これは、漫画『Paradise Kiss』を最終巻まで読んだ人のための、二周目の案内です。まだ読んでいない人は、ここで閉じて一巻からどうぞ。あのアトリエの扉を初めて開ける時間は、一度しかないからね。展開と結末に触れるところは、全部クリックしないと開かない箱に入れました。
一周目の僕は紫と一緒に迷っていた
高校の美術室で初めて読んだとき、僕は紫と一緒に迷っていました。受験か、アトリエか。画家を目指していた僕には、紫の迷いがそのまま自分の迷いに見えた。だから一周目は、ほとんど紫の顔しか見ていなかったと思う。喜好
服の仕事を始めてから読み直したら、今度はページの端の手ばかり目に入るようになった。ビーズをつまむ指、メジャーを持つ手、型紙を引く鉛筆。二周目は、その手の持ち主を一人ずつ追いかける旅です。解讀
読み直す前に知っておくと楽しいこと
『Paradise Kiss』の連載は、ファッション誌『Zipper』の1999年5月号に始まり、2003年5月号で終わりました。『ご近所物語』の続きにあたる作品で、前作の登場人物も何人か引き続き出てきます。作画はアシスタントを使わず、Macintoshでの画像処理をふんだんに取り入れて行われたそうです。事實[1]
アシスタント抜き。これを知ってから読み直すと、あの服の描きこみの量に、ため息が出ます。あのフリルもチェックも、アシスタントなしで一人で描かれたんです。解讀
ページから型紙が起こせるくらい描いてある理由が分かりました。描いている人が一人だから、服の構造が最後までぶれない。有依據的推測
実和子のお姉さんが、前作『ご近所物語』で主人公だった実果子です。本作の実果子は、作中の「Happy Berry」というブランドで社長とデザイナーを兼ねる立場で登場します。事實[1]
つまりアトリエの学生たちのすぐそばに、自分の店を持った先輩がいる。二周目は、学生の夢と、もう店を回している大人の現実が、同じページに並ぶところも見てほしい。独立した身には、そこがいちばん沁みます。解讀
アトリエの四人の役割
矢澤芸術学院の服飾科にいるジョージ、実和子、嵐、イザベラ。この四人がパラキスです。デザイナー志望のジョージを中心に、縫製は嵐と実和子が受けもつ。イザベラの目標はパタンナーで、ジョージがつくる服の型紙を自分で引くことを夢だと話します。アトリエにしている元バーは、ジョージのおじさんのものです。事實[1]
二周目は、私はイザベラしか見ていませんでした。勝手な読みですけど、デザイン画は描いた人の夢だけど、パターンは、その夢を誰かの体に合わせて現実にする仕事です。イザベラの夢は、ジョージの夢を誰よりも正確に読むことなんだと思う。……今の、長かった?解讀
ちょうどいい長さだよ。僕の店で君が型紙の角を直してたとき、いつもそういう顔をしてた。
一周目の僕は、ジョージの美意識にくらくらしていました。二周目は、そのジョージのそばにいるイザベラの手もとを見てほしい。華やかなデザイン画の一枚うしろに、黙って線を引く人がいる。服は、その二人がいないと立ち上がらないんです。解讀
紫の指先と呼び名
高校三年生の紫は進学校の生徒ですが、手先は思いのほか器用。ビーズをドレスのパーツに縫いとめる作業を手伝うこともあります。「キャロライン」や「キャリー」は、実和子とイザベラが紫を呼ぶときの名前です。事實[1]
二周目は、紫が針を持っている場面を探してください。モデルとして服を着る子が、服を作る側の机にも座っている。それから呼び名。アトリエの中では、紫は別の名前で呼ばれる。名前も一枚の衣装なんです。誰がどの名前で紫を呼ぶか、ページごとに数えてみると、紫がどこに居場所を感じているかが見えてきます。解讀
中段為止中盤の展開(家出まで)點擊展開
受験が迫っているのにパラキスの面々とつきあっていることを、母の保子にとがめられ、紫は勢いで家を飛び出してしまいます。嵐が学校の近くのアパートの部屋を貸してくれて、紫はアトリエで過ごす毎日にのめりこんでいく。その間ずっと紫を気にかけていたのは、同級生の浩行でした。
二周目は、家出のあいだの紫の姿に注目してほしい。一周目、僕はアトリエに入りびたる紫を恋の勢いだと思っていました。二周目の僕には、紫が自分の体と時間を少しずつ自分のものにしていく過程に見えました。
それから浩行。一周目は「真面目な同級生」としか見ていなかった。二周目は、彼が登場するコマの、紫との距離を見てください。僕には、彼がいつも少し離れたところから紫を見ているように見えました。
結局·真相結末點擊展開
やがて紫は母と仲直りし、高校を卒業することを条件にモデル事務所へ入って、モデルとしてやっていくと決めます。紫とジョージは、お互いのために別々の道を選ぶ。デザイナーになるためにパリへ渡るジョージは、それまでに作った服を紫に残していき、イザベラは就職先が決まっていたにもかかわらず、パリへ発つジョージについていくと決めます。10年後、紫は浩行と婚約しています。それまでの日々を支えたのはジョージが残していった服で、紫はそれを励みに仕事に向き合ってきました。最終回は単行本に入れる際に加筆修正され、連載のときには明かされなかった紫の婚約相手や、パラキスの面々のその後が描かれました。
二周目にここまで来ると、ジョージがそれまでに作った服が、全部違う意味を帯びてきます。一巻から読み直すと、僕には彼の作る一着一着が、いつか手渡される荷物の中身に見えてくる。服は、作った人がいなくなったあとも残るものです。着る人の体に寄り添って、作った人の代わりに、そこにいる。
そしてイザベラ。ジョージの服のパターンを引くのが夢だと言っていた人が、本当にその夢のほうへ一緒に旅立つ。二周目の僕は、恋の結末より、この同行のほうで胸がいっぱいになりました。デザイナーの隣に、型紙を引く人がいる。パリのアトリエでも、きっと同じ机の配置なんだろうなと想像してしまう。
紫が服を励みに仕事を続けた十年を思うと、僕はいつも自分の店の服のことを考えます。僕の作った一着も、どこかで誰かの励みになっていたらいい。……ま、それを確かめる方法はないんだけどね。
二周目の僕の見方
一周目は恋の漫画でした。二周目は、服を作る人たちの漫画になった。私はそっちのほうが好きです。喜好
僕もだよ。三周目は、実和子と嵐の縫製の手もとでいこう。主役の一着の裏で、いちばん長く針を持っているのはあの二人だから。解讀
二周目は一巻から。ジョージが服の話をするたびに、イザベラがどこにいて、手もとで何をしているかを見てみて。