深夜、オンラインのレースゲームで三本走ったあと。最後の一本をわずかな差でハヤテに取られたクロから、いつもより長いチャットが届きました。「さっきのライン、夢で見た」。そこから話は、一本のアニメ映画のほうへ曲がっていきました。以下は、そのあとのやりとりです。
人の夢を見られる装置
夢でラインを見るんですか。僕は、目を閉じて頭の中で走ることはあります。イメージトレーニングです。
それな。ハヤテのイメトレは、自分で入りに行く夢だと思う。……夢の話で、一本ある。『パプリカ』。解讀
筒井康隆さんの長編SF(1993年)をもとに、今敏さんが2006年に映画にした『パプリカ』。夢をめぐる装置の話で、原作の骨組みは残しながら、筋は大きく作り替えられています。事實[1]
舞台は、他人の夢をのぞける装置「DCミニ」がある近未来。夢探偵パプリカが、刑事の粉川に、あるウェブサイトの名が書かれたカードを残していきます。事實[1]
ここで、俺は掴まれた。カード一枚で、知らない場所への入口を渡される。入口の作り方が、ゲームのロード画面みたいで、草。……その先に何があるか、信じたくなる。喜好
カード一枚の入口、ですか。僕は、オンラインで走るとき、相手の車の動きしか知りません。それでも、相手がそこにいるのは分かります。解讀
了解。俺も、ハヤテのブレーキの踏み方は知ってる。それで足りる。
原作の連載と別の小説
小説『パプリカ』の出版は1993年です。連載は二部構成で、前半は1991年の1月号から翌年3月号まで、後半は1992年8月号から1993年6月号まで続きました。載っていたのは雑誌『マリ・クレール』です。2006年のアニメ映画には、原作者の筒井康隆さんも声優として出演しています。事實[2]
筒井さんが書いた別の小説『朝のガスパール』には、『パプリカ』から千葉敦子、粉川利美、時田浩作の3人がゲストとして顔を見せます。事實[2]
『朝のガスパール』は、朝日新聞で連載された小説です。読者から届く意見をパソコン通信で受け取り、双方向のやりとりを重ねながら書かれました。筒井さんが得意とする、虚構と現実を混ぜ合わせる書き方も使われています。事實[3]
これを知ったとき、手が止まった。読者の意見を取り入れながら書かれた小説に、別の小説の人たちが遊びに来てる。キャラクターが作品の外に出張する。ゲームでいうと、別タイトルからのゲスト参戦。……クロスオーバーは、作り手がその人たちを好きじゃないと起きないと、俺は思ってる。解讀
レースゲームにも、ほかのゲームの車が走りに来ることがあります。僕は、そういうのを見つけると、それだけで一周多く走ってしまいます。喜好
全部入れるとテレビ26本
原作の出来事を忠実に映像にしようとすれば、テレビシリーズで26本ぶん。だから今さんは、細かな言葉や話ではなく、原作の「態度」に忠実であろうとしました。構想そのものは、1998年にはもう頭の中にあったそうです。事實[1]
26本ぶんを、映画一本に。ゲームの移植で、全部のイベントは入らないから、何を残すかを決める、あの判断に似てる。態度に忠実、っていう言葉は、好き。中身を削っても、遊んだときの手ざわりが同じなら、それは同じゲームだと思う。解讀
コースを全部覚えるより、そのコースの走り方の癖をつかむ、みたいなことでしょうか。……あ、すみません。たとえが速さの話ばかりで。解讀
それで合ってる。
音楽が先にある
今さんは『千年女優』から平沢進さんと組んでおり、この作品でも、音楽を先に作ってもらってから映像を描き起こしていく方法をとりました。劇中の悪夢のパレードは原作に存在せず、全部が今さんの発案です。そのシーンは、平沢さんと二人で一緒に作り上げたといいます。エンディングテーマは平沢さんの「白虎野の娘」です。事實[1]
音が先で、絵があと。ゲームのBGMを先に聴いてから、ステージを走るときの感じに近い。俺は、音が先にある作品は、二周目のほうが強い気がする。喜好
僕は、エンジン音でコースの形を覚えることがあります。音が先、というのは分かる気がします。解讀
初めて観る人へ
入口は、カードを渡す場面。そこまで知っていれば足りる。あとは、筋を追うより、音に乗る。ヘッドホン推奨。スタッフロールのあいだは通知を切る。これは俺の決まり。喜好
観ます。終わったら、原作の小説も探してみます。『朝のガスパール』のほうも。喜好
了解。……観る前に寝ろ。明日も走るなら。(猫のスタンプ)
『パプリカ』の時田浩作・千葉敦子・粉川利美は、筒井康隆さんの別の小説『朝のガスパール』にもゲストとして出ている。