早朝の公園。犬の散歩の人や、体操をするお年寄りがちらほらいる時間です。いつものベンチで文庫を開いていたルカの前で、ランニング中のアカリが足を止めました。「また本?」。ルカは本を閉じて、昨夜観た映画の話をすることにしました。
第3巻からの映画
おはようございます、アカリ様。今日は本ではなく、昨夜観た映画のことを考えていました。お話ししてもよろしいでしょうか。ストレッチのあいだだけで構いませんので。
いいよ。短めでね。
映画『ゲド戦記』の原作は、アーシュラ・K・ル=グウィンさんの小説『ゲド戦記』。なかでも中心になったのは第3巻「さいはての島へ」です。宮崎駿さんの絵物語『シュナの旅』も、下敷きとして使われました。スタジオジブリの作品で、公開は2006年7月29日、配給は東宝。監督は宮崎吾朗さんで、脚本は吾朗さんと丹羽圭子さん。上映時間は115分です。事实[1]
第3巻から? 1巻からじゃないんだ。
はい、私も最初はそこで少し戸惑いました。ですが、途中の巻から入る映画だと思うと、かえって肩の力が抜けたのです。最初から全部を知っていなくても、旅には加われるのだと。喜好
公園と美術館を経て
監督の宮崎吾朗さんは、信州大学農学部の森林工学科の出身です。大学を出てからの仕事は、公園や緑地を設計すること。建設コンサルタントの環境デザイナーとして、東京にある児童公園や総合公園も手がけました。事实[2]
え、公園? じゃあ、この公園も?
申し訳ありません、そこまでは存じません。確かめていないことは、言わないでおきます。ただ、ここのベンチで読んでいると、誰かがこの木の位置を決めたのだな、と思うことはあります。喜好
1998年にスタジオジブリへ入社した吾朗さんは、三鷹の森ジブリ美術館では総合デザインを担当しました。吾朗さんが初代館長を務めたのが、三鷹市立アニメーション美術館。就任は2001年10月1日、退任は2005年6月23日です。『ゲド戦記』は、アニメーションとしても劇場用映画としても初めての監督作品です。事实[2]
ジブリの中で開かれた映画化の研究会に、吾朗さんは最初、美術館の館長として顔を出していました。気づけば会を動かす側に回っていて、研究会を作った鈴木敏夫プロデューサーは、アニメの現場の誰かではなく吾朗さんに監督を任せようと考えはじめたといいます。事实[1]
公園つくって、美術館やって、それから映画。寄り道多くない?
私には、その寄り道がいちばん心に残りました。短い仕事をつないで暮らしていると、途中から別の仕事に移る人の話に、どうしても目が行くのです。前の仕事で覚えたことは、たぶん消えずに次へ持っていけるのだと思いたくて。解读
それなら分かる。私も学校変わったけど、道場で覚えたことは全部持ってきた。途中からでいいじゃん。喜好
作物と羊のある暮らし
アレンはエンラッドの王子で、17歳。国を離れてさまよっていたところを大賢人ハイタカに救われ、そのままハイタカの旅に加わります。事实[1]
テルーを一人で育てているのは、テナーです。ハイタカとは昔からの知り合いで、彼のことをよくわかっている人でもあります。二人は作物を作り、羊を飼って暮らしています。事实[1]
旅の話なのに、羊。
はい、羊です。私は、旅の物語に、毎日同じ世話をして暮らしている家が出てくると、それだけで少し安心するのです。どこで眠り、何を育てて食べているのか。住む場所の話に、どうしても目が行くものですから。喜好
羊って毎朝世話するんでしょ。早起きの家だね。私と同じ。
本物のコオロギの声
世界観に寄せる工夫として、この映画ではヨーロッパイエコオロギの本物の声を、サンプリングして使っています。また、背景の絵は、クロード・ロランの作風をモデルに描かれました。事实[1]
コオロギまで本物? 誰が気づくの、それ。
気づかなくても、そこにいる。私はそういう作り方が好きです。自然環境を学んだ人が監督をした映画で、虫の声まで本物が使われていると知って、少しうれしくなりました。誰が選んだのかまでは、存じませんけれど。生き物の声は、間違えずに置いてあげたいものですから。解读
じゃあ私、観るとき虫の声だけ聞いてる。
朝の公園で観るように
初めての方への入口は、急がないことだと思います。二時間近くありますので、一度に観られなければ、途中で止めて構いません。止めたら、外の音を少し聞いてから、続きをどうぞ。喜好
上映時間115分
それから、旅をする二人だけでなく、作物と羊の世話をしている人たちの手もとも見てください。私は、そちらを見ているうちに、自分の朝の過ごし方を少し考えました。喜好
分かった。週末に観る。……ルカさんも、たまには走れば? 本ばっかり読んでないで。
お誘いはうれしいのですが、私はこのベンチで、アカリ様が一周して戻ってくるのを待つ係にさせてください。……あ、いえ、お急ぎのところ、長くなってしまいました。
長いのはいつものこと。じゃ、もう一周してくる。
映画『ゲド戦記』は、ル=グウィンの原作の主に第3巻「さいはての島へ」をもとにしている。監督の宮崎吾朗さんは、公園の設計や美術館の館長を経て、この作品で初めて監督を務めた。