今日は『ダークナイト』の二周目の話をします。6選では執事の背中だけを語りましたが、ここでは結末まで踏みこみます。展開にかかわるところは、中盤と結末の二段の折りたたみに分けました。観終えてから開いてもらえたらうれしいです。画面の向こうの話し相手は、魔王さんです。
休みの日の大きな画面で
二周目は、休みの日によその映画館へ「偵察」に行ったときに観ました。古い作品をかけ直す回で、平日の昼なのに、客席は半分ほど埋まっている。初めてこの映画を観たのは子どものころ通っていた映画館の、客席の端で、あのころの私はまだ制服姿でした。今回は大人の切符で、いつものようにいちばんうしろの列へ。喜好
副支配人になってから観直すのは、これが初めてでした。一周目から長い年月があいて、そのあいだに私は、客席に座る側から、客席を整える側に回っています。その目で観直すと、一周目には気づかなかった「場面の並べ方」ばかりが目に入りました。喜好
結末を知っている人の多い客席は、一周目の客席と、息をのむ場所が少し違います。知っている人は、驚く場面そのものより、その少し手前で静かになる。この先に何が来るかを体が覚えていて、先に身構えてしまうからだと思います。その「手前の静けさ」を一つずつ拾っていくと、この映画がどう組み立てられているのかが見えてきました。作品中的观察
念のため、基本のところだけ。アメリカン・コミックの『バットマン』をもとにした実写映画で、監督はクリストファー・ノーランさん。脚本はノーランさんと、ジョナサン・ノーランさんの二人です。前の作品『バットマン ビギンズ』の続きにあたります。事实[1]
余である。そなたの言う映画、余も観た。玉座の間に板を一枚だけ立ててな。止めては戻し、止めては戻しで、観終えるのに三晩かかった。
三晩、ですか。止めながら観ると、どこで止めたくなりました?
申してやろう。第一に、最初の銀行。第二に、取調べの部屋。第三に、川の上の夜である。喜好
私が客席で、みんなの息が止まるのを聞いた場所とほとんど同じです。家で一時停止したくなるところで、劇場の人は息を止めているんですね。解读
そなたは、劇場で何を観ておったのだ。画面か、客か。
両方です。……正直に言うと、二周目は客席のほうを多めに。前の列の頭がどこで止まるか、誰がどこで小さく笑うか。結末を知っている人の笑い方は、一周目の人の笑い方と少し違います。笑ったあとに、すぐ黙るので。作品中的观察
……ほう。客の顔を観て、筋を読むか。余の城の物見と同じ仕事であるな。
最初の銀行で人数を数える
二周目にまず見てほしいのは、冒頭の銀行の場面です。道化のマスクをかぶった男たちが、マフィアのお金を預かる銀行に押し入る。一周目は、手際のいい強盗の場面としてあっという間に流れていきます。二周目の私は、男たちの人数を数えながら観ていました。数が一人ずつ減っていく、そのたびに何が起きているかを。作品中的观察
中段为止冒頭の場面点击展开
男たちは、それぞれの役目を終えるたびに、仲間の手で消されていきます。最後に残ったのは一人だけ。そのマスクの下にいたのがジョーカー本人で、彼はマフィアのお金を奪って去っていく。
つまりこの映画は、最初の数分で「仲間を裏切ったほうが得をする」という形を、客席の前にまず置いてしまうんです。事实[1]
余はそこで一度目を止めた。兵を使い捨てにする将は、たいてい補給で負ける。だが、あの道化はそもそも補給を考えておらぬ。最初から、誰ひとり連れて帰る気がないのである。解读
連れて帰る気がない……。強盗の段取りの話としては観ていましたけど、そういう見方はしたことがありませんでした。
劇場の客席で比べると、この冒頭の違いはもっとはっきりします。一周目の客席は、まだ笑っていられる。手際のよさに、くすっと息をもらす人もいます。二周目の客席には、その笑いがほとんどありませんでした。マスクの男が一人いなくなるたびに、前の列の頭がほんの少しずつ沈んでいく。結末を知っている人には、この冒頭はもう、ただの強盗の場面には見えていないのだと思います。作品中的观察
