映画『君の名は。』を最後まで観た人向けの、二周目の話よ。まだの人は、ここで閉じて。展開に触れるところは、押さないと開かない箱に畳んであるわ。聞き役はハル。この映画を私に勧めたのは、あの子なの。
すれ違いの名作の型
2016年に公開されたアニメーション映画よ。新海誠さんが脚本と監督を手がけ、制作はコミックス・ウェーブ・フィルム。物語の中心は、東京の少年・瀧と、飛騨地方の、山の奥にある田舎町に住む少女・三葉。二人に起きた「入れ替わり」と、1200年ぶりに地球へ近づいてくる「ティアマト彗星」の出来事が、物語の軸になっているわ。事實[1]
会いたいのに会えない。名前を知りたいのに分からない。これ、私が若いころに夢中だった恋愛ドラマの、いちばん強い型なのよ。一周目は、入れ替わりの楽しさに笑ってた。二周目は、最初から最後まで、すれ違いのドラマとして観たわ。解讀
母さんがアニメで泣いたの、僕は初めて見た。……言ったら怒られるから、言わないけど。
組紐で結んだ髪
宮水神社で巫女を務めているのは、三葉と妹の四葉。三葉の黒髪は、えんじ色の組紐でまとめてあるわ。事實[2]
私はまず髪を見るの。職業病ね。二周目は、三葉の髪がどう結ばれていて、どこで変わるかを、場面ごとに追ってみて。髪は、言葉より先に気持ちを語るのよ。喜好
中段為止中盤で明かされること點擊展開
東京へ向かった三葉の胸には、瀧がどんな態度をとるのかという期待と不安があった。でも瀧は、彼女のことを知らなかった。それが分かって町に戻った三葉は、髪を短くしていた。山を登っている途中で、瀧はふと思い出す。3年前、まだ中学生だった自分に、知らない女子高生が声を掛けてきたことを。あれは、瀧に会いたくて遠い東京まで来た三葉だったの。
一周目、私は髪を切った理由を、あとから知ったの。二周目は、短くなった髪で三葉が出てくる場面で、声が出そうになったわ。失恋を、台詞じゃなくて髪で見せる。ドラマでもなかなかできない、きれいな演出よ。解讀[3]
二人の日付
中段為止中盤で分かる日付のずれ點擊展開
入れ替わりは、三葉の側では2013年の夏から、瀧の側では2016年の夏から起こるようになる。
一周目の私は、二人が同じ時間を生きていると思って観てた。二周目は、この数字を頭に入れて観ると、序盤の何気ない会話が、少しずつかみ合っていないことに気づくわ。恋愛ドラマで言えば、片方だけが相手の未来を知っている状態。切ないけれど、とても強い仕掛けね。解讀[4]
二周目は、スマホの画面や日付が映る場面を、少しだけ注意して観てほしいの。一周目には背景だったものが、二周目には手がかりになるわ。解讀
結局·真相二周目の空點擊展開
やっとのことで着いた糸守町は、もう無くなっていた。3年前、「ティアマト彗星」のかけらが隕石になって落ち、町を直撃していたのだ。亡くなった住民は500人以上。その中に三葉も、三葉の家族や友人も含まれていたことが分かる。
二周目は、序盤の空の場面がまるで違って見えるわ。きれいな彗星を見上げる場面ほど、胸が苦しくなる。解讀[5]
あの夕暮れの場面
一周目の私は、この映画の山場を、二人の気持ちだけで観てた。二周目は、光の色と時間の流れに目を向けてほしい。夕暮れの光は、ドラマでも恋の場面の定番よ。解讀
結局·真相夕暮れの場面とその先點擊展開
糸守町には、黄昏どきを指す「カタワレ時」という呼び名がある。その時間にだけ、二人はお互いの姿を目にして、時を超えて初めてじかに話すことができる。忘れないように、と瀧は取り出したフェルトペンで先に三葉の手のひらに何かを書き、名前を書いておこうと言ってペンを渡す。ところが三葉が瀧の手のひらにペンを当てようとしたとき、カタワレ時は終わってしまうの。そのあと三葉は坂で転び、諦めかけて手のひらを開く。書かれていたのは名前じゃなかった。瀧が三葉に抱いていた想いの言葉。それを見て、三葉はもう一度町役場へ走り出すの。
ここはハルの好きな場面。私は二周目、書く側の瀧の手つきを見てた。名前の話をしたのに、手のひらに残っていたのは別の言葉。恋をしている人は、肝心なときに一番言いたいことを先に書いてしまうものなのかもしれないわね。そして、それがいちばん相手を走らせる。
ハルはここを、転んで、手を開いて、また走る場面として観てたそうよ。私は恋の場面として観てた。解讀[6]
僕はあそこ、立ち上がる場面として観てた。母さんは恋の場面として観てたんだね。解讀
どっちも正解よ。恋は、人を立ち上がらせるもの。……で、あなたは次の挑戦、準備はできてるの?
最後の場面
結局·真相エピローグ點擊展開
隕石は落ちたのに、死者はほとんど出なかった。物語はそこから8年後へ移る。入れ替わりの記憶は、瀧にも三葉にももうない。漠然と「誰か」を探す思いだけが、二人に残っている。ある春の日、並んで走る別々の電車の窓越しに、二人はお互いを見つける。どちらも次の駅で降りて走りだし、住宅地にある神社の階段でまた出会う。泣きながら、二人は相手の名前を聞くの。
二周目は、ほとんど死者が出なかった、という一言に耳を澄ませてほしい。一周目の数字と、二周目の数字が違う。私には、その違いの手前に、あの夕暮れのあとの三葉の走りがあるように見えるの。
最後の場面は、言葉より先に体が動く場面だと私は思う。名前を聞くより前に、二人はもう走り出している。私は振付師だから、走り出す瞬間で泣いたの。解讀[7]
二周目は、三葉の髪がいつ、どう変わるかだけを追ってみて。答えは、台詞より先に髪に出ているわ。