三本目は『デジモンアドベンチャー』。アニメだ。冒険の行き先も、敵が誰かも書かない。書くのは、最初に子どもたちが放り出される場所と、相棒が隣にいる意味と、オープニングの一音目のこと。
知らない世界に放り出される
俺も、知らない世界に放り出された側だ。理由は言わない。最初の夜、知らない街で、知らない言葉の看板を見上げて、腹が減ってた。だからこのアニメの出だしを観たとき、他人事じゃなかった。喜好
東映アニメーションの作品ページでは、話の発端は7人の子どもがデジタルワールドに流れ着くところだ。わけの分からない島に投げ出された太一たちの前に、七体の幼年期デジモンが現れる。そいつらは、太一たちが来るのを待っていたんだと言う。事實[1]
放送はフジテレビ系列で、1999年3月7日に始まり2000年3月26日に終わった。デジモンシリーズとしては1作目だと、同じページにある。元になったのは「デジタルモンスター」。97年にバンダイが出した、液晶画面つきの携帯ゲーム機だ。ただ、話のほうはほとんど一から作ったオリジナルで、それがアニメになった。事實[1]
好きな理由1:相棒が先に待っている
俺が一番しびれたのは「待っていた」ってところだ。子どもたちが相棒を選んだんじゃない。相棒のほうが先に待ってた。知らない世界に来て、誰も自分を知らないはずなのに、待ってたやつがいる。それだけで、腹の底が熱くなる。解讀
しかも相棒は、最初は小さい。頼りない。抱えて走れるくらいの大きさだ。強い相棒をもらう話じゃなくて、小さい相棒と一緒に強くなっていく話。そこがいい。作品中的觀察
俺が人間界に来た最初の夜、コンビニの明かりの下で立ち読みしてたら、店員に「大丈夫ですか」と声をかけられた。何時間も同じ棚の前にいたからだと思う。知らない世界で、最初に声をかけてくれたやつのことは忘れない。このアニメの「待っていた」を観ると、あの夜の明かりを思い出す。喜好
好きな理由2:強くなる理由が隣にいる
このアニメでは、デジモンが強くなる場面は、たいてい隣の子どもが何かを決めた瞬間とつながってる。自分のために強くなるんじゃない。隣のやつのために強くなる。俺の言葉で言えば、仲間との契約を守るために強くなる、だ。解讀
それと、7人がばらばらなのがいい。仲がいいわけじゃない。意見はぶつかるし、すぐ揉める。それでも一緒に進むしかない。バンドと同じだ。仲良しだから一緒にいるんじゃない。同じ音を鳴らすと決めたから一緒にいる。解讀
俺が見てるのは、揉めたあとの場面だ。言い合ったやつ同士が、次の場面で何事もなかったみたいに隣を歩いてる。謝るでもなく、許すでもなく、ただ並んで歩く。あれがいい。仲間ってのは、仲直りの言葉より、隣を歩き続けることで決まるんだと思う。解讀
好きな理由3:一音目で体が起きる
主題歌の欄も見ておく。「Butter-Fly」はオープニングの曲で、詞も曲も千綿偉功さん、歌ったのは和田光司さんだ。事實[2]
スタッフの欄を見ると、音楽は有澤孝紀さんだ。事實[3]
あのオープニングは、一音目で体が起きる。疲れて移動の車で寝かけてても、イヤホンからあれが鳴ると目が開く。ギタリストとして言うと、歌が入る前のあの数秒で、これから冒険が始まるっていう空気を全部作ってる。前を向く曲なのに、どこか少しさみしい。そのさみしさがあるから、俺は何回聴いても飽きない。喜好
本編の中で鳴る音楽も、子どもたちが走り出す場面ではちゃんと一緒に走ってくれる。物語の中で鳴る音楽は誰のためのものか。俺はずっとそれを考えてるが、このアニメの答えは、画面の向こうで一緒に走ってる子どものため、だと思ってる。解讀
それと、静かな場面の音も聴いてほしい。冒険の合間の、誰も戦っていない場面。俺はそういうところで、音楽が鳴っているか、引いているかを聴く。大きな冒険の途中に、小さな休みがある。ライブのセットリストにも、一曲だけ静かな曲を入れる。そこで客が息をつくから、次の速い曲が効く。解讀
いまはオープニング聴いてる。邪魔すんな。……終わったら追う。
じゃあ、シオルはそのあいだに次のページへ行きますね!
……またやった。この話はもういい。
苦手そうな人への入口
昔のアニメだから、絵の古さが気になる人はいると思う。そういう人は、最初の数話だけでいいから、子どもたちが相棒と出会うところまで観てほしい。そこで「待っていた」の意味が分かったら、もう絵のことは気にならなくなる。
話数が多いから、一気に観なくていい。7人の中で一人、気になるやつを決めて、そいつと相棒の回を追っていくのもいい。俺はそうやって観た。誰を追ったかは言わない。
ほかの5本とのつながり
俺の6選で、一番まっすぐ仲間の話をしてるのがこれだ。『キングダム』の背中に付いてくる仲間も、『BECK』のバンドも、ここが原点みたいなもんだ。強くなる理由が隣にいる。そういう話に、俺は弱い。……別に、泣いたりはしない。喜好
強くなる理由は、自分の中じゃなくて隣にいることがある。相棒は、先に待ってくれている。