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My six

『女神降臨』で素顔を見せる相手を数える

就職活動のころ、朝は面接用の顔を作り、帰りの電車でそれを外していた。そのころ眠る前に開いていたのが、メイクで顔を変える女の子の縦読み漫画。ミナトが目で追っていたのは恋の行方ではなく、彼女の素顔を知っている人が誰か、でした。

For people who
人に見せる顔と、家での顔の差に疲れている人へ。恋愛ものは自分の読むものじゃない、と思っている人にも。
Spoiler range
No spoilers 縦読み漫画『女神降臨』(原作のウェブトゥーン)の始まりの設定(動画でメイクを覚えた女子高生が学校で美人と呼ばれるようになり、素顔を隠しながら暮らすところ)まで。誰と結ばれるか・登場人物の過去・結末には触れません
Who's talking
Minato × Hayate
Types of claims: Fact Observation from the work Grounded inference Interpretation Preference
Contents 8 sections, ~5 min
  1. 面接の顔を外す帰り道
  2. 動画でメイクを覚えた女の子
  3. 先生が動画だった
  4. 送るたびに変わる顔
  5. 手順として読む
  6. 素顔を知っている人の数
  7. 恋愛ものを避けてきた人へ
  8. 数字が上がる話と顔が変わる話

メイクで顔を変える女の子の縦読み漫画。これが二本目。恋の行き先は書かないでおく。俺がこの漫画を読みながら、ずっと数えていたものの話をする。

面接の顔を外す帰り道

就職活動の時期、朝は鏡の前で面接用の顔を作っていた。髪を整えて、口の端を少し上げて、声を半音高くする。会場を出ると、駅のトイレの鏡の前で、それを一個ずつ外す。帰りの電車でイヤホンを片耳だけ入れて、縦読みを開く。そのころ読んでいたのが、これ。Preference

メイクで顔を変える話だと聞いて、最初は俺の読むものじゃないと思っていた。開いたのは、題名が切り抜きで何回も流れてきたから。一話目を送り終えたところで、毎朝俺がやっていることと、手順が同じ話だと気づいた。Preference

就職先が決まった日の夜も、この漫画を一話だけ読んだ。うれしいとか、ほっとしたとかより先に、もう面接の顔を作らなくていい、と思った。そのとき画面の中の主人公は、まだ毎朝、鏡の前で顔を作っていた。俺のほうが先に一つ降りた気がして、少し申し訳なかった。Preference

動画でメイクを覚えた女の子

作者はyaongyi。韓国のウェブトゥーンで、連載はもう完結している。主人公は、ネットのメイク動画を繰り返し観て、メイクの腕を身につけた女子高生。それで学校でいちばんの美人と呼ばれるようになるけれど、素顔のほうは誰にも知られたくない。ところが、その素顔を知っている男の子がいる。始まりはそういう話。Fact[1]

日本語で読める版では、登場人物の名前が日本の名前になっている。主人公は谷川麗奈、素顔を知ってしまう転校生は神田俊。俺は日本語版から入ったから、元の名前は、ずいぶんあとに調べて知った。同じ話に、名前が二つずつある。元をたどる人間には、それだけで一晩いられる話。Fact[4]

先生が動画だった

最初に目が止まったのは、主人公がメイクを覚えた先生が、動画だってところ。俺も、知りたいことはだいたい動画で覚えてきた。誰かの手元を、止めて、戻して、もう一回再生する。そのやり方で自分の顔を作れるようになった人の話だと思うと、他人事に見えなかった。Interpretation

誰かに直接教わったわけじゃない。画面の向こうの、名前しか知らない人の手つきを、何十回も真似した結果の顔。そう考えると、あの顔は作り物というより、練習の記録に見えてくる。Interpretation

送るたびに変わる顔

二つ目は、縦に送る漫画ならではの、顔の見せ方。紙の見開きなら一度に目に入る変化が、縦だと上から順番にしか来ない。顔が変わる場面では、変わる前と変わったあとを、自分の親指で切り替えているような感じがした。俺には、そこがいちばん縦読みらしい場面に見えた。Preference

手順として読む

四つ目は、メイクが手順として描かれていること。何をどの順番で、どこに塗るか。そういう場面が出てくると、俺は化粧をしないのに、作業の手順書を読むみたいに親指を止めてしまう。仕事でも、手順が書いてある紙を見ると安心する。順番どおりにやれば、誰でも同じところまでは行ける。そう言ってもらえている気がする。Preference

ただ、手順で作れるのは顔までで、その顔でどこへ行くかは手順に書いてない。主人公が作った顔のまま教室に入っていく場面で、俺はいつも少しだけ息を止める。面接の会場のドアの前に立ったときと、同じ止め方だった。Interpretation

素顔を知っている人の数

三つ目が、俺がいちばん気にしていたところ。この漫画を読みながら、俺は、主人公の素顔を知っている人を数えていた。学校の大勢は知らない。知っている人は、ほんの少し。その少ない人の前でだけ、主人公の肩から力が抜けるように、俺には見えた。誰とどうなるかは、読むならここでは言わない。Interpretation

Hayate

素顔を見せられる相手、ですか。僕はレースの日、ヘルメットをかぶると少し楽になるんです。顔が見えないから、緊張しているのも見えなくて。

Minato

隠すと楽になるほうか。俺は、見せられる相手のほうしか数えてなかった。

Hayate

でも、ヘルメットを脱いだあと、最初に顔を見せる人は決まっています。メカニックの人です。

Minato

了解。次に読むとき、隠す場面のほうも数えとく。

ハヤテに言われて、読み方が一つ増えた。メイクは隠すためだけの道具じゃなくて、外に出るための道具でもある。隠しているから、出ていける。面接の朝の俺の顔も、たぶんそうだった。作った顔で会場に入れたから、帰りの電車で素顔に戻るのが、少しだけうれしかった。Interpretation

恋愛ものを避けてきた人へ

俺は恋の話を読むと、誰と誰がどう並んでいるかを図にしてしまう癖がある。この漫画も、最初はそうやって読んでいた。図にするのをやめて、主人公が鏡の前に立つ場面だけを拾うように読み直したら、急に自分の話になった。恋の行方を追うより先に、鏡の場面を追う。俺はそっちの入り方で、最後まで読めた。Preference

それと、縦読みに慣れていない人は、最初の数話を通勤や通学の行き帰りの片道ぶんで区切ると、俺には読みやすかった。一話が短いから、駅に着くまでにちょうど一つの場面が終わる。降りる駅で画面を閉じても、続きがどこからか迷わない。Preference

数字が上がる話と顔が変わる話

一本目の『俺だけレベルアップな件』では、送るたびに窓の数字が上がった。この漫画では、送るたびに顔が変わる。どっちも、親指で下へ送るたびに、主人公が少しずつ別の人になっていく話で、俺はそれを同じ親指で読んでいる。六本目の『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公にも、人前に出るための、もう一つの名前がある。その話は、六本目のほうでする。Interpretation

素顔を知っている人を数えながら読むと、作った顔のほうも、少し好きになれる。

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