日曜の昼、東京の河川敷。草野球の試合を終えたカオルが土手に腰を下ろすと、上のほうから大きな声がしました。用事で上京したゲンが、駅から道に迷いに迷って、試合がちょうど終わったところにたどり着いたのです。
負けた日の土手で
ゲンさん、遅いわ。もう終わってもうた。負けたで、一点差。
『キャプテン』は、ちばあきおさんの野球漫画です。『月刊少年ジャンプ』に1972年から1979年まで連載され、1977年には小学館漫画賞を受けています。事实[1]
アニメは1980年のテレビスペシャルから始まり、1981年に映画、1983年には全26話のテレビシリーズが放送されました。監督はいずれも出崎哲さんです。事实[2]
おう、負けた顔だな。そういう日は、これの話でもするか。船の上で何べんも観たやつだ。喜好
『キャプテン』か。ええやん。今日の私に、ちょうどええ。
名門のユニフォームの転校生
主人公の谷口タカオは、野球の名門・青葉学院から、墨谷第二中学に転校してきた少年です。名門のユニフォーム姿を見た野球部員たちは、谷口をレギュラーだったのだと思いこみ、大きな期待を寄せます。ところが谷口は、青葉では二軍の補欠でした。事实[1]
言い出せねぇんだよな、これが。みんなの顔見たら、言えなくなる。解读
わかるわ。期待って、勝手に背中に乗ってくるもんな。私も、子どもの頃に投げるのも打つのも任されとったから、マウンドに上がる前から肩が重かったわ。喜好
監督がいないチーム
でもな、ゲンさん。この漫画のいちばんの「へえ」は、そこやないねん。
墨谷二中の野球部には、監督も部長もいません。公立で、もともと弱いチームだったこともあり、私立の強豪のような専任の監督がいないのです。そのため、練習の中身も、試合の作戦も、キャプテンが監督の役目まで背負うことになります。事实[3]
分からん! 監督なしで、誰がサイン出すんだ?
キャプテンや。打順決めて、守る場所決めて、練習の時間も決める。自分も試合に出ながらやで。うちのチームは監督がおったから、私はそのぶん投げることだけ考えとったらよかった。それがどんだけ楽やったか、この漫画で知った。喜好
船で言うと、船長が網も引くようなもんか。……そりゃ、くたびれるな。解读
せやねん。題名の「キャプテン」って、ただの肩書きやなくて、その子が全部抱える役目のことなんやと、私は思う。解读
しかも、その役目を背負うのが、元は補欠の坊主ってわけか。
そう。いちばんうまい子が引っぱるんとちゃう。だから、読んでるこっちも、自分がやらされたらって考えてまうねん。解读
見習いがいきなり舵を持たされるようなもんだ。俺なら膝が震えるぞ。解读
主人公がかわっていく
この漫画は、主人公がずっと同じではありません。谷口が卒業すると、次のキャプテンが新しい主人公になり、連載が続いていきます。作中でキャプテンを務めるのは、全部で4人です。事实[1]
主役が卒業しても終わらねぇのか。船は残って、乗るやつがかわる。いいじゃん、それ!喜好
同じ作者の野球漫画『プレイボール』も、1973年から1978年まで『週刊少年ジャンプ』で並行して連載されました。事实[1]
キャプテンがかわるたびに、チームの性格もかわるねん。誰が継ぐかはここでは言わんとくけど、前のキャプテンのやり方を、次の子がどこまでまねて、どこで捨てるか。私はそこ見てまう。解读
次の試合のために
最初の補欠の坊主が、キャプテンを渡すとこまで行くんだろ。……いかん、目から潮が出てきた。
まだ一話目の話しかしてへんで。……はい、ティッシュ。
……拭いたぞ。で、今日の負けは誰が持って帰るんだ。
みんなで半分こや。草野球やもん。……ゲンさんにも少し持ってもらお。お昼、そこの土手で食べて帰ろ。
監督のいないチームでは、キャプテンが作戦も練習も背負う。主人公が卒業するたびにその役目が手渡されていく漫画だと知ると、『キャプテン』という題名の重さが変わって見える。