魔王さんの言い方を借りると、この冒頭は、誰も連れて帰らない者の名乗りのようなものです。私はこの名乗りを、最後の夜まで頭の隅に置いて観ていきました。解读
仮面と名乗り
二つ目は、名乗りです。バットマンの正体は、大富豪のブルース・ウェイン。ブルースは、正面から悪と戦う地方検事のハービー・デントこそ街に必要なヒーローだと考えて、自分はバットマンをやめることまで考えています。事实[1]
そこへジョーカーが、バットマンが素顔をさらすまで人を殺しつづける、と街を脅しはじめる。一周目の私は、ブルースがいつ仮面を外すのか、その一点で手に汗をにぎっていました。二周目に見えてくるのは、この映画では、名乗りを引き受ける人が毎回ちがう、ということです。事实[1]
名乗りの話で、もう一人見ておきたいのが警部補のジム・ゴードンです。ゴードンは、ジョーカーの一味に市長が狙われたとき、市長をかばって前に出る人として描かれています。事实[1]
ゴードンは、自分が誰であるかを大きな声で言う人ではありません。名乗るかわりに、体のほうを先に出す。二周目の私は、ゴードンが画面の端にいるとき、誰と誰のあいだに立っているかが気になりました。作品中的观察
名を名乗らずに、主の前に出る者か。余はああいう臣が欲しい。……城には、口の多い者しかおらぬのでな。喜好
中段为止中盤の展開点击展开
人々の前で「自分がバットマンだ」と名乗り出たのは、ブルースではなくデントでした。デントは捕まり、護送されていく。その車列をジョーカーが襲い、駆けつけたバットマンとゴードンがジョーカーを捕まえます。ゴードンはこの手柄で本部長に上がる。
二周目に見ていたのは、デントが名乗り出る直前のブルースの顔でした。名乗りを先に取られた人の顔として観ると、一周目とはまるで違う表情に見えました。事实[1]
结局·真相結末側の展開点击展开
後半、ウェイン産業の顧問弁護士のリースが、バットマンの正体に気づいて、それを公表しようとします。すると、あれほど正体を明かせと迫っていたジョーカーが、今度はリースを消せと街をあおって、それを止めにかかる。
ジョーカーは、バットマンがいなくなることを望んでいなかった、と読めます。正体を明かせという脅しは、本当に正体を知りたかったわけではなく、バットマンに何を選ばせるかの試しだったのかもしれません。二周目は、ジョーカーが「仮面を外せ」と言う場面を、この後半の場面と並べて観てください。有依据的推测
余は城で、名乗りを偽る者を何人も見てきた。……皆は笑うがな。名乗りとは、軽く扱うと必ず高くつくものである。解读
高くつく、ですか。二周目は、誰がどの名を口にするか、一つずつ気をつけて聞いてみます。解读
取調べの部屋
三つ目は、魔王さんが二度目に止めた取調べの部屋です。ジョーカーとバットマンが一対一で向き合う場面。二周目の私は、ジョーカーが何を話して、何を話さないかに耳をすませていました。話している中身だけでなく、話す順番にも。作品中的观察
その前に、一人だけ確かめておきます。レイチェル・ドーズは、ブルースの幼なじみで、ブルースとデントのあいだで気持ちが揺れている人として描かれています。事实[1]
结局·真相結末側の展開点击展开
ジョーカーは、レイチェルとデントがそれぞれ別の場所に捕らえられていると明かします。バットマンはレイチェルのほうへ、ゴードンたちはデントのほうへ急ぐ。けれど、ジョーカーが教えた行き先は逆でした。バットマンが着いた先にいたのはデントで、レイチェルは助からなかった。デントは爆発で顔の半分にひどいやけどを負います。事实[1]
结局·真相結末側の読み解き点击展开
レイチェルが出てくる場面で、彼女がブルースとデントのどちらの近くに立っているかを見ておくと、この取調べでジョーカーが突いてくるのが、まさにこの三人の並び方だと分かります。
二周目にこの場面を観ると、取調べそのものが、冒頭の銀行と同じ作りに見えてきます。ジョーカーは自分では選ばない。二つの行き先を渡して、相手に選ばせる。しかも選んだ結果が、選んだ人の思ったとおりにならないように、先に入れ替えてある。
