TVアニメ『四月は君の嘘』を観直しました。一周目の私は、演奏の場面になるたびに、音に体ごと持っていかれていました。二周目は、色のほうを見ます。モノトーンだった世界に色がつく話だと分かっているからこそ、その色がどこで濃くなり、どこで薄くなるのかを追ってみたくなったのです。結末にふれるところは畳んであります。まだ観ていない人は、開かずにおいてください。
二周目を始める前に
原作は新川直司さんの漫画です。TVアニメはフジテレビの「ノイタミナ」枠で、2014年10月から2015年3月にかけて2クール放送されました。監督はイシグロキョウヘイさん、シリーズ構成と脚本は吉岡たかをさん、アニメーション制作はA-1 Picturesです。演奏のモデルとなるアーティストには、ピアノに阪田知樹さん、ヴァイオリンに篠原悠那さんが迎えられています。事實[1]
主人公の有馬公生は、かつて神童と呼ばれた少年です。母が亡くなってから、演奏している自分のピアノの音が耳に届かなくなりました。14歳の4月、ヴァイオリンを弾く宮園かをりの演奏に触れて、母を失ってからずっとモノトーンだった公生の世界に、色が戻りはじめます。第1話の題名は「モノトーン・カラフル」です。事實[1]
イロハが色を追うなら、私は、言わなかったことを数えてみる。この作品、題名に嘘って入ってるから。
うん、お願い。私はまた、演奏の場面で人の顔を見落とすと思う。
髪の色が教えてくれること
アニメ版では、物語が進むにつれて、かをりの髪の色が少しずつ変わっていく演出がされています。事實[1]
一周目の私は、これにまったく気づきませんでした。光の当たり方のせいだと思っていたのかもしれません。二周目は、第1話の桜の下の髪と、第2クールの場面の髪を、頭の中で並べてみてください。台詞が何も言わないうちから、色が先に話している。私はこの作品のいちばん静かな伏線だと受け取りました。解讀
中段為止髪の色の変化(第2クールまで)點擊展開
かをりの髪は、序盤は鮮やかな金色です。それが、体の具合が悪くなっていくにつれて、淡い色へ移っていきます。
二周目は、明るく笑っている場面でも、髪の色がどうなっているかを見比べてみてください。台詞とは別に、色が何かを知らせていないか。私はそこを探しながら観ました。解讀[1]
友人Aという呼び方
かをりが公生につけた呼び名は「友人A」。扱いはぞんざいで、自分の伴奏をしなさいと言いつけたりもします。でもその乱暴さの向こうで、かをりがしようとしているのは、公生をもう一度音楽の世界へ戻すこと。第2話の題名も「友人A」です。事實[1]
名前で呼ばないのって、距離をとっているようにも、距離を決めかねているようにも聞こえる。私は、二周目のほうが後者に聞こえた。解讀
知っていた人の顔
公生の幼なじみの渡亮太は、公生がかをりに恋をしていることにも、かをりが公生を想っていることにも気づいている人物として紹介されています。同じく幼なじみの澤部椿は、音楽をきっかけにかをりと公生の距離が縮まっていくほど、自分だけ取り残されたような気持ちになり、やがて公生への特別な想いに気づいていきます。事實[1]
二周目は、四人が並んで歩く場面で、渡の顔を見てください。軽い冗談を言っているときほど、目線が少しだけ別の人に向いている気がします。椿のほうは、声が大きいぶん、黙った瞬間の空白が目立つ。スイはここで、ノートに二人の名前を並べて書いていました。解讀
音が聞こえなくなる場面
公生の母が亡くなったのは、公生が11歳の秋です。子どものころに飼っていた黒猫のチェルシーは、母へのトラウマを表すものとして、公生の夢や心に浮かぶイメージの中に何度も出てきます。事實[1]
演奏の途中で公生の耳から音が消える場面は、この作品の中で、私がいちばん耳をすませるところです。音楽が鳴っているはずの場面で、音が引いていく。二周目は、音が消える直前に何が画面に映っているかを確かめてみてください。水の中に沈むような画、黒い影。言葉より先に、絵が音を奪っていく順番が見えてきます。解讀
中段為止第2クールの展開點擊展開
最初に鳴る曲
第1話で流れるのは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番〈月光〉の第3楽章。第2話では、同じベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番〈クロイツェル〉から第1楽章が使われています。事實[1]
一周目の私は、曲名を気にせずに聞いていました。二周目は、序盤に流れる曲がピアノだけの曲から、ヴァイオリンとピアノの曲へ移っていく順番に耳を向けてみてください。一人で弾く音から、二人で鳴らす音へ。物語が公生をどこへ連れていこうとしているのかを、選曲の順番が先に言っているように私には聞こえました。解讀
曲の順番にも、言わずにおいた予告があるんだね。解讀
最終話の二つの音
第22話「春風」では、ショパンの「バラード第1番」が、横山克さんのヴァイオリン編曲で、ピアノとヴァイオリンの二つの音で流れます。事實[1]
結局·真相結末と手紙點擊展開
東日本ピアノコンクールの当日は、かをりが手術を受ける日でもありました。公生はかをりの幻と一緒に弾いて客席を引きこみますが、かをりは手術の最中に息を引き取ります。それから数日たって、かをりが生きているうちに書いた手紙が公生のもとに届く。5歳だった公生の演奏に心を揺さぶられ、公生に伴奏してもらいたくてヴァイオリンに転向したこと。そして、渡が好きだというのは嘘だったこと。手紙でそれが明かされます。自分はいずれいなくなる。その自分と椿のあいだに、わだかまりを残したくなかったから、かをりは嘘をついたのでした。
二周目は、第1話の桜の下にもう一度戻ってください。かをりが公生の前に現れた瞬間から、全部が、ずっと前から決めていた再会に見えてきます。最終話でピアノとヴァイオリンの音が一緒に鳴るのは、手紙に書かれた願いを、音のほうが先に叶えてしまう場面なのだと私は聞きました。解讀[1]
嘘は、誰かを遠ざけるためじゃなくて、誰も傷つけない距離をつくるためのものだった。私は、そう受け取った。解讀
私、最終話を観たあと、ノートに色の名前を書けなかった。二周目でやっと、金色って書けた。喜好
二周目を観終えた夜、私はノートの同じページに、一周目の色の名前と二周目の色の名前を並べて書きました。一周目は、鮮やかな色ばかり。二周目は、淡い色の名前のほうが多くなっていました。同じ作品でも、何を知っているかで、目に残る色が入れ替わる。それをこんなにはっきり感じたのは初めてです。喜好
二周目は、第1話の桜の下のかをりの髪の色を、ノートに一語だけ書いておいて。最終話のあとで読み返すと、その一語が手紙の最初の行に見えてきます。