6選の五本目は『五等分の花嫁』です。戦記や歴史の話ばかりしている私が、と意外に思われるかもしれません。けれどこの作品は、私の6選に欠かせない一本です。誰と誰がどうなるかには、一切触れません。
一日の終わりに一本
見るのは、たいてい夜です。昔のアルバムを棚に戻して、部屋の明かりを一つ落としてから、一話だけ再生する。ほかの作品は何度も止めて考えながら見ますが、この作品だけは止めません。「この回は分析しません。今日はただ救われたいので」。自分にそう言ってから見始めるのが、いつのまにか決まりごとになりました。喜好
原作は春場ねぎさんの漫画です。講談社の書誌情報では、第1巻の発売日が2017年10月17日です。初出は『週刊少年マガジン』2017年の第36・37合併号からとされています。事實[1]
第1巻の紹介文によると、高校2年生の上杉風太郎は貧乏な暮らしをしています。そこへ舞い込んだのが、条件のいい家庭教師のアルバイトの話。ところが教え子は同級生で、しかも五つ子でした。まず取り組むのは、姉妹たちから信頼を得ることだ、と紹介文は書いています。事實[1]
好きな理由1:五人の選び方が違う
同じ家に生まれ、同じ顔をした五人が、それぞれ違うやり方で物事を選んでいく。私はそこに救われます。誰かが正しくて誰かが間違っている、という描き方ではない。五人それぞれに、その人なりの迷い方と、その人なりの一歩がある。見ていると、自分の選び方を責めなくてもいい気がしてくるんです。解讀
五人が同じ顔なのに見分けられるのは、髪型や服の違いだけじゃなくて、話すテンポとか、相手との距離のとり方が一人ずつ設計されてるからだと思う。誰と並んだときにどう変わるか、まで描き分けてる。解讀
……なるほど。見分けの設計ですか。私はただ「この子はこういう子だ」と感じていただけでしたが、その感じ方がどこから来ているのかを、レイさんは言葉にしてくれましたね。正確な見立てだと思います。
……今の、長かった? 分析しないで見てる人の前で、分析しちゃった。
いいえ。私が分析しないぶん、誰かがしてくれると、次に見るときの楽しみが一つ増えます。
好きな理由2:教える側も教わっている
家庭教師の物語なので、形の上では、教える人と教わる人がいます。けれど見ていると、教える側の青年のほうも、五人から多くのことを教わっていく。私は若い起業家の相談を受けることが多いのですが、相談を受けているつもりで、実は自分のほうが学んでいる日がよくあります。この作品を見ていると、そういう日のことを思い出して、少し笑ってしまいます。解讀
それから、テストの点や勉強の場面が、ちゃんと物語の中心にあるのも好きなところです。一夜で天才になる話ではない。一問ずつ、少しずつ積み上げていく。会社でも人でも、信頼はそういうふうにしか積み上がらないことを、私は失敗しながら覚えてきました。解讀
好きな理由3:五人そろうとにぎやか
五人がそろうと、とにかくにぎやかです。言い合い、笑い、すねて、また言い合う。紹介文にも「毎日がお祭り騒ぎ」とあります。静かな部屋で見ていると、画面の向こうの騒がしさが、ちょうどいい温度で部屋に入ってくる。大勢が動く物語が好きな私にとって、これは戦記とは別の意味での群像劇なのだと思います。喜好
白状すると、この作品を見て泣いたことが何度もあります。大きな出来事が起きる回ではなく、誰かがほんの少し勇気を出して、自分の気持ちを選ぶ回です。若いころの私は、恋愛や青春の物語を、どこか自分とは関係のないものだと思っていました。いまは違います。誰かが何かを選ぶ瞬間は、戦記の決戦と同じくらい、私の胸を揺らします。戦記と恋愛ものは、私の中では別の棚ではなく、同じ棚の隣どうしにあるのです。喜好
苦手そうな人への入口
恋愛ものは照れくさい、という人の気持ちはよく分かります。私もそうでした。最初は恋愛の行方を追わずに、五人のうち一人だけを決めて、その人が何を選ぶかだけを見てみてください。家庭教師と教え子の、信頼を少しずつ積み上げる話として見ると、ずいぶん入りやすくなります。疲れた夜に一話だけ、が私のすすめる見方です。喜好
ほかの5本へ
『機動戦士ガンダム』『銀河英雄伝説』『スター・ウォーズ』『三国志』。私の6選の半分以上は、人を率いる側の物語です。見ていると、どうしても考えてしまう。だからこそ、考えずに見る時間が要る。その時間をくれるのがこの作品と、もう一本、時間の流れを静かに感じさせてくれる『凪のあすから』です。喜好
考えすぎた日の夜は、分析しないと決めて一話だけ見る。救われたいと思うことを、恥ずかしがらなくていいのです。