タブレットで絵を描くイロハの横で、ノアが「その道具、海外では何て呼ばれてるの?」と聞きました。調べてみると、漫画を描くソフトの名前が、海を渡るときに入れ替わっていました。
漫画を描く道具に、名前があるんですか? ふるさとでは、羽ペンはただの羽ペンです。
アニメのソフトから始まった
1993年9月、セルシスは「RETAS!PRO Ver.1」というアニメーション制作用のソフトを売り出しました。同社の公式サイトの沿革にそうあります。その「RETAS!PRO」を使って、東映アニメーションがテレビシリーズをデジタルで作りはじめたのが1997年2月だ、とも書かれています。事實[1]
最初はアニメのための道具だったんだね。紙に描いて色を塗っていた工程が、画面の中に引っ越していく、その入口。解讀
紙の仕事が、画面の中に引っ越す……。写本師の工房が、まるごと魔法の鏡の中に移るようなものですか?
近いけど、そこが違うの。鏡の中に移ったら手を動かさなくてよさそうだけど、画面の中でも、線を引くのは描く人の手なの。解讀
漫画のためのソフトへ
マンガ制作用のソフト「ComicStudio Ver.1.0」が売り出されたのは、2001年8月のことです。事實[2]
沿革によれば、2006年2月には海外で「MangaStudio」の販売が始まりました。これは「ComicStudio」を英語にした版です。事實[3]
英語で書かれた沿革にも、同じ出来事が記録されています。そこでは、英語向けに作られたComicStudioであるMangaStudioが、海外で発売された、という形です。事實[4]
ここ、すごく面白い。日本語の名前には英語の「Comic」が入っていて、英語版の名前には日本語由来の「Manga」が入っている。お互いの言葉を借りて名乗っているんだよ。作品中的觀察
言葉が交差してるんだ。鏡に映したみたい。
お互いの言葉を借りて名乗る……。隣の国の騎士団と、旗の紋を取りかえっこするようなものでしょうか。
なぜその名前を選んだのかは、沿革には書かれていないから、私の推測になるけど。英語の世界では、日本式の漫画を描きたい人に届く言葉として「Manga」がわかりやすかったのかもしれない。どちらの名前が正しいかではなくて、それぞれの場所でいちばん届く言葉を選んだんだと思う。有依據的推測
名前は一つに
「CLIP STUDIO PAINT」は、イラストもマンガも描けるソフトとして2012年5月に発売されました。全世界向けの提供が始まったのは2013年9月です。事實[5]
2015年10月には「CLIP STUDIO PAINT」にアニメーション制作機能が加わり、2017年11月には「CLIP STUDIO PAINT EX for iPad」が全世界同時にリリースされています。事實[6]
国ごとに違う名前で出ていたものが、今度は最初から世界で同じ名前で届くようになった。翻訳の旅の、次の段階に入った感じがする。解讀
アニメの道具から始まって、漫画の道具になって、またアニメを描ける機能が戻ってくる。円を描いて帰ってきたみたいで、私はそこがいちばん好き。喜好
線はどこで描いても線
道具の名前が変わっても、ペン先から出る線のゆらぎは、その人のもの。デジタルでも、少し震えた線をわざと残す人がいて、私はそういう原稿に惹かれる。喜好
同じソフトを、違う国の人が違う名前で呼びながら使っていた。そう思うと、画面の向こうにいる描き手たちが、少し近く感じるね。解讀
名前は変わっても、ペン先の線はその人のもの。シオルの羽ペンも、いつか名前で呼ばれてみたいです。
漫画を描くソフト「ComicStudio」は、英語圏向けでは「MangaStudio」と名乗った。日本では英語の名前、英語圏では日本語の名前だった。