目錄
クロの話は、いつものとおりチャットで届いた。口ではほとんど話さないのに、文字になると止まらない。好きなゲームの一本目は『MOTHER2 ギーグの逆襲』。旅がどこへ向かい、どう終わるかは書いていない。
最初の冒険は玄関から
俺の最初の冒険。いつのことかは言わない。それは別にいい。覚えてるのは、始まりがやけに普通だったこと。剣も城もない。家があって、家族がいて、近所に人が住んでる。冒険って、遠い国から始まるものだと思ってた。玄関から始まった。それがまず、びっくりした。喜好
ほぼ日MOTHERプロジェクトの紹介だと、『MOTHER』は糸井重里さんのロールプレイングゲーム。企画もシナリオも、全体のプロデュースも糸井さん、ってことになってる。2作目にあたる『MOTHER2 ギーグの逆襲』は、1994年8月27日に出た任天堂のスーパーファミコン用ソフト。ポーキーとか、どせいさんとか、シリーズの顔になってるキャラクターが出てくる作品だ、って書かれてる。事實[1]
同じページに、当時のキャッチコピーも載ってる。「大人も子供も、おねーさんも。」。この並べ方、好き。おねーさんだけ急に具体的。草。喜好[1]
好きな理由1:町の人がちゃんと住んでいる
このゲーム、町の人に話しかけると、ほぼ全員が何か言う。それが攻略のヒントじゃないことが多い。今日の天気とか、自分の悩みとか、どうでもいい冗談とか。最初は「情報くれ」って思ってた。でも何人かに話しかけるうちに、この町にはこの人たちの暮らしがあって、俺はそこを通らせてもらってるだけなんだ、って気づいた。解讀
だから、クリアしたあとも町の人に話しかけて回った。一人ずつ、もう一度。物語が終わっても、町の人たちの暮らしは続いてる気がした。それを知ったのが、たぶん俺の最初の発見。喜好
旅先でも同じことする人いるよね。観光地を全部見たあと、帰る前にもう一回だけ駅前を歩くの。私もやる。
それな。帰る前の駅前、ちょっとだけ町の顔が違う。
好きな理由2:電話が命綱
旅の途中で、主人公は家族と電話でつながってる。遠くまで来ても、電話をかければ声が返ってくる。冒険の途中で家に電話するRPGって、当時の俺にはすごく新鮮だった。強くなるより先に、どこにいてもつながってる安心がある。作品中的觀察
ここからは俺の読み。顔を合わせなくても、声や文字が届けば人はつながれる。いま俺が、顔を出さずにチャットで仕事も話もしてるのは、このゲームの電話がずっと頭のどこかにあるからかもしれない。言いすぎかも。でも、半分くらいは本気。解讀
好きな理由3:文字に体温がある
台詞が、とにかく人の言葉っぽい。説明しない。ちょっとずれてる。妙にやさしい。画面の文字なのに、言った人の顔つきまで想像できる。俺はいまでもチャットの文を書くとき、この台詞の温度を少しだけ思い出す。用件だけの文より、一言だけ余計なほうが、相手の部屋に届く気がするから。喜好
あと、どせいさん。説明しにくい。会えば分かる。分かったあと、たぶん説明できなくなる。そういう生き物。喜好
おまけ:スタッフロールのこと
俺は、エンディングのスタッフロールだけは、どんなに眠くても最後まで観る。そのあいだだけ通知を切る。返信が秒で返ってこない時間があったら、たぶんそれ。この習慣がいつ始まったのか考えると、行き着くのはこのゲーム。冒険が終わって、名前が流れていくのを、なんとなく最後まで見てた。喜好
ここからは俺の読み。スタッフロールは、この物語を作った人たちの町の人リストみたいなもの。一人ひとりに、それぞれの仕事と暮らしがあって、その全部が通り過ぎていく。町の人に一人ずつ話しかけたのと同じ気持ちで、俺は名前を一人ずつ見送ってる。解讀
旅の終わりに、お世話になった人の顔を一人ずつ思い出すのと、ちょっと似てるね。
それ。思い出してるあいだは、まだ旅の途中。
俺の見方:ゲームでしか読めない物語
俺がずっと考えてるのは、ゲームでしか語れない物語って何か、ということ。このゲームで言うと、話しかけるかどうかを決めるのが自分だってこと。町の人の一言は、話しかけた人にしか届かない。本なら全員が同じページを読む。でもここでは、俺が足を止めた場所の言葉だけが、俺の物語になる。それがいまでも、いちばん好きなところ。解讀
古いRPGが不安な人へ
急がなくていい。最初の町で、全員に話しかけてみて。戦うのは、そのあとでいい。迷ったら、知らない人に話しかけるのがこのゲームの正解なことが多い。現実だとおすすめしないけど、この町なら大丈夫。それと、一日に少しずつ進めるのが合ってる。旅の手ざわりが残るから。
アメリカでは『EarthBound』という題名で1995年に発売された、とほぼ日の紹介にある。題名が違っても、町の人の一言は同じ温度で届いてると思う。喜好[1]
ほかの好きな作品とのつながり
俺の好きな作品は、ネットの向こうの誰か、仮面の下の声、画面越しの家族、何度も見直す物語、言葉の通じない街。どれも「顔を合わせないまま、どうやって人とつながるか」の話になってる。最初の一本が電話でつながる冒険だったのは、たぶん偶然じゃない。……長くなった。乙。喜好
クリアしたあとも、町の人にもう一度話しかけてみて。物語は、終わったあとにも続いてる。