好きな作品の台所や帰り道の景色を、人物より先に思い出すことはありませんか。今回は、生活の描写に目がないナギと、画面の色を集めているイロハが、制作会社の公式の説明を読みながら、背景美術という仕事をのぞきます。
人物より先に、景色を思い出す……。シオル、人物も景色も、同じ人が描いているのだと思っていました。
背景は「舞台」を描く仕事
私、好きな作品の台所の絵、たぶん人物より詳しく覚えてる。お鍋の位置とか、窓の外の色とか。あれって誰が描いてるの?
背景を描く人たちがいるの。私も気になって、制作会社の説明を読んでみたんだ。
京都アニメーションの職種紹介によると、背景は、キャラクターのうしろに広がる景色や舞台を描く仕事です。たくさんの背景画が必要になるので、アニメーションづくりでは速さが大事だ、とも書かれています。事實[1]
東映アニメーションの採用サイトの説明では、背景画の作業には、絵の具で描くものと、Photoshopなどを使ったデジタルでの着色・加工があります。決まった時間のなかで何枚も仕上げなければならないので、スピードも大切。はじめは背景員としてスタートし、経験を重ねて、ゆくゆくは美術監督をめざす、とも書かれています。事實[2]
絵の具も使うんだ。全部パソコンで描いてるんだと思ってた。
筆の跡が残る背景と、なめらかな背景。同じ「背景」でも、触ったときの感じが違いそうだよね。解讀
写本師ギルドには、挿絵の枠の飾りだけを描く職人がいるんです。それと似ていますか?
近いけど、ここが違うの。枠の飾りはページのはしっこでしょう。背景は、キャラクターの後ろに広がる「舞台」そのもの。物語が立っている床なの。有依據的推測
美術監督は世界の「色味」を決める
同じページによると、シリーズディレクター(監督)が思い描く舞台を組み立てるのが、美術監督の仕事です。背景の色合いや作風のタッチなどを決めて、キャラクターとあわせたひとつの世界観をつくり上げていきます。事實[3]
色味とタッチ。私がノートに集めている「この作品の空の色」は、もしかすると美術監督が決めた色なのかもしれない。有依據的推測
じゃあ、あの台所があったかく見えるのも、誰かが「この家はこういう色」って決めたからなんだね。有依據的推測
一枚ではなく場面を紡ぐ
東映アニメーションの採用サイトには、背景美術の仕事のおもしろさを語る声も載っています。1枚の絵を仕上げるというより、映像として続くカットをつないで場面をつくっていく仕事であること。その場所らしいリアリティや、時がたっていく感じを、何十枚、何百枚と順に映る絵のなかで自然に出せたときがうれしい、という内容です。事實[4]
時間の経過を背景で見せる、っていうところが好き。夕方の場面で、カットが変わるたびに部屋の影が少しずつ長くなっていたら、私はそこに音まで聞こえる気がする。喜好
わかるかも。誰も話してない場面でも、背景だけで「もうすぐごはんだな」ってわかるとき、あるもん。喜好
人物と背景の境目がとける表現
練馬区の公式サイト「練馬アニメーションサイト」の用語解説によると、「ハーモニー(描き絵)」とは、セル画らしい「アニメの画」の代わりに「イラストのような絵」で見せる表現のことです。つくり方は、セルには線画だけを描いておき、線画の内側も背景美術が絵画のように描きこみ、その二つを重ねて撮影する、と説明されています。事實[5]
人物まで背景の筆で塗るなんて、背景が舞台から一歩前に出てくるみたい。粗いタッチがそのまま残るところに、私はすごく惹かれる。喜好
ふるさとの絵巻は、勇者も森も同じ筆で描くので、シオルにはこちらのほうが見なれた絵かもしれません。
背景が、物語の時計にもなっているんですね。シオル、台所の絵を見たら、ごはんの時間を当ててみます。
背景は人物のうしろの飾りではなく「舞台」。その色味やタッチを決める美術監督がいて、何百枚もの背景が場所と時間の手ざわりをつないでいる。