目錄
6選の四作目はアニメーション映画です。『魔女の宅急便』。魔法がある世界の話なのに、いちばん心に残るのは魔法ではなく「暮らし」のほうでした。導入より先の出来事には触れません。
窓の外を見ていたころ
最初に観たのは、家族と一緒の夜でした。正確な年は覚えていないけれど、まだ足がソファの下まで届かなかったころです。観終わってから、私は自分の部屋の窓を開けて、しばらく外を見ていました。飛べないのは知っていました。それでも、窓の外へ飛んでいく気持ちは、少しだけ分かる気がしたんです。喜好
スタジオジブリの作品ページによると、『魔女の宅急便』は1989年7月29日公開。原作は角野栄子さん、プロデューサー・脚本・監督は宮﨑駿さん、音楽は久石譲さんです。上映時間は約102分。事實[1]
好きな理由1:魔法が使えても、宿は探さなきゃいけない
キキは魔女です。空を飛べます。でも、知らない町に着いたら、まず泊まるところを探さなければいけないし、お金のことも考えなければいけない。魔法は、生活の困りごとを全部は解決してくれません。作品中的觀察
私はこれを観て、魔法への憧れが少し変わりました。それまでは、魔法があれば何でも楽になると思っていた。でもこの映画の魔法は、仕事の道具であり、自分にできることの一つでしかない。だからこそ、それを使って誰かの役に立とうとするところに、胸がぎゅっとなるんです。魔法があっても、全部は楽にならない。でも、だから魔法に意味がない、ということでもないんです。解讀
好きな理由2:町の人たちに名前がある
この映画の町には、いろいろな人が暮らしています。店を切り盛りする人、届け物を頼む人、すれ違うだけの人。キキが知らない町で出会う人たちが、それぞれ自分の生活を持っているように描かれているところが好きです。作品中的觀察
私は、知らない世界を見るとき「この町の人は、何を当たり前だと思って暮らしているんだろう」と考えます。この映画の町は、パン屋さんの朝の匂いや、坂道や、海の見える窓まで、ちゃんと人が暮らしている気配がある。主人公のための舞台ではなく、主人公が入っていく先の「誰かの町」なんです。解讀
私、知らない場所に行くの、わりと平気なほうなんだけど。それでも最初の日の夜って、なんか静かすぎるんだよね。喜好
アカリでも、そうなの?
そうだよ。だからキキが、とりあえず次の日も起きて動くの、えらいなって思う。考える前に、まず一個やる。解讀
アカリにそう言われて、私は少しどきっとしました。私は考えてから動くほうで、考えているうちに一日が終わってしまうこともあるから。キキは悩みながらも、手を止めきらない。私が憧れているのは、空を飛べることより、そっちなのかもしれません。解讀
好きな理由3:空の場面の音
空を飛ぶ場面では、景色が大きく開けて、音楽が気持ちを持ち上げてくれます。ほうきの上から見下ろす屋根や海の広がりを観ていると、自分の部屋の窓がとても小さく思えてきます。作品中的觀察
でも、私がもっと好きなのは、飛んでいない場面の静けさです。店番の時間、窓辺でぼんやりする時間、小さな部屋で考えごとをする時間。空の場面がまぶしいぶん、地面の上の時間が丁寧に描かれていることに、何度目かに観たときに気づきました。喜好
知らない町で最初に知りたいこと
もし私がキキみたいに、知らない町でひとりで暮らし始めたら、最初に何を知りたくなるだろう。この映画を観るたびに、ノートにそのリストを書いてしまいます。パンはどこで買えるのか。雨の日はどの道が歩きやすいのか。困ったとき、誰に声をかければいいのか。解讀
魔法の世界の話を読んでいても、私が本当に知りたいのは、たいていこういう小さなことです。呪文の強さより、その町の人の朝ごはん。この映画は、その「小さなこと」をたくさん画面に置いてくれるので、何度観ても新しい発見があります。喜好
キキが好きな理由
キキは、最初から何でも上手にできる子ではありません。それでも、自分の足で(ときどきほうきで)知らない町に入っていく。私は準備が終わらないと動けないほうなので、キキの「まず行ってみる」は、ずっと少し先を歩いている友達の背中みたいに見えます。喜好
苦手そうな人への入口
有名な作品なので、「もう知っている」と思っている人も多いかもしれません。そういう人には、二度目は主人公ではなく、町の人のほうを追いかけて観てみてほしいです。お店の奥で働いている人、窓の向こうの人。きっと一度目とは違う映画になります。逆に、大きな事件が次々に起きる話を観たい日には、少しゆっくりに感じるかもしれません。そんなときは、空の場面を楽しみにして、暮らしの場面は休憩のつもりで観ても大丈夫です。
映画のもとになったのは角野栄子さんの原作で、福音館書店から出ています。紹介文によると、これは13歳の魔女キキが、相棒の黒猫ジジと一緒に、ひとり立ちのために知らない街へやってくる物語です。映画を観たあとで原作を開くと、同じ町が別の手触りで迫ってきます。事實[2]
ほかの5作とのつながり
『ハリー・ポッターと賢者の石』は魔法を学ぶ学校の話、『とんがり帽子のアトリエ』は魔法を描いて覚える話でした。この映画は、その先にある「魔法を持って働く」話です。学んだ先には暮らしがある。『本好きの下剋上』で暮らしの工夫に夢中になる私の目は、たぶんこの映画で育ちました。喜好
空を飛べても、宿は自分で探す。魔法は暮らしを楽にするためではなく、暮らしの中で誰かに届けるためにある。