バットマンがどちらを選ぶかは、ジョーカーにはたぶん見えていました。だから、選ばせる前に札をすり替えておけた。ジョーカーが二つの行き先を口にするとき、どちらを先に言っているか。私は次の回で、そこを確かめるつもりです。有依据的推测
余はここで、板を伏せた。ならぬ、ならぬぞ……と言いながらな。あの道化は、勝ちたいのではない。相手の心を折りたいのである。解读
劇場では、この場面のあと、客席が長いあいだ動きませんでした。前の列の頭が、一つも揺れない。二周目に同じ客席にいて、また同じ静けさが来たのが、私には少しこわかったです。作品中的观察
コインの裏と表
四つ目は、デントのコインです。この映画には、デントがコインを投げてみせる場面が何度か出てきます。二周目は、コインが画面に映るたびに、それが誰の手にあって、投げたあと誰が何を決めたかを数えていくと、面白いことに気づきました。作品中的观察
中段为止コインの仕掛け点击展开
デントのコインは、じつは両面とも表になっている作りものでした。投げる前から、出る面は決まっている。運に任せたように見せて、本当は自分で決めている人。それが、前半のデントです。事实[1]
结局·真相結末側の展開点击展开
爆発のあと、デントのコインは片面が焼けただれ、表と裏のある一枚になります。そこからのデントは、レイチェルの死にかかわった人たちへの仕返しを、相手を撃つかどうかまで、そのコインの出た面に任せていく。事实[1]
结局·真相結末側の読み解き点击展开
両面が表だったころのデントは、運に見せかけて自分で決めていました。片面が焼けてからのデントは、自分で決めることをやめて、本当に運に渡してしまう。同じ一枚のコインが、前半と後半で、正反対の使われ方をしています。
冒頭の強盗たちは、自分の得のために仲間を消しました。後半のデントは、決めること自体をコインに預けて人を撃つ。どちらも、自分で引き受けることから降りた人に見えます。二周目は、デントがコインを投げる手もとと、そのときの顔を、前半と後半で見比べてください。解读
王の目で申せば、コインに物を決めさせる者は、長ではない。余はああいう小道具が嫌いである。……だが、嫌いなものほど、よく描けておる。解读
嫌いなのに、よく描けている、ですか。
うむ。敵の陣を褒められぬ将は、敵の陣を読めぬ。余は嫌いな者ほど、目を離さずに観ることにしておる。喜好
私は、コインが宙にある一瞬、客席の音がすっと消える気がしました。二周目は、その短い間を耳で数えながら観ていました。喜好
お金の行方
五つ目は、お金の行方です。冒頭でジョーカーは、マフィアのお金を持ち去りました。ふつうの強盗の話なら、物語はそのお金をどう使うかで進みます。二周目は、あのお金がいつ、どこで、どうなるのかを目で追っていました。作品中的观察
结局·真相結末側の展開点击展开
ジョーカーは、マフィアのお金を預かっていた金庫番のラウを連れ出し、山のように積まれた札束に火をつけます。ラウごと燃やしてしまう。事实[1]
補給を持たぬ将の、極みであるな。余の城であれをやったら、じいやが寝込む。解读
劇場で言えば、売り上げの金庫をまるごと放り出すようなものです。……想像しただけで、胃が痛くなりました。
お金の行方を知ってから冒頭に戻ると、銀行の場面の見え方がもう一度変わります。あの強盗は、お金を手に入れるための場面というより、お金のために仲間を裏切る人たちを、客席に見せるための場面だったのではないか。そう思って観直すと、銀行の床に散らばる札の一枚一枚まで、少し冷たく見えてきました。有依据的推测
第一に糧を奪い、第二に、その糧を糧として扱わぬ。では、あの道化は何が欲しいのか。余が思うに、人がどちらを選ぶかを、目の前で眺めることだけである。解读
眺めるだけ、ですか。……それなら、少しだけ客席に似ています。でも、客席にいる人は何も選ばされません。そこがいちばん違うところだと思いました。解读
お金の行方から逆にたどると、取調べの部屋での話も、ジョーカーにとっては同じ種類のものだったのかもしれません。人に何かを選ばせて、それを眺める。冒頭の強盗は、その最初の一回だった。二周目は、ジョーカーが誰かに何かを「選ばせる」場面に、心の中で目印をつけながら観ていました。一つ見つけると、ほかの場面まで同じ形に見えてきます。有依据的推测
