日曜の昼過ぎ、イトの家の縁側。剣道の稽古を終えて寄ったアカリが、シズカの握ったおにぎりを二つ目に取ったところです。庭ではシズカが洗濯物を取りこんでいます。イトの膝には、古本で手に入れた漫画が一冊。表紙を見たアカリが、先に口を開きました。
一年生しかいない学校
『天使なんかじゃない』は、矢沢あいさんが『りぼん』で描いた漫画です。連載は1991年に始まり、1994年まで続きました。単行本は全8巻です。事實[1]
舞台は、できたばかりの高校、聖学園。主人公の冴島翠は、その学校の第一期生、つまり最初の1年生です。翠は周りに推されて、生徒会の選挙に出ることになります。事實[1]
推されて出るの? 自分で決めてじゃなくて。私なら、出るなら自分で手を挙げる。喜好
推されて出るのも、ありだと思う。私は推されたら、たぶん断れない。断る言葉を探してるうちに、名前が黒板に書かれてる。喜好
ふうん。先輩がいない学校って、ちょっといいね。説明もなく決まってる決まりが、まだ一個もないってことでしょ。解讀
決まりがないのは、ちょっとこわいかも。何をしていいか、みんなの顔を見て決めることになるから。私だったら、最初の一週間はずっと周りを見てる。喜好
私は最初の日に、自分から誰かに話しかける。人見知りだけど、先に動いたほうが楽。新しい場所は、だいたいそれでなんとかなった。喜好
立候補した人の中に
名前の並んだ立候補者の中には、須藤晃もいました。リーゼント頭で目立つ男の子で、翠が気にしていた相手です。選挙の結果、晃が生徒会長に、翠が副会長に選ばれ、ほかの三人と合わせた五人が生徒会の役員になります。事實[1]
リーゼントで生徒会長、いいじゃん。見た目で決めつけられそうな人が、選挙に出てるの、私は好き。喜好
私が気になるのは、五人っていう数。先輩がいない学校で、最初の生徒会が五人だけ。決めることが、たくさん五人に回ってきそう。喜好
五人なら、稽古の組と同じくらい。少ないほうが、筋の通らないことはすぐばれる。解讀
私は、五人がそろってるコマで、誰が誰のほうを見てるか探しちゃう。話してる人より、聞いてる人の顔。始まったばかりの学校の五人だから、そこがいちばん面白いと思う。解讀
編集者のひとこと
この作品の始まりには、編集者とのやりとりがありました。矢沢あいさんは『りぼん』の編集者から、女の子のキャラクターにもっと魅力がほしい、と求められていたのです。事實[1]
そうして描かれた翠は、明るく、学校の人気者です。周りの生徒たちからは「天使」と見られています。事實[1]
言われたから変えたの? 理由も聞かずに従った、ってだけなら、私はあんまり好きじゃない。喜好
言われて、考えて、描いたんだと思う。私も、部活で「もう一枚」って言われると腹立つけど、描き直したほうが顔がよくなる。解讀
理由があって直すなら、文句ない。稽古でも、なんで直すのか言ってくれる人の言うことは聞ける。喜好
人気者の隣の席
みんなに天使って言われるの、私なら困る。そう見られたら、ちょっとでも機嫌が悪い日、顔に出せなくなる。喜好
人気者の隣にいるのも、けっこう大変なんだよ。私、道場でそれ見てる。周りが勝手に期待して、本人は笑ってるしかない。解讀
だから私は、翠の隣の人の顔も見る。人気者を見てる人の顔って、四コマに描くと、本人より面白くなることがある。喜好
1994年には、グループ・タックが作ったOVA(ビデオアニメ)も出ています。事實[1]
動くほうも、いつか見てみたい。でも先に紙。止めて、翠の顔を一枚ずつ見てから。喜好
じゃあ、読み終わったら貸して。選挙のとこだけでいいから。五人がそろうところまで、一気に読む。喜好
最初から貸す。推されるとこ、飛ばしたら怒る。
……分かった。礼が先、ね。最初のページから読む。
できたばかりの学校で、周りに推されて選挙に出た1年生と、先輩のいない五人の生徒会。『天使なんかじゃない』は、最初の一ページから全部が「一期目」の学校の話です。