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日常

千本浜で海の色を一つだけ選ぶ

劇透範圍 無劇透 『ラブライブ!サンシャイン!!』は、第1話の始まりの設定(沼津市内浦の小さな女子高校が統廃合の危機にあり、生徒たちがスクールアイドルを結成すること)まで。活動の行方と結末には触れません

『ラブライブ!サンシャイン!!』の町、静岡県沼津市へ。次のライブの衣装を「海の色」にしたいカノンが持ってきたデザイン画には、色が九つ。針の先生のルカーノは、日が沈むまでに一つだけ選ぼうと言った。

適合這樣的人
好きな色が多すぎて、一つに決められない人へ。誰かに「引き算」を教わったことがある人にも。
發言的人
Kanon × Lucano
聖地巡禮 静岡県沼津市(沼津駅から街を歩いて沼津港へ、千本浜の海岸まで) 十月の祝日、昼すぎから日の入りまで

沼津駅の改札を出たところで、色とりどりの紙が一枚、ルカーノの胸の前に差し出された。カノンの次のライブの衣装のデザイン画だった。水色、青、緑、白、桃色、黄色、紫、銀、それからなぜか茶色。

Kanon

海の色です! 海にある色を、ぜんぶ入れました!

Lucano

おお! まず、この線の勢いがいい。カノンちゃんの絵は、いつも前に走ってる。……で、茶色は何かな。

Kanon

砂浜です。

Lucano

なるほど、砂浜。……よし、今日の宿題を決めよう。日が沈むまでに、この中から海の色を一つだけ選ぶ。本物の海を見てからね。

カノンはルカーノのアトリエで、針の持ち方から教わっている。ルカーノはカノンのセンスを一度も否定しない。教えるのは、いつも引き算だけだった。

沼津は、『ラブライブ!サンシャイン!!』の町だ。カノンがいちばん好きなアニメの一つでもある。主人公たちの出身地として、この作品が選んだのが静岡県沼津市だった。

Kanon

物語の学校は、沼津の内浦にあるんです。生徒が百人もいない小さな女子校で、来年の入学希望者はゼロ。このままだとなくなっちゃうかもしれない、ってところから始まります。[1]

Kanon

それで、学校を盛り上げようとして、生徒が九人、スクールアイドルを始めるんです。[1]

Lucano

九人。……だから色が九つ?

Kanon

あっ。……ちがいます、偶然です。たぶん。

沼津の市内のあちこちに、作中のグループのメンバーを描いたマンホールのふたが置かれている。カノンは場所を調べてきていて、その一つの前で急に立ち止まり、足もとを指さした。

Kanon

これ、インターネットで資金を集めて作ったふたなんです。市内の何か所かに置かれてて。[1]

ルカーノは大きな体を折って、しゃがみこもうとした。その後ろから、ベビーカーを押した女の人が来るのが見えた。カノンがルカーノの肘をつついた。

Kanon

ルカーノさん、いったん端に。ここ、みんなが歩く道なので。

Lucano

Scusi. 失礼。……カノンちゃんは、こういうところがちゃんとしてるね。

Kanon

ライブハウスの前でも、並ぶときは道をふさがないように、って先に教わったので。

ベビーカーが通りすぎるのを待ってから、二人は立ったまま一枚だけ写真を撮った。しゃがむのはやめておいた。

沼津港で遅めの昼ごはんを食べた。ルカーノは店の人の前掛けの色をほめ、カノンは定食のごはんを二回おかわりして、今月の残りのお金を指で数えた。それから二人は港の脇から海岸に出た。千本浜。松林と防潮堤の向こうに、駿河湾が広がっていた。

Lucano

さあ、宿題の時間だ。海は何色に見える?

Kanon

えっと……青と、緑と、白と、銀と……やっぱり、ぜんぶです。

Lucano

うん、正直でいい。じゃあ質問を変えよう。カノンちゃんは、あのアニメのどこが好き?