川の上の夜
六つ目が、魔王さんが三度目に止めた、川の上の夜です。私は、冒頭の銀行で数えた人数を頭に置いたまま、この夜に入りました。作品中的观察
结局·真相結末の展開点击展开
人を乗せた二隻のフェリーに、爆弾が仕掛けられます。一隻には市民、もう一隻には囚人。真夜中までに、片方がもう片方を犠牲にしなければ両方とも爆発する、とジョーカーは告げます。けれど、どちらの船の人たちも、相手を殺すことを選びませんでした。
その同じ夜、バットマンはジョーカーを追いつめますが、命までは奪いません。ジョーカーはそのあとで、自分の切り札はデントだった、と言い残して警察に引き渡されます。事实[1]
结局·真相結末の読み解き点击展开
この映画は終わり近くで、冒頭とほとんど同じ問いを、もう一度客席の前に置きます。今度は強盗たちではなく、ふつうの人たちの前に。
冒頭の強盗たちは、仲間を消すほど得をする場所で、そのとおりに仲間を消しました。船の上の人たちは、相手を消せば助かると言われて、消しませんでした。同じ形の問いを渡されて、答えが逆になっている。二周目にこの二つを並べると、映画の最初と最後が、一つの問いの表と裏になっているように見えます。
デントのコインと、二隻の船も、向かい合っています。決めることをコインに預けた人と、相手を消せる立場に置かれたまま、消さないことを選んだ人たち。どちらも、自分の手に何かを持たされた人の話です。解读
見たか! 余はあそこで寝椅子から立ち上がって、マントで板を払い落としたぞ。喜好
劇場では、あそこで客席の空気が大きく動くのが分かりました。誰も声は出さないのに、前の列の肩がいっせいに動く。二周目は、その瞬間を、息をひそめて待っていました。作品中的观察
真夜中が近づくあいだ、この映画は、船の上の時間と、別の場所での戦いを、同じ夜の出来事として進めていきます。二周目は、どちらか一方だけに目を奪われないで、船の場面に戻るたびに、甲板の人たちの顔がどう変わっているかが気になりました。一周目は、時計が進むことばかり気にしていました。二周目は、時計を見ている人の手のほうが気になりました。作品中的观察
私がいま考えつづけている問いに、同じ暗闇で知らない人と観ることは何を変えるのか、というものがあります。船の上の人たちも、たまたま同じ船に乗り合わせた、知らない人どうしです。誰も相手の顔をよく知らないまま、同じ時計を見て、同じ時間を過ごしている。劇場の客席と、少しだけ形が似ています。だからなのか、二周目のこの場面では、画面の中の船と、自分のいる客席とが、ふっと重なって見える瞬間がありました。解读
撮影で本当に起きたこと
ここで少しだけ、劇場の人間らしい話をします。この映画には、本当にやって撮った場面があります。市街地で、本物の十八輪の大きなトレーラーを宙返りさせる。ノーラン監督は、それをCGにせず、実際の通りで撮ることを選んだそうです。事实[2]
ある大きな建物が爆発する場面も、取り壊すことが決まっていた古い建物を使って撮られています。事实[2]
それから、この映画はアカデミー賞で音響編集賞を受けています。事实[1]
二周目にこういうことを知って観ると、客席の反応の理由が、少しだけ分かる気がしました。トレーラーが返る瞬間、客席ではいつも、前の列の何人かが背もたれから体を起こします。本物の重さのあるものが動くと、観ている側の体が先に気づいてしまう。音も同じで、この映画は、静かになる場所と鳴る場所の差がとても大きい。大きい音の上映で観ると、その差がそのまま客席の息になって返ってきます。二周目は、トレーラーの場面の直前の、エンジンの音が近づいてくる数秒を、耳だけで追ってみてください。解读
その建物の場面では、一周目の私は口を開けたまま観ていました。二周目は、爆発そのものより、その直前に客席がいっせいに静かになる、その一瞬を待っていました。知っている人ばかりの客席でも、あの静けさは一周目と同じように来ます。本当に起きたことを撮った場面は、何度観ても体が慣れないのかもしれません。喜好
