最後の一本は映画『ラ・ラ・ランド』。私の6選で、いちばん仕事の目で観てしまう作品よ。二人の恋がどうなるかは書かない。書くのは、踊りのこと。とくに、あの夕暮れの場面のこと。
劇場で、つま先が動いた
最初は映画館で観たの。冒頭から、客席でつま先が勝手にリズムを取ってた。隣の人に悪いと思って止めるんだけど、また動く。終わって外に出たら、夜の街の信号まで振付のきっかけに見えた。ダンサーって、ほんとうに面倒な生き物よ。喜好
日本での公開は2017年2月24日。配給のギャガの公式サイトでは、『セッション』を撮ったデイミアン・チャゼル監督の作品として紹介されています。事实[2]
公式サイトの紹介では、ロサンゼルスを、夢を叶えたい人たちが集まる街としています。そこで出会うのが、女優を目指すミアと、売れないジャズピアニストのセブです。事实[1]
同じ公式サイトの紹介では、セブをライアン・ゴズリング、ミアをエマ・ストーンが演じています。事实[1]
好きな理由1:プロじゃない二人の踊り
振り付けを担当したのはマンディ・ムーア、と公式サイトのプロダクションノートにあります。二人ともプロのダンサーではないので、込み入ったダンスを身につけるため、ムーアについて特訓する期間が設けられたそうです。チャゼル監督がムーアに伝えていたのは、ダンスに感情がきちんと伴っているかどうかが大事だ、ということだったとも書かれています。事实[1]
ここが、私がこの映画を何度でも観る理由。踊りがうますぎないの。もちろん、ちゃんと練習した体よ。でも、プロの踊りみたいに全部がそろってはいない。足がほんの少し遅れる、腕が少しだけ高すぎる。その小さなずれに、その人の気持ちが出る。感情が伴っているかが大事、って、私が生徒に毎回言ってることと同じなのよ。解读
好きな理由2:あの夕暮れ
夕暮れの丘の上で、二人が並んで踊りだす場面がある。空の色が少しずつ変わっていくなかで、最初はお互い気のないふりをして、靴を履き替えて、だんだん動きが合っていく。私は、あの「合っていく」過程が好きでたまらないの。作品中的观察
ペアで踊るとき、最初から息が合うことなんてないのよ。相手の重心を探して、間合いをはかって、少しずつ同じ呼吸になる。あの場面は、恋が始まる前の数分間を、踊りの「合わせ」そのもので見せてる。言葉より体のほうが先に本音をしゃべる、の見本みたいな場面。解读
先生、あの場面、何回観ても途中でカウントが分からなくなるんです。
分からなくていいの。数えるのはあと。まずは二人の肩を見てなさい。肩の高さがそろった瞬間が、気持ちがそろった瞬間よ。解读
……肩、ですね。ノートには書かないで、覚えておきます。
えらいわ。いまの、すごくいい一歩よ。
好きな理由3:ワンテイクへのこだわり
ワンテイクにこだわったのはチャゼル監督で、ダンスナンバーはなるべくそれで撮りたかった、と公式サイトにあります。冒頭のナンバーでは、渋滞で止まった高速道路の車から、乗っている人々が突然歌い、踊りだします。そのワンテイクのために、3か月のリハーサル期間を設けた、とゴズリングは振り返っています。事实[1]
ワンテイクって、踊る側からすると本当に怖いのよ。途中で一回でもつまずいたら、最初からやり直し。でも、切らずに撮るから、体の流れが途切れない。息が上がっていくのも、汗がにじむのも、全部そのまま映る。舞台に近い緊張が、画面に残ってる。あれは、準備をし尽くした人にしか撮れない画よ。解读
私の見方:夢と恋を両方抱える
この映画の二人は、夢も恋も手放したくない。欲張りよね。でも私は、その欲張りを責める気になれない。私も、踊ることと、母でいることと、自分の暮らしを、全部抱えたまま走ってきたから。どれかを下ろせば楽になるのは分かってる。それでも抱えていたいものがあるのよ。解读
それと、この映画は色がいい。衣装の色が、場面ごとにはっきりしてる。黄色、青、緑。夜の街の中で、ワンピースの色だけが浮かび上がる。振付師として言わせてもらうと、色のはっきりした衣装は、踊りの線をくっきり見せてくれるの。腕を伸ばしたときに、どこまでが体でどこからが空気か、ちゃんと分かる。解读
苦手そうな人への入口
ミュージカルは、急に歌いだすのが恥ずかしくて苦手、という人もいるわね。そういう人は、歌の場面を「この人の心の中が外にあふれた時間」だと思って観て。現実に歌ってるんじゃなくて、気持ちが大きくなりすぎて、体からはみ出してるの。そう思うと、急に歌いだしても照れずに観られるわよ。
それと、観るなら一度は、夕暮れの場面だけ音を消して観てみて。足の運びと肩の高さだけで、二人の距離が縮まっていくのが分かるから。踊りは、言葉のいらない台詞なのよ。喜好
ほかの5本とのつながり
『冬のソナタ』で恋は姿勢に出ると知って、『ロングバケーション』でうまくいかない時期の過ごし方を知った。『愛の不時着』と『プリズン・ブレイク』では、誰かを選ぶことの重さを、『ペントハウス』では、選ぶ気持ちが欲に振り切れたときの怖さを観た。そのぜんぶを、踊りという私の言葉でもう一度見せてくれたのが、この映画。だから6選の最後に置いたの。喜好
数えるのはあと。肩の高さがそろった瞬間を、見逃さないで。