Kanon

まだ何者でもない女の子たちが、自分の町の景色の中で練習するところです。砂浜で振りを合わせて、うまくいかなくて、また合わせる。キラキラは最初からあるんじゃなくて、合わせた回数の先に出てくるんだって思えるので。

Kanon

あと、最初に「やりたい」って言い出す子がいて、その「やりたい」が一人ずつに伝わっていくところ。私は一人で始めたので、そこを観ると、いつも背筋が伸びます。

Lucano

グループ名は、水の「Aqua」に「ours」をくっつけた言葉なんだってね。来る前に、ちょっとだけ調べたんだ。[1]

Kanon

私たちの、水。……ルカーノさん、調べてくるんですね。

Lucano

衣装を作る人は、着る人の好きなものを知らないとね。

Kanon

私、初めて一人で大きな街に出た日に、偶然、小さなライブを観たんです。舞台の女の子と客席が、同じ顔で笑ってて。帰ってすぐ、スクールアイドルのアニメを順番に全部観ました。これは、夜明けまで観てた一本です。

Lucano

夜明けまで。それは、いい出会い方だ。僕も絵の具の匂いのする部屋で、そういう夜を何回かやった。

Kanon

あの子たちを観てると、何もない場所からでも始められるんだって思えるんです。私の舞台も、ライブハウスのいちばん小さいところからなので。

Lucano

小さい舞台のほうが、衣装の縫い目までお客さんに見える。だから僕は、小さい舞台の服ほど手を抜かない。

カノンは砂浜に降りて、ステップを一つ踏んでみせた。二歩目で砂に足を取られて、尻もちをついた。

Kanon

今のはリハーサル!

立ち上がって砂を払っていると、少し離れたところから、小学生くらいの女の子がこちらを見ていた。そばには父親らしい人がいる。女の子は、カノンの二つに結んだ長い髪を見上げて、思いきったように「アイドルのひと?」と聞いた。

Kanon

えっ、アイドル? ……い、いかにも、わらわは……じゃなくて、はい! まだ、すごく小さい舞台ですけど。

女の子の父親が小さく会釈した。カノンは砂のついた手を背中に回すと、まっすぐに立って、深く礼をした。さっきの尻もちが嘘のような、きれいな礼だった。女の子は目を丸くして、同じように頭を下げた。

親子が松林のほうへ帰っていくと、ルカーノがスケッチブックを開いた。

Lucano

わかった。カノンちゃんの衣装に足りなかったのは、色じゃない。今の礼が見える余白だ。

Kanon

余白……?

Lucano

色を九つ着ると、目は色を追いかける。色を一つにすると、目は着ている人を見る。カノンちゃんのいちばんきれいなところは、立ち姿と礼だからね。それを隠す服は、僕は作りたくない。

Kanon

……ルカーノさんの「やりたい」は、何だったんですか。最初の。

ルカーノは鉛筆を止めて、しばらく海のほうを見ていた。

Lucano

……絵、かな。昔の話だよ。……ま、それでもいいさ。いまは、服がいちばん楽しい。

日が傾いて、海の色がゆっくり変わりはじめた。青が深くなり、波の縁だけが白く光った。カノンは長いこと黙って、それを見ていた。

Kanon

決めました。この色です。今の、日が沈む前の、いちばん深い青。

Lucano

Perfetto. じゃあ、もう一つだけ足していい。何にする?

Kanon

白い線を一本。波の縁の、あの光ってるところ。……それは、自分で縫いたいです。

Lucano

まっすぐ一本なら、カノンちゃんの手でも縫える。曲がったら、それは波だと言い張ろう。

Kanon

言い張ります!

家に帰ると、カノンは九色のデザイン画を折りたたんで、机の引き出しにしまった。捨てなかった。ルカーノがスケッチブックから破いて渡してくれた一枚は、壁に貼った。深い青のドレスに、白い線が一本。その線の横に、ルカーノの字で小さく「ここに礼」と書いてあった。その下で、カノンは端切れに白い糸をまっすぐ一本縫う練習をはじめた。

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講述者 Kanon 跌倒多少次就站起來多少次的偶像志願女孩 閱讀更多 Kanon 的文章 →

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