最後の数分の背中
最後は、終わりの数分です。ここは、6選で書いた「うしろで支える人」の話とも少しつながります。二周目は、誰が何を引き受けて、誰が何を手放すかだけを見ていました。作品中的观察
结局·真相結末点击展开
デントは、レイチェルの死をゴードンの落ち度だと責めて、ゴードンの家族を人質にとります。コインを投げて、皆の運命を決めようとする。そこへバットマンが飛びかかってゴードンの息子を救い、デントは落ちて死にます。
バットマンは、デントの死とデントのしたことの責めを、自分が負うと決めます。デントは街の英雄として送られ、バットマンのほうは警察に追われる身になって去っていく。事实[1]
结局·真相結末の読み解き点击展开
ブルースは物語のはじめで、デントのような表に立つヒーローがいれば、自分は仮面を置けると考えていました。終わってみると、表に立つ英雄の名はデントのもとに残り、ブルースのほうは、仮面をつけたまま、もっと深い夜へ戻っていく。中盤でデントがバットマンの名を借りたように、最後はバットマンがデントの罪を借りていきます。名前と罪が、二人のあいだを行って戻った。
一周目の私は、表に立つ人と、うしろで支える人は別の人だと思っていました。二周目は、一人の人が、表の名を他人に渡して、自分はうしろに回る瞬間があるのだと思いました。執事の背中を目で追っていた私が、この最後の数分でも泣いてしまうのは、たぶんそのせいです。解读
長く生きると、黙って持ち帰るものが増える。……あれは、重い。解读
魔王さんがそんなに短く話すの、初めて聞きました。
……咳払いである。続けよ。
结局·真相結末の読み解き点击展开
最後の数分には、ゴードンもいます。中盤で本部長に上がった人が、終わりには家族を人質にとられる側に立たされる。表に立つ仕事を引き受けると、そのぶん家の者が危なくなる。ゴードンが本部長になる場面と、最後の数分のゴードンを続けて思い出すと、同じ人の背中が、ずいぶん小さく見えました。解读
劇場では、あの場面でスマホの光が一つもつかないんです。みんな、自分の手を膝の上に置いたまま動かない。私は毎回、その暗さに助けられています。作品中的观察
结局·真相結末の読み解き点击展开
ここからは、私の仕事に引きつけた話です。副支配人になってから、自分のせいではないことで、お客さんに頭を下げる場面が増えました。上映の機械の不具合も、売店の行列も、館内で起きたことは全部、劇場の側の責任として引き受ける。誰がしくじったのかは、その場では言いません。言えば私は少し楽になりますが、そのぶん、劇場の明日の客席が少し欠けるからです。この映画の最後の数分を二周目に観ていて、規模はまるで違うのに、その感じを思い出していました。誰かの名前を守るために、自分の名前のほうを汚れたままにしておく。表に立つ人のうしろで場を整える、と前に書きましたが、うしろに回る理由は、ときどきそういうものなのだと思います。解读
二周目の入口
私の二周目の目印を、展開に触れずに並べておきます。冒頭の銀行で、マスクの男たちの人数。人々の前で誰かが名乗り出る直前の、ブルースの顔。取調べの部屋で、ジョーカーが何から口にするか。デントのコインが画面に映るたびの、手もとと顔。お金の行方。川の上の夜の、真夜中が近づく時計。そして最後の数分で、誰の名が表に残るか。それから、名乗る人の陰で、体を先に出すゴードンの立ち位置も。どれも、一周目には流れていった数秒です。作品中的观察
劇場では、画面と一緒に、ほかのお客さんの頭の動きが見える席が私は好きです。結末を知っている人たちが、どの場面の手前で静かになるか。その静けさの位置が、そのままこの映画の仕掛けの位置になっていました。喜好
またどこかでかけ直す回があったら、魔王さんの席を一つ空けておきますね。来られなくても。
城は空けられぬ。……だが、その席には、余の名を書いておけ。今宵はもう一度、銀行から観る。
二周目は、冒頭の銀行でマスクの男たちを数えるところから。最後まで観てから戻ると、あの数秒の見え方が、少し変わっていました。