめんなさい、ゲンさんの答えに反対したいわけじゃないの。解讀
いいじゃん、それ! 反対上等だ。……でもよ、キキだっていつかは家に顔出すだろ。
それは、物語の先の話なので、ここでは言いません。
ルカの答え:帰れない人の冒険
ルカさんは、どう思いますか。ルカさんって、昔の物語のことならなんでも知っていそうな気がして。
いえ、そんなことはまったく……。昔のことは、大まかな流れしか存じ上げないのです。細かいところは、いつもタカシ様に確かめていただいておりまして。……ただ、帰り道の話でしたら、少しだけ。私は、以前いた場所には、もう帰れない事情があるのです。
……そうか。そりゃ、帰ってくるまでが冒険って言われたら、困っちまうな。
KADOKAWAの『はたらく魔王さま!』第1巻の紹介文はこうだ。勇者に負けた魔王サタンが行き着いたのは、異世界「日本」の東京・笹塚。そこで魔王にできることといえば、アルバイトで生活費を稼ぐことだった。仮の魔王城は六畳一間のアパートで、魔王は今日も額に汗して働いているという。事實[4]
この方は、帰る道がすぐには見つからない場所で、まず家賃を払うところから始めます。帰れない者の冒険は、帰り道を探すことではなく、着いた場所に、帰ってこられる部屋を一つ作ることから始まるのだと、私は思っています。六畳一間でも、毛布をきちんとたためる場所があれば、そこが帰る先になる。解讀
ゲンの決めぜりふが変わったところ
……そうか。俺は、帰る港があるのを当たり前だと思ってたんだな。港ってのは、最初からあるもんじゃねぇ。だれかが作って、だれかが待ってて、はじめて港になる。解讀
じゃあ言い直す。帰ってくるまでが冒険だ。で、帰る場所がない奴は、帰る場所を作るまでが冒険だ。……どうだ、これなら全員入るだろ。解讀
入ります。私の「自分の場所ができるまで」とも、つながってる。
ありがとうございます、ゲン様。……そう言っていただけると、私の冒険も、まだ途中ということにできますね。
今回はここが違った
三人の答えは、最後まで一つにはならなかった。ゲンにとって冒険の終わりは「帰りを待つ人の顔」で、リリィにとっては「扉の向こうに自分の場所ができること」、ルカにとっては「帰ってこられる部屋を一つ作ること」。次に冒険の物語を読むときは、主人公がどこへ帰ろうとしているのか、あるいはどこを帰る場所にしようとしているのかを見てみると、同じ旅の終わり方が少し違って見えるかもしれない。解讀
帰ってくるまでが冒険。帰る場所がないなら、帰る場所を作るまでが冒険。