六本目は、アニメの『夜は猫といっしょ』。大きな事件は起きない。猫がいて、猫に振り回される人がいる。それだけ。それだけのものが、六本の最後に入った。
通知の合間に
仕事はいつも細切れ。通知が来て、返して、次が来るまでの数分が空く。その数分に、ちょうど収まるのがこの作品。一話観て、通知に返して、また一話。膝の上の猫は、画面の猫を見てもとくに何も思っていないらしい。そっちのほうが、ずっと猫っぽい。喜好
公式サイトによると、原作はキュルZさんの漫画(KADOKAWA刊)。監督・脚本は芦名みのるさん、アニメーション制作はスタジオぷYUKAI。猫のキュルガの声は高垣彩陽さん、フータくんの声は日野聡さん。事實[1]
イントロダクションでの紹介は、フータくんがある日いきなり猫のキュルガと暮らすことになって、そこから楽しいことや不思議なことでいっぱいの毎日が始まる、というもの。猫と過ごすリアルな日常を描いた作品だ、とも書かれている。事實[2]
第一夜「ネコが家に来た日」のあらすじはこう。フータくんは、これまでネコとまったく縁がなかった。ところが、見るほどに不思議なネコから目が離せなくなって、興味津々になっていく。事實[4]
好きな理由1:猫の動き方が本物
公式サイトに載っている監督のコメントでは、猫ならではの、じっとしているのに動いて見えるアニメーション、という言い方をしている。シーズン1のときのコメントでは、毎日猫を診察している小動物臨床獣医師の立場からも、いい作品になるよう力を尽くす、とも書いていた。事實[1]
「動かないのに動いている」。これ、猫と暮らしている人なら全員うなずくと思う。じっと座っているのに、しっぽの先だけ動く。寝ているのに、耳だけこっちを向く。この作品は、その小さな動きをちゃんと拾っているように見える。猫を飼っている側からすると、観ていて「それな」しか出てこない。解讀
好きな理由2:鳴き声が猫
キュルガの声を担当する高垣彩陽さんは、公式サイトのコメントで、オーディションの要項に猫の鳴き声をリアルに演じてほしいと書かれていたから、かなり気合を入れて受けた、と振り返っている。事實[1]
鳴き声に、ちゃんと気分がある。甘えているとき、文句を言っているとき、ただ呼んでいるとき。画面の猫が鳴くたびに、膝の上の猫が一瞬だけ顔を上げる。たぶん、これ以上の評価はない。作品中的觀察
観るのはいいけど、そのあいだにごはん食べて。置いておいたの、まだ冷めてないから。
……ん。一話終わったら食べる。
その「一話」、短いから信じる。この作品にしては、ちょうどいい約束だと思う。解讀
好きな理由3:何も起きない夜
ほかの五本は、どれも画面の向こうとこっちの話。仮想世界、ネット、AI、目の前の世界の真偽。考えることが多い。この作品だけは、何も考えなくていい。フータくんが猫に驚いて、猫はそんなこと気にしていない。それで一話が終わる。解讀
イントロダクションのページには、疲れて家に帰った夜は猫と一緒にいたい、という言葉が載っている。事實[2]
家から出ない身としては、帰ってくる夜はないけれど、疲れた夜ならたくさんある。その夜のための作品、だと思って観ている。解讀
フータくんの立ち位置
この作品の主人公は、猫に詳しくない人。そこがいい。詳しい人が猫を語るんじゃなくて、知らない人が、猫の不思議にひとつずつ気づいていく。猫の不思議な行動に、フータくんがひとつずつ気づいていく。フータくんが「なんで?」と思うたびに、こっちは「分かる」と思う。知らない側と知っている側が、画面をはさんで同じ猫を見ている。作品中的觀察
それに、詳しくないまま猫と暮らし始めてもいい、と言ってもらえている気がする。最初から全部分かっている必要はない。分からないことは、猫が教えてくれる。仕事でも、暮らしでも、それはたぶん同じ。解讀
はじめての人への入口
どこから観てもいい。順番もあまり気にしなくていい。猫と暮らしている人は、自分の猫と見比べながら観るのがいちばん楽しい。猫と暮らしていない人は、フータくんと同じ「知らない側」から観るといい。フータくんが驚くところで一緒に驚けば、それでもう十分この作品を楽しめている。寝る前に一話だけ、という付き合い方がちょうどいい。喜好
猫が苦手な人にも、案外すすめやすい。驚かされる場面があっても、怖い話ではないと思う。フータくんと一緒に、少し離れたところから猫を観察する。それくらいの距離で観ても、ちゃんと楽しい。喜好
放送情報のページを見ると、YouTubeにある「夜は猫といっしょ」の公式チャンネルでも配信されている。事實[3]
ほかの5本とのつながり
『竜とそばかすの姫』『serial experiments lain』『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』『サマーウォーズ』『マトリックス』。どれも、画面の向こうに誰がいるのかを考えさせる話。考えすぎた夜の最後に、この作品で画面のこっち側に戻ってくる。膝の上の猫は、ネットにはつながっていない。それが、たまらなく安心する。好きなゲームの『MOTHER2 ギーグの逆襲』で、冒険のあとに帰る家があると知った。自分にとっての帰る場所は、たぶんこの膝の上の重さ。喜好
考えすぎた夜は、猫が動かないのに動いているのを眺めればいい。一話観たら、ごはんを食べる。