映画『BLUE GIANT』を観直しました。原作の漫画は、中学生のころの私に、紙の上で音を想像する時間をくれた作品です。一度目は、想像していた音が本当に鳴ったことに驚いて、ほとんど何も覚えていません。二度目は、三人の音を一本ずつ聞き分けることにしました。サックス、ピアノ、ドラム。三つの音がそれぞれどこから来て、どこで重なるのか。結末にふれるところは畳んであります。まだの人は、開かずにおいてください。
二度目を始める前に
原作は石塚真一さんの漫画です。映画の公開は2023年2月17日。監督を立川譲さん、脚本をNUMBER 8さん、音楽を上原ひろみさんが担当し、制作はNUTです。上映時間は120分。原作のなかでも上京編を軸にしていて、玉田の家での居候、雪祈と出会うところ、バンドを組むところ、そして「So Blue」というライブハウスで演奏することを目指すところで物語が組まれています。事實[1]
イロハさん、今日はなんだか緊張してません? よかろう、私が隣で……じゃなくて、一緒に観ます!
うん、緊張してる。好きすぎる作品を観直すときは、いつもこう。
音が先に鳴っていた
バンド「JASS」の三人が演奏する場面は、まずプロの演奏家に演奏してもらって音を録り、そのあとで映像を作るという順番で制作されました。サックスを吹いたのは馬場智章さん、ピアノは上原ひろみさん、ドラムは石若駿さんです。馬場さんは、自分ではなく宮本大として吹くことが前提だったので、いつもの自分とは違う吹き方になったと語っています。事實[1]
これを知ってから観ると、演奏の場面の見え方が変わります。絵に音を合わせたのではなく、音に絵が追いついていく。二度目は、演奏の場面で、指や肩が音より遅れていないか、早すぎないかを見てみてください。私には、絵のほうが必死に音を追いかけている瞬間が、いちばん熱く見えました。解讀
それ、ダンスの練習と同じですね。曲が先にあって、体があとから追いつく。私はいつも半拍遅れるけど!喜好
独学のテナーサックス
主人公の宮本大は、仙台の高校生です。もともとバスケットボール部でしたが、ジャズに心をつかまれて、テナーサックスを誰にも習わずに練習しつづけます。高校を出ると、プロになるために東京へ。まっすぐな性格で、声の大きな人です。事實[1]
大のサックスの担当は、満場一致で馬場智章さんに決まったそうです。国内外から有力な奏者が集まったオーディションでのことでした。演奏の場面の大の動きには、モーションキャプチャーで諸星翔希さんが参加しています。事實[1]
中学生のころ、私は吹奏楽部の練習の音を聞きながら、原作のコマに音をあてはめていました。大のサックスの音は、私の中ではずっと、もっと荒くて、もっと大きかった。映画で本物の音を聞いたとき、想像よりもずっと歌うような音だったことに、一度目は戸惑いました。二度目は、その戸惑いごと楽しめました。紙の上の音と、映画の音。どちらも大の音で、聞いた人の数だけ大の音がある。喜好
イロハさんの頭の中の大さん、ちょっと聴いてみたいです。きっと深い青の音がしますよね。解讀
……それ、私がカノンちゃんに言ったやつ。
二度目は、大が初めて人前で吹く場面と、後半の演奏の場面で、音の出だしを比べてみてください。一人で吹いていた音が、ほかの二人の音を聞きながら吹く音に変わっていくなら、その変化は出だしの小さな間に出るはずだ、と私は思って聞きました。解讀
初心者のドラム
玉田俊二は大と同じ学校の出身で、大学に通うため上京していたところへ、大が転がりこんできます。大に誘われてバンドの練習にドラムで加わりますが、雪祈には強く反対される。それがきっかけで、練習用のドラムセットを買います。音楽教室にも通いはじめ、大学を休みがちになるほどのめりこんでいきます。事實[1]
二度目は、玉田のドラムの音だけを追いかけてみてください。最初のころの音と、後半の音では、叩く強さよりも、間の取り方が違って聞こえます。私は、うまくなっていく音より、迷っていた音のほうを長く覚えていました。整っていないリズムにも、その人がそこにいた跡がある。解讀
上手に聞こえるピアノ
沢辺雪祈は大と同い年のピアニストで、ピアノは4歳から弾いています。自分の才能を見せびらかすような振る舞いをすることもありますが、その才能は並外れています。ずっとあこがれてきた「So Blue」で支配人の平と会ったとき、偉そうな態度を叱られ、そこから自分を見つめ直して演奏に向き合うようになります。事實[1]
一度目の私は、雪祈のピアノを、ただきれいだと思って聞いていました。二度目は、平に叱られる前と後で、同じ人の音がどう変わるかを聞いてください。きれいに整えようとする音と、自分を出してしまう音。違いは音の大きさではなく、音を出す前のためらいの長さにあるように、私には聞こえました。解讀
上手に見せたいときって、自分がどこにもいなくなるんですよね。……あ、今のは一般論です!解讀
最後のステージ
結局·真相クライマックス點擊展開
「So Blue」で演奏するのは、大と玉田の二人だけです。二人が演奏を終えると、入院していた雪祈が舞台裏に姿を見せ、最後のアンコールは三人で演奏します。ここは映画のために足されたオリジナルの場面です。
二度目は、二人だけの演奏の場面で、ピアノの音が鳴らない空白を聞いてください。いつもそこにあった音がないことで、残りの二つの音の形がくっきり分かる。だからこそ、アンコールで三つ目の音が戻ってきたとき、それが一音目から分かります。一度目の私は泣いていて聞き逃しましたが、二度目は、その一音目を待ち構えて聞きました。解讀[1]
最後の場面、ずるいです。……私、ペンライト持ってたら振ってました。喜好
ジャズだから、たぶん振らないほうがいいかも。でも、気持ちは分かる。
観終わったあと、私はノートに三つの色を書きました。サックスは濃い青、ピアノは白に近い水色、ドラムはまだ乾いていない絵の具のような茶色。一度目は全部が一つの青に溶けて見えたのに、二度目は三色に分かれて見えました。分かれて見えたぶんだけ、重なったときの色が深くなった気がします。次に観るときは、どの色から聞き始めるかを決めてから座るつもりです。三度目も、きっと泣きます。喜好
二度目は、最後の「So Blue」の場面で、音が鳴っていない時間も聞いてみて。一度目に聞き逃した一音目が見つかります。