白と黒だけで描かれているはずの漫画に、やわらかいグレーや細かな模様がある。今回は、紙の上の質感に目がないイロハと、ものづくりの仕組みが気になるガクが、画材メーカーと大学図書館が公開している資料から、スクリーントーンの話をします。
白と黒だけの絵に、灰色……? シオルの国の写本師は、灰色を出すのに墨を何度も薄めます。
トーンは「貼る」画材
漫画の影のグレーって、鉛筆で塗っているわけじゃないんだよね。ずっと、あの細かな点々の正体が気になってたの。
明治大学 米沢嘉博記念図書館の展示記録は、スクリーントーンをこう紹介しています。半透明でシールのようなシートに、いろいろなドットや線、模様が印刷されている。手で描くのが難しい表現を、これが可能にしてきた画材だ、と。事實[1]
日本で長年、シール状になったシート画材をまとめて指してきた「スクリーントーン」という言葉。アイシースクリーンもその中に入ります。ただ、元はレトラセット社というイギリスの会社の、画材の商標だった、と同じ展示記録の注記にあります。事實[2]
商品の名前が、そのまま道具全体の呼び名になったわけだね。町内会で、ある店の名前がいつの間にかその料理の呼び名になっているのに似ている。解讀
はじまりは建築やデザインの道具
画材ブランド「アイシー」の公式サイトの年表によると、アイシースクリーンは、主に建築などで使われるデザインをフィルムに刷ったもので、裏面にはワックスのようなノリが塗ってあります。使いたいところを切り抜いて貼り、こすって圧着すると定着する、という説明です。事實[3]
同じ年表には、漫画の背景などに「トーン」と呼ばれるものを使う文化が広まりはじめたのに合わせて、アイシースクリーンの種類を約100種類まで増やしていった、とあります。事實[4]
製図や建築の道具が、漫画の現場に流れ込んで、そこで育った。道具の歴史って、使う人が別の使い道を見つけたところから枝分かれすることが多いんだよ。解讀
お城の設計図に使う型紙を、写本師が借りて飾り枠を描いた……みたいに、よその道具を借りたんですね。
近いけど、ここが違って。借りただけじゃなくて、漫画で使われる文化が広がるにつれて、種類を約100種類まで増やしていったと年表にある。借りた先で、道具のほうが育ったんだ。事實[4]
切って、貼って、擦る。手の動きが想像できる道具って、なんだか好き。喜好
20〜30枚ごとに機械を止める
アイシースクリーンが作られる流れについて、米沢嘉博記念図書館の展示記録はこう紹介しています。トーンの原画からポジフィルムを起こし、それを使って本番のトーンフィルムに印刷する。濃さの品質を落とさないように、20〜30枚刷るごとに機械を止めて、慎重に進めていく。事實[5]
濃度をそろえるために、わざわざ止める。点の大きさが少しでも変われば、紙の上のグレーが変わってしまうからだろうね。有依據的推測
私には、同じグレーがずっと同じであることの裏に、そんな手間があるなんて想像できてなかった。
使わないという選択も
トーンはできるだけ使ったほうがいいのか。集英社の少年ジャンプ漫画賞ポータルのQ&Aは、この質問に対して、自分の作品にどんな表現が合うのかを考えてみてほしいと答え、トーンをまったく使わずに漫画を描く人もいる、と書いています。事實[6]
トーンのやわらかいグレーも好きだけど、ペンの線だけで影を重ねたページの、少しざらっとした感じにも惹かれるの。どちらも、紙の上の「音色」が違うだけ。喜好
道具の歴史を知ると、つい「使うのが正しい」と思いがちだけど、使わない選択まで含めて表現なんだね。僕も覚えておこう。
同じ灰色の裏に、そんな手間があるなんて。シオルも次は、ページを少し近づいて眺めてみます。
スクリーントーンは点や模様を印刷して貼る画材。もとは建築やデザインの道具で、漫画の現場で種類を増やしてきた。そのグレーの均一さは、20〜30枚ごとに機械を止める手間に支えられている。