三番目は『ピンポン THE ANIMATION』。思い出すと、まず耳の奥で「コン、コン」と小さな球の音が鳴りはじめます。メトロノームのようで、心臓の音のようでもある。そのリズムに合わせて、少しも整っていない線が画面いっぱいに躍る。今日はその「揃わなさ」がなぜこんなに好きなのかを書きます。
高校生の私と整っていない線
出会ったのは高校生のときです。そのころの私は、絵はきれいに整っているほど良いものだと、どこかで思いこんでいました。この作品の線は、太くなったり細くなったり、ときどき震えたりします。最初は戸惑ったのに、数話観るうちに、その揺れから目が離せなくなっていました。整っていない線にも魅力がある。それを体で知った最初の作品です。喜好
テレビアニメとしては、2014年4月10日からフジテレビの「ノイタミナ」ほかで放送が始まったと公式サイトにあります。事實[1]
原作は松本大洋さんの漫画で、監督は湯浅政明さん、音楽は牛尾憲輔さん。制作はタツノコプロです。事實[2]
理由その一 線が体温で揺れている
登場人物の輪郭は、定規で引いたようにまっすぐではありません。走ったあとの肩、ラケットを握る指、汗で張りついた前髪。線がわずかに揺れることで、その人がいま熱を持っていることが伝わってきます。作品中的觀察
私には、この揺れが「体温」に見えます。整った線は、静かに置かれた彫刻のよう。揺れる線は、いま息をしている人のよう。どちらが良いということではなくて、この作品が選んだのは後者で、その選択が私の目にぴったりだったのだと思います。解讀
線だけでなく、色も整いすぎていません。体育館の床、夕方の窓、ユニフォームの色が、少し乾いた、ざらりとした手ざわりで置かれている。私は観終わったあと、ノートに「くすんだ緑」「はねる赤」と書きました。名前をつけたくなるほど、色にも体温があったんです。喜好
理由その二 画面がいくつにも分かれる
試合の場面になると、画面がいくつもの枠に区切られることがあります。打つ人の顔、球の行方、見ている人の表情が、漫画のコマのように同時に並ぶ。ひとつの瞬間を、いろいろな角度から一度に見せられている感じです。作品中的觀察
この分割を観ていると、私はページをめくっているような気分になります。テレビの画面なのに、目は左から右へ、上から下へと、紙の上を読むように動いている。研究テーマにしている「ページをめくる間」を、映像のなかで感じられるのがうれしいんです。解讀
僕はあの分割を観ると、町内の運動会で、同じ瞬間を本部席と応援席と走ってる子が別々に見ている感じを思い出すんだ。一つの出来事に、立っている場所の数だけ顔がある。解讀
ガクの言い方を聞いて、私が「形」として見ていたものを、ガクは「立場」として見ていたのだと気づきました。同じ画面を、大きさの違う視点で見ている。それが面白くて、次に観たときは枠ごとに「この枠は誰の目だろう」と考えるようになりました。
理由その三 ラリーの音が感情になる
球が台に当たる音、ラケットに当たる音、靴が床をこする音。ラリーが続くあいだ、音が一定のリズムを刻みます。そのリズムが速くなったり、乱れたりするたびに、選手の気持ちの揺れまで聞こえてくる気がする。作品中的觀察
そして私がいちばん好きなのは、その音がふっと遠のく瞬間です。鳴り続けていたものが消えると、急にまわりの空気の重さがわかる。研究テーマの「音が消える瞬間」を、私はこの作品でいちばん多くノートに書きました。どの場面かは、ぜひ自分の耳で見つけてほしいです。喜好
苦手かもしれない人への入口
絵柄が独特で最初の数分で離れてしまった、という人にこそ、第1話を「音だけ」に集中して観てみてほしいです。線のことはいったん置いて、球の音のリズムを聞く。慣れてくると、不思議と線の揺れもリズムの一部に見えてきます。喜好
卓球のルールを知らなくても大丈夫です。私もほとんど知らないまま観ました。誰が勝つかより、誰がどんな顔で打っているかを見ているだけで、十分に心が動きます。構えたときの背中の丸さ、球を待つ足の小さな揺れ。体の形を見ているだけでも、その人の性格が少しずつ見えてくるはずです。喜好
ほかの6選と
音楽のクレジットが同じという点では『リズと青い鳥』と、リズムを紙や画面に起こす楽しさという点では『BLUE GIANT』と、描きかけの線の魅力という点では『映像研には手を出すな!』とつながっています。高校生の私が「揃っていなくていいんだ」と思えたことが、ほかの5本を好きになる土台になりました。喜好
持ち帰るしおり:ラリーの場面で一度だけ目を閉じて、球の音のリズムが乱れる瞬間を探してみる。
