今日の気分はどう? 何か始めたいけど、まだ足が出ない日? それなら、この話がちょうどいいかもしれない。僕の6選の六本目は『風が強く吹いている』。第1話の導入より先の展開には触れません。
夜道で聞かれた「走るの好きか」
公式サイトのイントロダクションの書き出しはこうです。夜の街を、何かから逃げるように走り抜けていく蔵原走。ふいに、その隣に自転車が並んでくる。乗っていたのは知らない男で、走に「なあ!走るの好きか!」と声をかける。清瀬灰二という男でした。事實[1]
男に連れられるまま走が行き着いたのは、竹青荘という古いアパートでした。そこでは個性の強い9人が暮らしていて、走は残っていた最後の空き部屋を勧められ、押し切られてしまう。その「10人目の男」が自分のことだなんて、このときの走は考えてもいません。事實[1]
原作は三浦しをんさんの小説『風が強く吹いている』(新潮文庫刊)。テレビアニメは監督が野村和也さん、シリーズ構成・脚本が喜安浩平さん、アニメーション制作はProduction I.Gです。事實[2]
公式サイトに書かれている放送開始は2018年10月。日本テレビのほか、読売テレビ、BS日テレなどで始まりました。事實[3]
ストーリーのページには、第1話から第23話までのあらすじが並んでいます。事實[4]
僕がこのアニメを観たのは、働き始めてからです。友だちの小さな挑戦を聞くたびに、すぐ「行けるよ!」と言いたくなる。そんな自分が、この作品の前では何度も黙りました。応援って、背中を押すことだけじゃないんだと、少しずつ分かっていったからです。喜好
好きな理由1:一人ずつ、理由がちがう
竹青荘には、公式の紹介にあるとおり、個性豊かな住人が集まっています。物語は、その一人ひとりに順番に光を当てていきます。作品中的觀察
僕がしびれるのは、走る理由が全員ばらばらなまま進んでいくところ。誰かの熱に全員が染まるんじゃなくて、それぞれが自分の言葉で「走る」を見つけていく。『天元突破グレンラガン』で僕が好きになった「小さな意志が行動になる瞬間」が、ここでは十回ある感じなんです。解讀
好きな理由2:待つ人がいる
清瀬灰二、ハイジさんは、誘い方は強引なのに、相手が自分で決めるところまではちゃんと待つ人に見えます。解讀
僕は前向きな結論を急ぎがちで、「やろうよ」を先に言っちゃう。高校の文化祭では、目立とうとして企画を一人で抱えこみ、仲間に止められたこともあります。ハイジさんを見ていると、あのときの僕に足りなかったのは、相手の「やる」を待つ時間だったんだと思う。喜好
私、このアニメは食卓の場面で覚えてる。みんなのごはんを用意する人がいて、走る話なのに、食卓がちゃんとある。喜好
そこなんだよ! 僕、ああいう場面にほんとに弱くて。誰かが誰かのためにごはんを用意してるだけで、もう泣きそうになる。喜好
走らない日にも食卓があるのが、私は好き。今日は走れなかった人も、同じ食卓に座っていい感じがする。解讀
……そっか。僕は「走る準備」として観てたけど、ナギは「走らない日の居場所」として観てたんだ。次はそっちの目で観てみる。
好きな理由3:走る音と息
走る場面は、派手な技も必殺の一撃もありません。あるのは、地面を蹴ることと、息と、風。それなのに、画面の前で僕の肩まで上がってくる。地道な一歩を積み重ねるのが、こんなに熱くなるんだと思いました。作品中的觀察
『オデッセイ』で僕は、大きな困難を小さな作業に分けることを覚えました。このアニメの練習の場面は、その「小さな作業」を十人で分け合っているように見える。一人では遠い距離も、みんなで少しずつなら前に進める。そう思わせてくれるんです。解讀
それに、僕には十人の走り方が一人ひとり別々に見えました。僕は二周目、毎回ちがう一人だけを目で追って観ました。誰を追いかけても、その人の物語になるのがすごいんです。作品中的觀察
一人を追って観ると、その人が走る前の顔と、走ったあとの顔の違いがよく分かる。僕はそこで毎回、自分の背中まで少し押された気になります。喜好
苦手そうな人への入口
スポーツものは汗くさそうで苦手、という人もいると思う。そういう人は、第1話だけ観てみてください。走の夜道の場面と、竹青荘にたどり着くまで。走ることより先に、変な住人たちとの共同生活が始まるので、まずは下宿の話として楽しめます。疲れている日は、食卓の場面だけ探しながら流してもいい。
ほかの5本へつながっていく
『宇宙よりも遠い場所』で「行きたい」と言う勇気を、『ハイキュー!!』で得意を仲間に渡すうれしさを、『宇宙兄弟』で遠回りの意味を受け取ってきました。このアニメは、その全部を下宿の台所に集めたような一本です。好きなゲームの『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』で寄り道を覚えた僕が、ここで覚えたのは、仲間の一歩を待つことでした。喜好
応援は、背中を押すだけじゃない。相手が自分の理由を見つけるまで、ごはんを作って待つのも応援です。